タカラトミーの変形ロボット「トランスフォーマー」は、今年で31年の歴史と世界的人気を誇り、大人から子供までに愛されている。
そんなトランスフォーマーの海外向けアイテムのデザインをはじめ、他企業とのコラボレーションなど、トランスフォーマーの新たな可能性に挑み続ける大西裕弥氏。
プロダクトデザイナーとして活躍するだけでなく、ユーザーの目線に立ち、常に“トランスフォーム”させながらのコンセプト設計を得意とする大西氏に、新たなトランスフォーマーが生み出されるまでの企画術を伺った。
大西裕弥 プロフィール
おおにし・ゆうや/トランスフォーマーデザイナー、プロダクトデザイナー。
1984年、“ものづくりの街”東大阪市生まれ。大工の父やまわりの“ものづくりのおやじたち”の影響でものづくりに目覚める。家電メーカーのR&D部門を経て2011年タカラトミーに入社。機械工学とカーデザイン/プロダクトデザインをバックボーンに、海外向けトランスフォーマーの企画と開発を担当。トランスフォーマーデザイナーとして年間20アイテム以上を手がける。代表作は実写映画版ロストエイジ「バンブルビー」やレジェンズ「ブレインストーム」など多数。コンセプトの生み出しから魅力的なアウトプットを繋ぐフェーズに強く、最近では他企業とのコラボレーションビジネスも担う。
共著書に『ものづくり2.0 メイカーズムーブメントの日本的展開』(角川書店)。
世界中のユーザーレビューを企画に活かしている
――大西さんはタカラトミーに入社されてまだ5年しか経っていませんが、入社したての頃、変形ロボットをデザインするのは大変ではありませんでしたか?
大西 最初はどうするん!? って感じでした(笑)。とにかくユーザーに喜んでもらいたい一心で研究していましたね。
トランスフォーマーは31年の歴史の中でもう3000アイテム以上生まれているので、その先人の知恵を借りながら、それをまた再構築していくことが多いですね。新しい商品を生み出すときも、本来持っているキャラクター像を抽出して今風にアレンジしたり、キャラクター性を重視した新しいものを生み出したり、さまざまなやり方をしています。
――新しい商品を生み出したりアレンジしたりするときのヒントは、どういったところから見つけるんですか?
大西 ひとつは、世界中のファンがファンサイトに上げてくれるレビューをチェックさせてもらっています。ファンの方の意見も徐々に取り入れながら、たくさんの方が理想とするアウトプットをできるよう努力しています。
そのほかに、たとえば車がモチーフになっている商品だったら、モーターショーやディーラーに足を運んで360度から実物を見に行きます。「このフロントグリルを参考にしたらカッコよくなるかも!!」とか、その車の印象的な部分をヒントにしてロボットに活かしてますね。
ロボットだけじゃない。とにかくなんでもかんでも“変形”させてみる
大西 考える訓練のために、普段から道を歩きながら目についたものを、なんでもかんでも変形させています(笑)。
たとえば最近だったら、zecOO(ゼクウ)っていうかっこいい電動バイクがあるんですけど、プロダクトデザイナーサミットっていうイベントに登壇させてもらった時に、その変形スケッチを披露したらすごく盛り上がって。それは自分のなかで「やったな」って(笑)。
そうやって、とにかくなんでもかんでも変形させたら新しいものが生み出せるんじゃないかと思っています。それはロボットだけじゃなくて、たとえば実際の家電をモチーフにしたり、動物に変わったりするのもありかな……と考えていますね。
一晩に50アイデア書きまくる
大西 突然ひらめくことは、ほぼないですね。多忙期は一ヵ月に2~3アイテムの企画を抱えているので、スタイリングであれば1体のスケッチを、多い時で一晩に50アイデアくらい変形と同時に描いたりします。
そうやって自分の中のアイデアを可視化して広げて、最終的に企画に収束させます。トランスフォーマーって、変形がしやすいとかコストに見合っているかとか、そういった現実的な部分を組み立てながら、同時にスタイリングも組み立てていくんです。
――トランスフォーマーの肝でもある「変形」ありきでデザインされるわけですね。
どんなシーンで遊ばれるのか? ユーザー目線でデザインする
――大西さんがトランスフォーマーをデザインする上で大切にしていることは、どういう部分ですか?
大西 最近では、昔から人気のある「オプティマスプライム」を新興国向けにアレンジしてデザインしました。
たとえばクルマモードでの話をすると、新興国ではまだまだ昔の日本車が走っていたりするんですね。それで、「オプティマスプライム」のアイデンティティでもあるトレーラーのフロントマスク周りは、スケッチの段階では現在風なツルンとした未来的な感じだったんですけど、最終的にスリットを入れてクラシックに仕上げています。
ほかにも、膝の関節をあえて動かないようにしてあるんです。なぜかというと、ロボットの関節が外れたとして、日本なら大人はもちろん子供でも直し方がわかるけど、変形ロボットで遊ぶ歴史が比較的浅いと考えられている新興国では、直し方の方法がわかりにくいかもしれないということと、壊れにくさからです。
――ユーザーがどうやってトランスフォーマーで遊ぶかというシーンを、リアルに思い描きながらデザインしていくんですね。
大西 はい。そうやって遊ばれるシーンを考えながら、最初に作ったデザインをブラッシュアップして完成させています。
このアイテムは僕がリードデザイナーとして進行していました。もし他のメンバーだったら今までの経験から関節を曲げていたかもしれません。逆に僕だからこそ、あえて関節が動かないアウトプットができたのかなと思っています。
使う人の「動作」を常に意識しています
――考えたアイデアのなかで、これは会心の思いつきだったなというアイテ厶はありますか?
大西 トランスフォーマーアドベンチャー「ビッグメガトロナス」は、自分らしさがでているなと思いますね。肩のパーツを持ち上げると腕も連動して動きます。ポージングは苦手なんですけど、より少ないステップで変形でき、ユーザーに驚きがあるよう意識して作りました。
それぞれのロボットは誰が作っても同じようにみえるんですけど、実際に触ってみると作り手によって全然味が違うんです。僕が大事にしているのは「人の動作」。たとえばひねる動作であれば、人は指先で回すと思いますし、逆に引き込みだったら腕全体を使わないと動かせないとか、変形の過程での人の動きを考え、その上で新しさを出していますね。
――大西さんが変形の動作を大切にしようと考えた理由って、どういうところにあるんですか?
大西 今はコストの問題で、昔みたいにパーツ点数を贅沢に使えないという一面があって、パーツも変形工程も単純化しやすい傾向があります。そうなると、今まで通りの変形で長年トランスフォーマーを愛してくれているユーザーに満足してもらえるものを作るのは難しい。
だけど、ここで大きくひねったら満足感が出るなとか、細かく動かせるようにすれば緻密さを出せるなとか、制限があるなかでもそういった工夫をしてユーザーに満足いただけるものを作りたいと考えています。
――変形の醍醐味が味わえるように工夫されているわけですね。大西さんは立場的に、マネジメントする立場なんですか?
大西 リードデザイナーやプロジェクトリーダー的なことをやらせて頂く機会は多いですね。
僕はコンセプトを明確に打ち出すのが得意なので、会社が初めてチャレンジすることを「大西やってみてくれないか」と任せてもらうことが多くなってきています。他企業さんとのコラボレーションとかもそうですし、たとえば最近だと、「キュートランスフォーマー」というチョロQをモチーフとしてディフォルメしたキャラクターシリーズは、新しくコンセプトから生み出したものです。
玩具業界はデザインやものづくりの醍醐味を一番味わえるところ
――大西さんの今後の目標や、これから手がけてみたいことを教えていただけますか?
大西 この業界の中で言えば、玩具業界に入りたいと思う学生の絶対数を増やしていきたいです。玩具業界の面白さをもっと伝えていきたいなと。
僕はたまたま発見したからこの業界にいるんですけど、就活の時は玩具業界を調べたことすらなかったんですよ。でも、今実際にやっていて、ほかのデザインの仕事と比べて、一人ができる範囲がすごく広くて面白い仕事だと思うんです。
――デザインを勉強している学生に、どんなことを大西さんは伝えたいですか?
大西 デザインって“人のために生み出すもの”なので、デザインのかっこよさにどんな裏付けがあるかっていうところまで説明できなければいけないと思うんです。分析もしながらプロセスを踏んで、なおかつ見た目までアウトプットできるっていうのがデザイナーの旨みだと思うので。
たとえば家電業界では1台の洗濯機を数十人で生み出します。その中で自分の意見を通したりカラーを出したりするのは、ものすごいパワーが必要だと思います。
しかし玩具業界なら、強い意識を持っていればコンセプトを自分中心で詰めてユーザー目線に立ったアウトプットができる可能性が高く、デザインやものづくりの醍醐味を味わえます。
――プロダクトデザインを通じて、その商品ができるまでのすべての工程に責任を持って関わることができるんですね。
大西 今では、他企業でプレゼンしたり、講演会で仕事論について話したりする機会もあって。それを通してものづくりを目指す方たちにや他業界の方たちに、僕がどんな風な仕事をしているかなど認識してもらいたいし、それこそ日経の一面になるくらい広く知られたいですね。
そうすれば、玩具業界の楽しさや、デザイン、ものづくりの醍醐味が広がって、この業界に興味を持ってくれるんじゃないかなと思いますし、僕だからできるって強い意志をもって取り組んでいます。
さらに先にある僕の野望としては、この玩具業界で磨いたスキルを活かして、ソリューションやコンセプトを生み出し、その実現に向けて企画を収束させていくお手伝いをしたいなと思っています。
他企業さんとのコラボレーションを通じて感じたのは、そういうアイデアの発散と収束のフェーズで悩んでいる企業さんがすごく多いということ。こうした活動をお手伝いさせてもらうことで、いろいろなアイデアが形になったら、日本中、世界中が幸せになるんじゃないかなと思っています。
Interview/Text: 川中千保
Photo: 栗原洋平
Photo: 栗原洋平
記事提供:Qreators.jp[クリエーターズ]
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう