古代ギリシアの哲学者・ソクラテスが残した「無知の知」という言葉は、物事の本質を捉えていることから、現代においても広く伝えられています。本記事では、ソクラテスの有名な言葉「無知の知」の意味や、思考、ソクラテスが残したビジネスに取り組む上で参考になる他の言葉について迫っていきます。
- 「無知の知」とは、「自分は知らないことへの自覚」
- 「自分は無知である」と認めることが、賢者への第一歩である
- ソクラテスは「シンプルに考える」や「目的と手段を履き違えない」など、現代でも耳にする教訓を生み出した
賢人・ソクラテスが放つ「無知の知」の本当の意味
西洋哲学を語るうえで外せない人物の一人、古代ギリシャの哲学者ソクラテス(紀元前469年~399年)。そんなソクラテスが残した名言の中でも有名なのが、「無知の知」という言葉です。学校の授業などで聞いたことがあるという方も多いのではないのでしょうか。
まずは「無知の知」の意味、どのような文脈で「無知の知」が生まれたのか、仕事にどのように活かせばいいのかを紹介します。
「無知の知」とは「無知であることを自覚する」という意味
「無知の知」とは、一言でいうと「自分が無知な状態であることを自覚する」ということ。
「無知であることを自覚する」ことが、真理を知るためのスタートラインである、ということがソクラテスの発言の意図でした。
一般的に、無知は恥であると認識されがちです。例えば取引先と商談をしているシーンで、相手の言っている専門用語が分からなかったとします。話を止めて、「その言葉はどういう意味ですか」と聞くこともできますが、取引先に「なんだ、そんなことも知らないのか」と思われるのが嫌で、質問ができなかった……。このような経験をされた方も多いのではないでしょうか。
これは、「知らないこと=未熟であること」という固定概念と、「未熟であると思われたくない」という見栄が連鎖して起きることで、無知であることを隠したい気持ちはよく理解できます。
しかし、ソクラテスが説いた「無知の知」には、自分が無知であることを認め、他者に聞くことが「より賢い人になる」ための第一歩だという意味が込められています。
人々が知っているという「思い込み」を崩した
ではなぜ、古代ギリシャから数千年にわたり、ソクラテスの「無知の知」は受け継がれてきたのでしょうか。
それは、ソクラテスは人々が知っているという「思い込み」を崩したからに他ならず、古代ギリシャにおいてソクラテスの考え方は非常に画期的だったからです。
人々がソクラテスに「まいってしまった」のは、人間的魅力からだけでなく、彼らの自信のあったことをうち崩し、何を求めるべきかという事について助言したからでした。
ソクラテスは人々が知っているという思い込みを跡形も無くくずし、助言を授けていった。
ソフォクレスは賢い。
エウリピデスはさらに賢い。(注:両名共に著名な悲劇詩人)
しかし、ソクラテスは万人の中で最も賢い。
ソクラテスが登場した古代ギリシャ時代は衆愚政治が横行していた時代。当時勢力を持っていた政治権力者は、相対主義哲学という「真理に絶対的なものはなく、真理とは相対的なものである」という考えとともにありました。
ものごとを絶対的な基準で決められないということは、「それっぽく正しいことを言った人が正解」になってしまうということでもあります。つまり簡単に説明すると、当時は「表面的に心地よいうわべの言葉を巧みに扱う政治家」がもてはやされていたのです。
ソクラテスは政治権力者が答弁している場に出向き、様々な問いを重ね、政治家が自分自身の発言を政治家自身が本当には理解していないことを明かしました。
民衆はソクラテスと政治権力者の討論を見て、「政治家は本当は無知だったのだ」という気付きを得て、「では本当に正しいこととは何なのか」と考えるようになります。
「無知であることをわかっている」ことで他者よりも「知恵者」になる
「無知の知」とは、ただ単純に「私、何も知らないので……」と謙虚であることではありません。
何が一番大事な事なのか、何が真理なのか、ということについては、私も、彼らも、ともに分かっていない。分かっていない、というのは同じである。ところが彼らは、分かったつもりでいる。しかし私は、分かっていない、という事を自覚している。とすると、私は、自分の“無知”を知っている、という点では彼らよりも知恵者であるらしい。
私たちが知的生産を行うとき、「固定概念にとらわれない」「思い込みを捨てる」「前提を疑う」といったことが大事だといわれます。つまり、「自分が知っていることや、行っていることが間違っているかもしれない」という、「自分が見えていない領域がある」と自覚することで、物事の本質により近づけるのです。
生産性が低い会議をしている当本人たちが、生産性の低さに気付いていない。人間関係がうまく行かないといっている人が、実は自分に原因があることに気付いていない。
このような、「この人たち、自分のことがちゃんと認識できていないなぁ」と思うようなシーンに心当たりがある方も多いはず。「自分が常に正しいとは限らない」という考えを念頭に置くことで、より広い視野で考えられるようになります。
「汝自身を知れ」も同じ意味として捉えられている
デルフォイにあるアポロンの神託所に、「汝自身を知れ」という言葉が刻まれています。この言葉も有名なので、聞いたことがある方もいるかもしれません。これはソクラテスが大切にしていた言葉で、「無知の知」と同じ意味を持ちます。
ソクラテスの明言から学ぶ!仕事で成果を出し続ける「賢人の思考」とは
無知であることをわかっているという点でソクラテスは、他の人より知恵者なのだと周りに思われていることに気付きました。ソクラテスの哲学からは、仕事面においても学ぶべき点が多々あります。
仕事で成果が出ない、仕事が上手くいかないと悩んでいる人にとって、哲学者・ソクラテスの考え方はヒントになるはず。それでは次に、ソクラテスの名言を紹介していきます。
ソクラテスの名言#1「無知の知」
先述したように、「無知の知」とは、「自分が知らないということを自覚する」という意味です。無知を自覚することで、固定概念や思い込みから開放され、より広い視野で物事を考えられます。
ソクラテスの名言#2「満足は富」
「満足は富に勝る」というフランスのことわざにもなっているこの言葉。富=金銭のみではなく、小さなことから幸せを感じられる人こそが、一番裕福といった意味を持ちます。
一番小さなことでも満足できる人が一番裕福である。何故なら満足を感じることが自然が与えてくれる富だからだ。
出典:ソクラテス 名言
仕事がうまくいかないとき、あなたは小さな幸せを感じることはありますか?多くの人は仕事がうまくいかないという大きな問題で頭がいっぱいになり、それどころではなくなるかもしれません。しかし、うまく行かないときにこそ、小さなことを大切にし、小さな幸せを感じることで心に余裕ができ、安定したパフォーマンスを発揮できるのです。
ソクラテスの名言#3「贅沢は貧困につながる」
満足は、自然の与える富である。
贅沢は、人間の与える貧困である。
出典:ソクラテス 名言
仕事で成果を出せば、今より多くのお金が手に入り、満足感を得られるかもしれません。しかし、お金を贅沢に使うのは貧困へと繋がる可能性がある、と名言の中でソクラテスは説いています。というのも、お金を得ることよりも、お金を維持することのほうが難しいからです。
現に、宝くじに当たった人が多額の借金を抱えるとも言われています。これは一度に多額のお金を得ると、それを一気に消費してしまうから。そこにはお金を維持するという思考が抜け落ちており、貧困になりうるのです。
ソクラテスの名言#4「シンプル」
賢者は複雑なことをシンプルに考える。
出典:ソクラテス 名言
賢者は複雑なことをシンプルに考えます。仕事で成果を出す人にも同様のことがいえ、複雑なことを非常にシンプルに考える傾向にあります。逆に仕事で成果を出せない人は、自分で勝手に複雑にしているということが多々あるのではないでしょうか。
どんな仕事もシンプルに、誰にとっても分かりやすいように、平易に捉えるスキルが仕事の成果に繋がります。
ソクラテスの名言#5「目的と手段」
生きるために食べよ、食べるために生きるな。
出典:ソクラテス 名言
「手段と目的を履き違えないように」。社会人を経験した方であれば、一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。ソクラテスは、生きることを目的、食べることを手段として、目的と手段を混同するなと名言の中で説いています。数千年前にすでに言われていたことなのですね。
「仕事で成果を出す」という観点でも目的と手段を混同しないというのは非常に重要です。
ソクラテスの名言#6「いかに富を使うか」
いかに多くの富を有するか、自慢する者が居ても、
いかに使うが分かるまで、彼を、誉めてはならない。
出典:ソクラテス 名言
多くの富を得たとしても、どう使うか、それがその人が知恵者かどうかを決めるとソクラテスは名言の中で説いています。ただ自分を満足するためにお金を使うのか、それとも他者のことを考えて使うのか。お金の使い方によって、関わる人々の質感や、そこから得られる金銭以外のリターンも変わってきます。
ソクラテスの名言#7「汝自身を知れ」
汝自身を知れ。
出典:ソクラテス 名言
先程紹介したように、この名言はソクラテスが行動上の標語としていたほど重要な名言です。自分が無知であることを自覚し、その自覚を持って真の知を得て、正しく行為せよという意味があります。
仕事である程度の経験を積んだら「知を得た」と思うこともあるかもしれません。しかし、自分の経験に慢心せずに、「自分は無知である」ということを自覚した上で行動していけば、きっとビジネスパーソンとしても、人間としても、大きく成長していけるはずです。
ソクラテスについて詳しく知る
古代ギリシャという数千年前の時代の哲学者ながら、現代にも十分通用する考えを生み出してきたソクラテス。ここでは、もっと深くソクラテスについて知れる情報を紹介します。
ソクラテスは「無知の知」を探求し、死罪となった
ソクラテスは当時の政治権力者が「無知であること」を暴いてきたとお伝えしました。
民衆に大きな気付きを与え、社会を大きく前進させたソクラテスでしたが、権力者からは目の上のたんこぶとして忌み嫌われていました。数々の政治家を論破した結果、権力者の恨みを買うことになり、ソクラテスは死罪に課され、毒殺されることになるのです。
「無知の知」という言葉は、プラトンの著書に出てくる言葉
ソクラテスの死後、弟子であるプラトンが、ソクラテスの偉業を本にしたためるようになり、ソクラテスの言動は後世に伝えられていきます。「無知の知」もソクラテスが直接書き残した言葉ではなく、実はプラトンの著書に出てくる言葉なのです。
ソクラテスについて学ぶ場合は『ソクラテスの弁明』がおすすめ
そんなソクラテスの弟子、プラトンが執筆した『ソクラテスの弁明』は、プラトンの哲学を学ぶのにぴったり。ソクラテスに死刑判決を出した者たちとソクラテス自身の対話が綴られており、彼の人となりや哲学が描写されています。
より詳しくソクラテスについて学びたい方は、参考にしてみるといいでしょう。
一流のプロフェッショナルこそ「無知の知」の本質を理解している
- 「無知の知」とは、「無知を自覚すること」
- 「無知を自覚すること」とは、「自分は間違っているかもしれない」という前提のもと物事を考えることにつながり、より本質的な思考ができるようになる
- ソクラテスの哲学は「無知の知」以外にも、「シンプルに考える」や「目的と手段を履き違えない」など、現代にも幅広く浸透しているビジネスパーソンのマインドの礎となっている
ソクラテス曰く、「真の知恵者」とは、自分は真理が理解できていないということを認め、初心の心を忘れず、いつまでも学び続ける姿勢を持つ者のこと。その貪欲に学び続ける姿勢こそが、仕事で成果を出すのに不可欠であり、物事の本質を捉えるためのスタートラインなのです。
仕事に行き詰まったときには、ソクラテスの言葉を思い出してみると、現代にも活用できる教訓が見つかるかもしれません。
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