自遊人と言えば、様々なライフスタイルを紹介している雑誌で有名だ。たった一度きりの人生を積極的に豊かにすることを目指し、「感動」「本物」「癒し」の3つをテーマに、旅や食などに関する様々な情報を雑誌に載せている。毎月出版される雑誌「自遊人」は、読者から高い支持を受けており、読者は増えていく一方だ。
様々なライフスタイルを人々に提案したいと考える自遊人が、新たなライフスタイルの提案方法を始めた。それが、ライフスタイル提案型複合施設「里山十帖」である。2014年5月にオープンした里山十帖の誕生は、出版業界をどよめかせた。「なぜ、自遊人という雑誌が、宿を作るのか」といった疑問の声が多く出たのだ。
今回は、2015年1月14日(木)に放送される『カンブリア宮殿』に合わせて、自遊人が新たにオープンさせた里山十帖とは、どのような施設なのか紹介していくと同時に、オープンに至った背景を見ていこう。
“リアルなライフスタイルを提案するメディア” 里山十帖とは
雑誌で伝えていたライフスタイルは、あくまで情報であって、新しい経験・体感のきっかけにはなれても、雑誌というメディアである以上、自遊人だけで人々に新しい経験・体感をもたらすことはできなかった。しかし、里山十帖のオープンによって、自遊人自身が、人々にライフスタイルを直接提案できる場を持つことができるようになった。それでは、自遊人の想いが込められた里山十帖の持つ10個の内、5個のテーマをご紹介しよう。
自遊人が「里山十帖」に込めた思い①:「食」
出典:www.satoyama-jujo.com 里山十帖は、日本の食文化、特に新潟の食文化を再発見・発信をする役割を持っている「食の体験メディア」なのだ。さらに、「食の絶滅危惧種」を保護するため、伝統野菜を買い取ったり、積極的に契約栽培・契約醸造を進めている。
自遊人が「里山十帖」に込めた思い②:「住」
出典:www.satoyama-jujo.com 里山十帖にある建物は、古民家をリノベーションした古く見えるものが多い。本来、新潟のような雪国では、寒さを凌げない古民家は壊されることが多い。しかし、自遊人は古民家でも断熱すれば、快適に暮らせることを提案し、実践しているのだ。さらに、ソファーやベッドが似合う古民家とすることで、デザイン性の高い快適な空間を実現させた。
自遊人が「里山十帖」に込めた思い③:「衣」
出典:www.satoyama-jujo.com 里山十帖がある南魚沼市では、越後上布が織られており、越後上布は無形文化遺産にも登録されている。しかし、無形文化遺産に登録されている越後上布を織る後継者はいないというのが現状だ。そこで、里山十帖は越後上布に新たな価値を加えるべく、武蔵野美術大学と共同で、越後上布のデザインに力を入れ、商品化を目指している。将来的には、越後上布も体験できるようになるだろう。
自遊人が「里山十帖」に込めた思い④:「農」
出典:www.satoyama-jujo.com 2004年にオフィスを新潟県に移転した自遊人は、2010年に自遊人ファームを設立した。農業について様々な問題が叫ばれている近年、自遊人は実際に、里山十帖で農業に触れる機会を創出することで、農業とは無関係である都市生活者も農業に関心を持ち、様々な問題の解決の糸口が見つかる可能性は高まると考えている。そのため、農業体験プログラムが毎年、開催されているのだ。
自遊人が「里山十帖」に込めた思い⑤:「環境」
出典:www.satoyama-jujo.com 地球温暖化などの環境問題が深刻化する中、環境との共生が重要視されている。里山十帖は、食生活はもちろんのこと、日用品についても環境に優しいものを選んでおり、宿としてのシステムも環境に配慮したものとなっている。例えば、タオルが使い放題ではないという、一般の宿とは異なるシステムを採択している。洗濯の回数を減らすことで、水をより稲作の方に回すことができるからだ。しかし、環境への配慮を突き詰めるとストレスを感じるため、現代の快適性も捨てきらないのだ。
上記5つのテーマ以外に、「芸術」「遊」「癒」「健康」「集う」といった5つのテーマも里山十帖には存在する。いずれも、自遊人のライフスタイルを提案するという理念を、里山十帖というリアルなメディアが経験・体感という形に実現している。都市生活に身を浸しているならば、里山十帖のテーマに触れることをおすすめする。きっと新たな価値観を生み出す機会となることだろう。
自遊人社長、岩佐 十良氏が語る、里山十帖の誕生の背景とは
雑誌「自遊人」を出版していた自遊人は、東京の日本橋にオフィスを構えていたが、2004年にオフィスを移転した。移転先の新潟県南魚沼市では、食品販売を始め、農業を始め、そして旅館「里山十帖」の経営を始めた。「出版社がやることではない」「ありえないことだ」という否定的な意見や驚きの声を集めた自遊人だが、そんな声に対する岩佐社長の言葉は常に変わらない。
雑誌「自遊人」の創刊は、必然的なものではなかったのだ。岩佐社長の理念を人々に伝えるメディアとして、たまたま雑誌であっただけなのだ。そして、岩佐社長は雑誌の創刊後にやりたかったことについて、以下のように語っている。
自遊人の岩佐社長がプロデューサーとして生み出したのが、ライフスタイル提案型複合施設「里山十帖」だ。まさに、社長の理念であり、実現したかったことが全て込められたものが里山十帖なのだ。しかし、なぜライフスタイルを人々に伝えるメディアに、宿を選んだのだろうか。
岩佐社長が里山十帖を生み出した背景に、出版業界のデジタル化がある。つまり、雑誌という紙媒体から、インターネット媒体へ移行していく潮流があるのだ。本来ならば、デジタル化の潮流に乗って、雑誌「自遊人」がデジタル化されてもおかしくない。しかし、岩佐社長はデジタル化の潮流の先を見ていたのだ。
インターネットは、リアル世界の情報を多く載せている。つまり、あくまでインターネットは媒体なのであって、インターネット自体が自遊人の理念を実現する場ではないということだ。インターネットの本質を見抜いた岩佐社長の持論の結果、リアルな場に旅館「里山十帖」というメディアを生み出したのだ。
「様々なライフスタイルを提案する」雑誌が、「様々なライフスタイルを体感できる」宿を生み出したということは、全国の出版社に影響を与えるのではないだろうか。会社の価値観を世間に伝えたいという思いで、出版物に魂を込めてきた出版社に、新たな形を創造した自遊人の功績は大きな刺激となることだろう。
今後、自遊人の里山十帖のように、様々な出版社がリアル世界によりリアルなメディアとして、新しい事業を拡大してくるかもしれない。もし、里山十帖のようなリアルメディアが増加すれば、人々の暮らしはより多様で豊かなものとなる機会もまた増加していく。このように、人々の暮らしを豊かにするメディアが続々と現れる社会もまた、自遊人が掲げる「様々なライフスタイルを提案する」という理念が形になったものだと言えるのではないだろうか。
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