2010年1月10日、1兆円近くの債務超過状態に陥ったJALは、会社更生法を申請し倒産した。JAL社員は倒産した当時、乗客から「税金ドロボー」という心ない言葉を浴びせられた。給料も3割がカットされ、破綻企業であるがゆえに社員たちは、新しくクレジットカードも作れなかった。
このように、JALは社員たちが仕事に対して高いモチベーションを維持することが難しい状況であった。にも関わらず、JAL再建のため会長に就任した稲盛和夫氏は、「常に明るく前向きに、仕事は楽しく」と社員たちに説いた。経営状態が最悪で、仕事は楽しくないものであると割り切っているからこそ、仕事を好きになるような働き方をしなければいけないというのだ。
本書『稲盛和夫「仕事は楽しく」』では、稲盛和夫氏が掲げるフィロソフィの深淵に迫り、仕事とは人生とはという大きなテーマを読み解いている。今回は、稲盛和夫氏の仕事観と、仕事との向き合い方、働き方について紹介したい。
どんな仕事でも楽しくなる働き方
好きなことをして、お金を稼げたらどんなに良いだろう。好きな職種、好きな会社、好きな仕事というものは簡単に手に入るものではない。目の前に好きな仕事があるという状態はまずないのだ。
だからこそ、「自分に与えられた仕事を好きになる努力をするべきだ」と稲盛和夫氏は主張する。現実は厳しく、辛いものである。しかし、今日より明日、明日よりは明後日と次から次へと仕事に創意工夫を重ねていく働き方をすると、自然と成果が上がる。成果が上がると、その仕事が楽しくなってくるのだ。そしていつの間にか、その仕事が大好きになっていく。
「創意工夫を重ねる」という働き方ひとつで、自分自身の仕事が楽しくなってくるのである。
人間性が高まる働き方をしろ!
稲盛和夫氏は、新卒のときに希望の会社に採用してもらうことができなかったという。不況のさなか、なんとか就職できたのは潰れかかった会社であった。給料は遅配し、同期も5名中残ったのは稲盛和夫氏ひとりだけ。
稲盛和夫氏自身が会社を辞めるか否か迷っていたそんなときに出したひとつの答えがあるーーそれは、「とにかく目の前の仕事に打ち込んでみよう」というものだった。会社から与えられた研究に昼夜問わず没頭し、不平不満を言う暇すらなかった。人間とは不思議なもので、仕事に没頭すると、悩みが消え、仕事が楽しくなり、成果もあげるられるようになってくるのだ。
稲盛和夫氏は、「仕事に打ち込むということは、あたかも修行僧が行をしているようなものである」と述べている。仕事に打ち込んでいると、不平不満を言っている暇がない。目の前にある仕事に打ち込むことによって、知らず知らずのうちに雑念や妄念を忘れるのだ。
「よく生きるため」の働き方
「日本は近代化とともに仕事観が大きく変化した」と稲盛和夫氏は主張する。欧米の資本主義では、株式会社の目的は株主価値を高めることだ。そのため、金銭的なインセンティブで動機付けし、人を引っ張っていくというのが経営スタイルになってしまう。
本来の仕事というものは、前述の通り、一生懸命打ち込むという働き方をすれば、喜びや生きがいを与えてくれ、また人間性を高めてくれるものだ。金銭的な動機付けは一面では必要だが、そればかりしていると会社は殺伐としてしまう。
資本主義の中に博愛の精神を入れる。これは、稲盛和夫氏が若い頃から実践してきた経営術だ。抽象的な表現ではあるが、経営だけでなく、仕事においても「お金」ばかりにとらわれてはいけないということを表すこの一言。仕事はお金にとらわれず、「よく生きるため」すなわち「喜びや生きがいを見出すため」にやるものでもあるのだ。
稲盛和夫氏のように、楽しくない仕事も「楽しい」と感じられるような工夫を凝らすことは一種の才能である。無理して仕事と向き合い自分を変えていくと、時と場合によって心を壊してしまうことがある。しかし、「楽しい!」と感じて仕事をしていけば、ポジティブに仕事と向き合えるはずだ。
本書には、今回お話した稲盛和夫氏の仕事観の他にも、JAL再建のエピソードやJAL社員のインタビューなどが紹介されている。稲盛和夫氏のパワーを感じたい方、是非本書を手に取ってほしい。
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