近年、歯科医院の数が増えており、コンビニエンスストア数の1.6倍もの歯科医院が日本に存在している。これだけ多くの歯科医院があれば、いつ虫歯になっても歯科医院を探し回ることはないだろう。歯科医院のような医療機関は、健康を害した人が健康になりたいという需要に対して、治療を供給することで経営を成り立たせている。そのため、医療機関としては予防治療よりも事後治療を施す方が売上の向上に結びつくと考えられる。
しかし、本来の医療機関の存在意義は「人々の健康を守る」ことであり、人が健康を維持することができるために、予防治療の方に重きを置くべきであり、決して事後治療に重きを置いてはならない。そんな中、事後治療ではなく予防治療を訴える歯科医がいる。それは、山形県酒田市民11万人のうち1割の市民が通う日吉歯科診療所理事長の熊谷崇だ。熊谷崇は80歳まで全ての歯があることを目指し、予防治療の重要性を語っている。
今回は、1月28日(木)放送予定の『カンブリア宮殿』に合わせて、「歯医者は虫歯になったら行くところではなく、虫歯にならないように通う所」と予防治療を推し進める日吉歯科診療所理事長・熊谷崇と、熊谷崇が思い描く虫歯のない社会に迫っていこう。
“歯科界のカリスマ” 日吉歯科診療所理事長・熊谷崇とは
日吉歯科・熊谷崇の生い立ち
1942年 東京で生まれる
1968年 日本大学歯学部卒業
1971年 横浜で日吉歯科診療所開業
1980年 山形県酒田市へ移転
日吉歯科診療所の移転を機に変わりゆく山形県の子供達
熊谷崇は神奈川県横浜市に日吉歯科診療所を開業していたが、熊谷崇の妻が山形県酒田市に縁があったことから、山形県酒田市へ日吉歯科診療所を移転した。日吉歯科診療所を山形県に移転した熊谷崇を驚かせたのは虫歯に悩む子供達の多さだった。当時の山形県は3歳児の虫歯発症率がワースト3の常連であり、重症の虫歯を抱える子供が多くいたのだ。山形県の悲惨な現状を目の当たりにした熊谷崇は、日吉歯科診療所の事後治療だけでは状況は変わらないと察した。
熊谷崇が最初にとった行動は、校医を務めている小学校の教師・保護者・児童に対して、虫歯予防の啓発運動であった。徐々に熊谷崇の啓発運動が効果を現し、今や小学6年生までで虫歯に全くなっていない子供が55%もいる。熊谷崇が訴える予防治療の重要性を患者が理解し、自ら虫歯予防をするようになったことがこの結果を生んだのだ。
熊谷崇が考える “本来あるべき患者と歯科医の関係とは”
日吉歯科診療所の熊谷崇の予防治療に対する考え方に共感し、予防治療に力を入れようとしている歯科医院が日本中に存在するようになった。つまり、熊谷崇の予防治療啓発運動は、虫歯に悩む患者側だけでなく、虫歯治療に取り組む歯科医側にも大きな影響を与えたのだ。虫歯の治療をすることが歯科医の使命ではなく、虫歯に対する予防意志を患者に持たせることが歯科医の使命なのだ。
日吉歯科診療所に通う患者は滅多に虫歯になることはない。日吉歯科診療所では患者に対して、虫歯治療を施すだけではなく、虫歯になった原因を明確に伝えることで予防策を提案する。こうした日吉歯科診療所の姿勢が患者の虫歯率の低さを実現しているのだ。
しかし、たまに日吉歯科診療所に通っている患者にも虫歯が出来てしまうことがある。原因は、患者が日吉歯科診療所の歯科医の予防策の提案を実践していなかったことだ。普通に考えれば、歯科医の提案を実践しなかった患者側の問題であるが、熊谷崇は違う。患者が予防治療を実践しなかったのは、歯科医が予防治療の重要性を患者にしっかり伝えられていなかったことが問題であると考えるのだ。熊谷崇の予防治療への徹底した姿勢が伺える。
熊谷崇が思い描く、虫歯なき社会とは
子供は食生活がどんどん変化していくことから、乳歯を溶かす成分を口にするようになることに気付きにくく、虫歯になってしまうケースが多い。さらに、大人の虫歯と異なり、虫歯の色が白く、虫歯ができる場所も見つかりにくいので、事後治療になりやすい。また、高齢者も手が動かなくなったり、歯磨きを正常にすることができなくなってくるとすぐに虫歯が生じ、発見が遅れて事後治療になることがある。
熊谷崇を擁する日吉歯科診療所が推し進める予防治療の背景にあるのは、子供と高齢者の虫歯の発見が遅れやすいという点だ。子供は乳歯であるため、永久歯が生えてくるが、高齢者は違う。虫歯治療の際に歯を削る治療があるが、削った歯は再生することはない。おせんべいのような固い食べ物を老後も楽しむためには、歯に対する高い予防意識が欠かせない。だから、熊谷崇は虫歯予防を訴え続けている。
2014年10月27日にNHKで放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、日吉歯科診療所理事長として熊谷崇が語ったプロフェッショナルについての考えをご紹介しよう。
日吉歯科診療所が患者に行う予防治療を日本中の歯科医院が見習うほど、熊谷崇の影響力は大きい。熊谷崇が目指した虫歯なき社会、その社会を実現するために行ってきた予防治療や患者の情報管理などの徹底した取り組みが日本の歯科界を刺激した。世の中を動かすことは簡単なことではない。しかし、簡単ではない道を選択し、自分を貫いて目標を達成するために全力を注ぐこと無しには、世の中を変えることはできないのだ。
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