東日本大震災に伴う原発問題など、今現在、日本が抱える問題は山積みである。そんな日本に、2013年11月、「幸福の国」として有名なブータン王国の国王が来日した。ブータンの国王は被災地を訪問したり、日本文化に触れつつ、日本を励ます様々なメッセージを残した。このブータン国王のメッセージに感銘を受ける日本人は多かった。ブータンの幸福の捉え方は、日本人の幸福にどのような影響を与えられるのだろうか。そもそも、私達日本人の幸福とは一体何なのだろうか。
そこで、その日本と比較する対象として、「幸福の国」というフレーズで有名なブータンの幸福について考察していきたい。幸福の国と呼ばれるブータンでは、一体どのような幸福の要素が重視されているのだろうか。そして、ブータンの幸福観に影響を受けた日本の自治体が活動をする「ブータンブーム」が、現在も日本各地で活発化している。このブータンブームについても見ていこう。
ブータン国王が提唱! GNH(国民総幸福量)とは
出典:www.panoramicjourneys.com GNH(国民総幸福量)というものをご存知だろうか。実は、このGNHの誕生をきっかけに、ブータンが幸福の国と呼ばれるようになったのだ。1972年に、当時のブータン王国の国王の提唱により、国民一人一人の幸福度を最大化することで、ブータン社会全体が幸福になることを目標とするGNHが誕生した。
GNHには9つの構成要素が存在する。
①心理的幸福
②健康
③教育
④文化
⑤環境
⑥コミュニティー
⑦良い統治
⑧生活水準
⑨自分の時間の使い方
ブータンでは、これら幸福の要素を含めた質問を148項目、一人当たり5時間、8000人のブータンの国民と面談して調査するのだ。
よくGNHと比較されるのが、GDP(国内総生産)やGNP(国民総生産)である。GDPやGNPは資本主義的価値が置かれる、物質的な豊かさを数値化したものであり、その数値が国の豊かさを表すものとなっている。これに対して、当時のブータン国王が、GDPやGNPには、人間の心理的幸福の要素が含まれていないことを指摘し、GNHはその要素を補った新しい尺度として世界へ広がっていったのだ。
世界の幸福度ランキング第一位は……?
出典:www.usatoday.com 幸福の国と呼ばれるブータンの幸福度は、GNHの指標によれば、紛れもなく世界一である。しかし、幸福の捉え方が様々であるように、世界には様々な幸福度の指標が存在する。2015年に国際連合が発表した幸福度ランキングでは、ブータンは79位という結果で、46位の日本を下回る結果となっている。国際連合の幸福度の指標は、6つの変数によって算出される。
①一人当たりの実質国内総生産(GDP)
②健康寿命
③頼れる人の存在
④人生における選択の自由
⑤社会において腐敗からどれだけ自由であるのか
⑥社会の寛容性
ちなみに、国際連合による幸福度調査は2012年から始められた。きっかけとなったのは、ブータンがGNHという考え方をより世界に広めていこうと、国連に働きかけたことであった。また、ブータンの働きかけによって、国際連合も「幸せをもっと優先するべきだ」として、3月20日を世界幸福の日とすることが決まった。ブータンの幸福への追求が、世界を変えたのだ。
“幸福の国”ブータンを支える4つの柱
出典:www.guideposttours.com.au GNH には4つの柱がある。
①持続可能で公平な社会経済開発
②自然環境の保護
③有形・無形文化財の保護
④良い政治
この考え方はチベット仏教の考え方が根本にあるようだ。
例えば、ブータンでは、絶滅危惧種の鳥が飛来する場所に電線の敷設計画があった場合、自然保護か、電気の利便性か、選択しなければならなくなった。結局、地下ケーブルにすることになったのだが、その判断の決め手となったのは、ブータンの国民の幸福に貢献するのはどちらであるかという観点である。つまり、GNHの4つの柱がブータンの政策に大きく関わっているのだ。
他にも、ブータン王国全体で禁煙という政策があったり、公の場ではブータンの民族衣装の着用が義務づけるという政策も存在する。しかし、このような政策も、ブータンの国民の幸福に貢献していなければ、何の意味もない。そこで、ブータン国家の政策が、ブータンの国民に貢献しているか調査するGNH委員会が存在している。
日本の自治体で広がるブータンブーム
出典:www.travel-impact-newswire.com ブータンの幸福の国づくりを参考に、荒川区では、「より幸福な社会のために必要なことは何か」というテーマで調査を行ったり、GAH(グロス・アラカワ・ハピネス)という新たな幸福度の尺度を設けた。「幸福な生活のために重要な区の政策と思うものは何か」というアンケートに対する回答は、「犯罪のない街づくり」が最も割合が多く、「産業や商業の振興」という政策は優先度があまり高くなかった。
資本主義国の中でGDP3位である日本人は、商業や産業がより大きく発展し、経済的にもっと豊かな国になれば良いという考え方が多くあるように思われていた。しかし、実際に調査を行ってみると、日本人もブータンの国民と似たような幸福の要素を求めていることが分かる。
このように、ブータンの幸福に対する考え方に影響を受けた日本の自治体は、ブータンのような政策を行ったり、調査したりと実践している。このブータンブームの広がりの根底にあるのは、日本人の意識の変化であろう。バブル期、日本経済は大きく成長し、商業や産業の進歩こそ、幸福の要素であると感じていた人は多かっただろう。しかし、時が経って、私達は気付いたのではないだろうか。ブータンと同じく、幸福の要素は物の豊かさではないということに。
多くの日本人の幸福を感じるのに必要な基礎は、「安心」という言葉であろう。日本は戦争がなく、世界的に見たら平和な国であるかもしれない。しかし、私達の生活は、絶対に安全と言い切れるだろうか。さらに、景気も良くない不安定な社会であるため、生活が必ずしも安定するとも限らない。
つまり、あらゆる方面から私達に不安をもたらす可能性は偏在しているのだ。全く不安のない、安心した生活を送ることができて初めて、私達は幸福を感じることができるのだ。ブータンが重要視する幸福の要素を参考に、自分の幸福はどこへ向いているのか、考えてみてはいかがだろうか。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう