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ここ最近で、「LGBT」という言葉を聞く機会が増えたのではないだろうか。渋谷区と世田谷区での『同性パートナーシップ』の施工、トランスジェンダーである経済産業省職員が同省を相手に職場環境の改善を訴えた事件、某政治家の「同性愛は異常」発言など、最近なにかと世間から注目されることの多い「LGBT」のトピック。
電通ダイバーシティが行った2015年4月の調査によると、日本の人口におけるLGBT当事者の割合は7.6%に上る。これは左利きの人やAB型の人と同程度の割合で、学校に置き換えるとクラスに1人か2人といった割合になる。
つまり、LGBT当事者は決して少なくないし、あなたが所属する企業や取引先企業にLGBT当事者がいる可能性は十分にある。もちろん、この記事を今読んでいるあなたがLGBT当事者かもしれない(決して、差別的な意はない)。
このような現代において、LGBTや「性」に関する正しい認識を持っておくことは、ビジネスパーソン、そして一人の人間として必要なことなのだ。今回は企業・職場におけるLGBTに関する問題にフォーカスして、どう向き合っていくべきなのか、ひいては働きやすい企業について述べていきたい。
そもそも、LGBTってなに?
出典:www.pexels.com LGBTとは、L:レズビアン(女性同性愛者)、G:ゲイ(男性同性愛者)、B:バイセクシュアル(両性愛者)、T:トランスジェンダー(性別越境者)を指す言葉で、セクシュアル・マイノリティの総称として用いられる。しかし、LGBTという言葉は4つの性的指向を表しただけの単純な言葉ではない。LGBTという言葉をもっと深く理解するために、3つの「性」について説明する。
LGBTの理解に欠かせない3つの「性」
人間には3つの「性」がある。
・身体の性:生まれもった身体の性別。
・心の性:自認する性別。「私は女だ」などの意識。
・好きになる性:性的指向を表す。「恋愛対象は男性だ」などの意識。
これをLGBTに当てはめると、下記のようになる。
・レズビアン:「身体または心の性」が女性で、「好きになる性」が女性の人
・ゲイ:「身体または心の性」が男性で、「好きになる性」が男性の人
・バイセクシュアル:「好きになる性」が男性と女性の人
・トランスジェンダー:「身体の性」と「心の性」が一致していない人
そして、女性が好きな男性などいわゆる「ストレート(ノンケ)」の人は、「身体と心の性」が一致していて、「好きになる性」が異性の人と言い表せる。
しかし、人間はこのLGBTとストレートの5つのカテゴリに分類できるわけではない。例えば、こんな例もある。
・身体の性:男性
・心の性:女性
・好きになる性:女性
この場合は「トランスジェンダーのレズビアン」ということになる。また、「心の性」や「好きになる性」を決めない人もいる。特に「好きになる性」を決めていない人のことは、“セクシュアル・クエスチョニング”と呼ばれる。
このように人間の性のあり方は非常に多様で、簡単に分類できるものではない。今回は便宜的に「LGBT」を「ストレート以外の人」という意味合いで用いる。
調査で明らかになった「企業におけるLGBT問題」
出典:pixabay.com “企業におけるLGBT問題”というテーマに関しては、数多くの調査が行われてきた。それらの調査によると、7割近くのLGBT当事者が企業・職場の人々の言動により不快な思いをしたことがあることが判明している。
企業における人間関係が原因で、うつ病などの精神疾患に陥り休職・退職に追い込まれるLGBT当事者も少なくない。では、企業におけるLGBT当事者を不快にさせる言動とは、どのようなものなのだろうか。
企業における、LGBT当事者が不快に思う言動
テレビ番組などに出てくる「オネエ系タレント」などのLGBT当事者を「気持ち悪い」と言って、バカにすること
出典:jewiethewookie.deviantart.com テレビのバラエティ番組などを観ていると、日本では未だにLGBT当事者を「からかいの対象」として表現する番組が多いと感じる。2014年の紅白歌合戦「桃組」のコーナーに対して、あなたはどう思っただろうか。
企業内で仕事の合間に社員同士で雑談をする際、そういったテレビ番組やタレントが話題なることもあるだろう。そのようなシーンで、タレントのことを「気持ち悪い」と言ったり、バカにして笑ったりする人が少なからずいる。
しかし企業内に、LGBT当事者がいる可能性を忘れないでほしい。たとえ悪気がないとしても、そういった言動が多くのLGBT当事者を傷付けるのだ。
「ホモ」「レズ」「オカマ」「オナベ」などの蔑称の使用
「ホモ」「レズ」「オカマ」「オナベ」といった言葉を使用するのは避けるべきだ。受け取る人の感じ方にもよるが、基本的にこれらの呼び方は蔑称である。
企業内やビジネスシーンなどでこのような言葉を使うのは社会人として恥ずかしいことでもある。「ゲイ」「レズビアン」「MtFトランスジェンダー」「FtMトランスジェンダー」といった、LGBTに関わる正式名称もきちんと覚えておくことが望ましい。
バイセクシュアルに対する「2倍楽しめるね」「両刀使い」といった言葉
残念ながらこういった言葉も未だに多く聞く。バイセクシュアルはこうした言葉に苦しんでいる人も多い。バイセクシュアルは「誰でも好きになれる」というイメージを持たれがちだが、これは大きな誤解である。
好きになる人がたまたま男性だったり女性だったりするだけで、多くの相手を好きになれるというわけではない。
「結婚しないと一人前ではない」という圧力
日本ではまだ同性間の結婚が認められておらず、多くのLGBT当事者は結婚することができない。LGBT当事者にとって「結婚=一人前になるための条件」といった考えはプレッシャーとなる。
LGBTフレンドリーな企業・人間になるためには
出典:photozou.jp「人間・恋愛はこうあるべきだ」といった価値観を人に押し付けない
前述したように、人間の性というのは多様だ。あなたがどのような相手とどのような恋愛をするのかは自由だし、あなたの企業の同僚なども同様に自由だ。
自分にとっての「常識」や「普通」が、他の人にとっては違う場合があるという認識は大人なら持っておくべきもの。会社内での人間関係を築く上でも、こういった認識は重要になってくるだろう。
コミュニケーションを取る前に一旦、頭の中で相手の立場になってみる
これはあらゆる人間関係を築く上で欠かせないことだが、LGBT当事者と向き合う際にも当然必要だ。特に恋愛や性などのデリケートな話をする際は、一旦相手の立場になって考えてみるということを忘れないようにしよう。そのようなちょっとした気遣いが、企業内でのコミュニケーションをより良いものにする。
マニュアルのような対応ではなく、個人個人に合わせたサポートを
ストレートにも色々な人がいるように、LGBTにも色々な人がいて、それぞれ違った悩みを持っている。
例えばトランスジェンダーの人々には「身体の性」に基づいた性別のトイレの使用を希望する人もいるし、「心の性」に基づいた性別のトイレの使用を希望する人もいる。そういった一人一人の声をしっかり聞き取り、柔軟にサポートしていくことも企業の大切な役割だ。
「企業におけるLGBT当事者向けの対応マニュアル」など存在しない。企業が個人個人と丁寧に向き合い、それぞれに適切なサポートを行うことが、LGBT当事者が働きやすい職場を生み出す。
「LGBT当事者が働きやすい企業」=「従業員全員が働きやすい企業」
出典:pixabay.com 上記に述べたように、LGBT当事者が働きやすい企業というのは、下記特徴がある。
・従業員同士がお互いに固定観念を押し付け合わない
・相手の立場を考えてコミュニケーションを取り合う
・従業員1人1人に対応した、柔軟で適切なサポートがある
このような企業は、LGBT当事者だけでなく従業員全体の働きやすさにもつながるのではないだろうか。“LGBTフレンドリーな企業”は、“従業員全員が働きやすい企業”でもあるのだ。
社会の多様化が進み、人々のライフスタイルもワークスタイルも十人十色になりつつある。恋愛のスタイルも例外ではない。企業がLGBTフレンドリーになるということは、社会のそうした変化に順応することでもある。
多様な人々が働きやすい企業とはどのようなものなのか、既存の「常識」という枠を一度取り外してみて、日本全体で考えるべきフェーズに入っているのではないだろうか。
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