ヤマザキマリという女性を知っているだろか。かの有名な『テルマエ・ロマエ』を描いた漫画家である。ヤマザキマリは家の事情で幼いころから世界各地を点々とし、17歳でイタリアに渡り、フィレンツェの学校で美術史と油絵を学びながら、イタリアで11年間過ごした。ヤマザキマリは自らの感覚を半分外国人、半分日本人だと称している。
現在、ヤマザキマリは14歳年下のイタリア人の夫と北イタリアで暮らしている。仕事観、家族観の違いなどから難しい問題も起きたが、夫は常に家族のことを最優先に考え、物事に柔軟に対応してくれたとのこと。そんな古代ローマ的な性質をもっているところが魅力だとヤマザキマリは語る。
ヤマザキマリが賞賛する古代ローマ的男性とはどのような男性か、そしてその魅力とは何か、『男性論』から具体的に例として挙げられた男性とその魅力を紹介しよう。
ヤマザキマリを虜にする古代ローマ的男性の魅力
古代ローマ的男性:ハドリアヌス帝とその魅力
出典:en.wikipedia.org ハドリアヌス帝とは、130年代に活躍した第14代ローマ皇帝である。まさに古代ローマ的男性の例としてふさわしいだろう。彼の魅力はその寛容性だとヤマザキマリは語る。ハドリアヌス帝は天才肌で、「戦争よりも文化と芸術を愛する」皇帝として名を残した。
ハドリアヌス帝は、それまでの領土拡大路線から方向転換をはかった平和主義者としても知られる。やみくもに争うのではなく、話し合いによって物事を決定していく。寛容性を目指していたのである。
ギリシャをはじめ、各国の文化を積極的にローマに取り入れた姿勢も、寛容性があるからこそだろう。『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスも、異なる民族の文化を自分たちのものとして取り入れる能力に長けている男性である。
異質なものを認めることのできる寛容性は国を安定させ、文化を発展させる源泉となる。発展の源泉となる寛容性を持っていたハドリアヌス帝を、魅力的な男性と語るヤマザキマリ。
『テルマエ・ロマエ』の主人公ルシウスも、異文化である日本のお風呂文化を取り入れることで古代ローマの浴場を発展させていった。古代ローマ的男性の寛容性の魅力を、ルシウスに重ねて描いているのである。
古代ローマ的男性:フェデリーコ2世とその魅力
出典:en.wikipedia.org フェデリーコ2世とはルネサンス時代の人物である。古代ローマ的な寛容性がすっかり失われてしまった時代において、彼は古代ローマ的男性の魅力とバイタリティを受け継いだ人物だった。
彼は早熟の天才で、多様性の極みともいえる国際都市パレルモで多くのことを学んだ。あらゆる学問を吸収し、9カ国語を習得し、乗馬や槍術そして鷹を使ったハンティングにも優れ、人種と文化のるつぼの都市をかけまわっていた。
このエピソードだけでも、フェデリーコ2世には古代ローマ的男性の魅力があふれているように思うが、ヤマザキマリが彼の魅力として挙げるのがボーダーを超える力である。
フェデリーコ2世は国籍や文化の違いを貴重な触発の資質として、既成のボーダーを取り払っていけると考えていた。差異を超え、人間としての信頼性でつながることで、理想的な人間社会がもたらされると彼は考えていたのだ。
実際に、彼は人種も文化も宗教の垣根も超えて、皆を味方にしながら法治国家をつくりあげていく。違いに対する偏見を持たず、対等な姿勢を崩さず、知的教養とバイタリティにあふれる魅力あるリーダーとして支持者を増やしていったのである。
彼の古代ローマ的男性としての魅力は、その才をボーダーを超えることに発揮したところにあるとヤマザキマリは考えるのである。
古代ローマ的男性:スティーブ・ジョブズとその魅力
出典:www.flickr.com スティーブ・ジョブズは現代においては、その名を知らない人はいないといえる、アップル社の共同設立者の一人である。独断と偏見に満ちた男性論を語るヤマザキマリであるが、彼女は初め、スティーブ・ ジョブズにいまひとつ魅力を感じていなかったらしい。
しかし、スティーブ・ジョブズの漫画作品を描く依頼を受けたことをきっかけに、彼について知れば知るほど、彼の変人ぶりという古代ローマ的男性としての魅力のとりことなっていった。
自分のやり方に従わない者を容赦なく排除するスティーブジョブズの一面に幻滅する人の気持ちも分かるが、天才肌で人知れず努力もした。そんな多元的な性格をもつ彼の姿に、ヤマザキマリは古代ローマ=ルネサンス的なものを感じずにはいられなかったのである。
アップル社のイメージからテクノロジーの権威と思われがちだが、スティーブ・ジョブズの言葉の中には、禅という言葉が頻出したり、若い日にインドを放浪してヒッピーカルチャーにも傾倒したりと常に「人文系」と「テクノロジー」 の間を行き来してい た。
スティーブ・ジョブズには直感を大切にし、人生を楽しむいたずら心が根底にある。そして空気の読めなさ、変人ぶりが普通の発想の枠をぶっちぎる独創性の源泉となって、彼の古代ローマ的男性としての魅力につながっているとヤマザキマリは考えているのだ。
いかがだろう。古代ローマ的男性の魅力が見えてきただろうか。「寛容性」という魅力。「ボーダーを超える」という魅力。「変人ぶり」という魅力。これらの魅力をもつ古代ローマ的男性ってなんて素敵なの!とヤマザキマリは熱く語っている。
ヤマザキマリの語る魅力的な男性は、必ずしも現代日本女性にとって魅力的なわけではないかもしれない。しかし、古代ローマ的男性の魅力を備えた男は、世界を変えていくビジネスリーダーとしての魅力にあふれていると思わないだろうか。
『男性論』はヤマザキマリが、男性の男性としての魅力は古代ローマ的男性の中にあると、独断と偏見に満ちた視点から語ったものであるが、その男性の魅力を味わっていくことで、物事を発展させていく力、人を惹きつける力、世界を変えていく力、独創性の源泉が見えてくるのである。
『男性論』には他にもラファエロや安部公房など、多くの魅力的な男性が具体的な例として取りあげられている。古代ローマ的男性の魅力を手にするため、ぜひ一読してみてはどうだろうか。
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