2015年8月14日から16日までの3日間、おおよそ55万人の人が訪れたイベントがあるーーそれが「コミックマーケット」、もといコミケというイベントである。ニュースをそれなりにチェックしている人であれば、内実はともかく、名前ぐらいは聞いたことがあるだろう。
そんなコミックマーケット、実は180億円の経済効果を持っていると言われる程の一大イベントとなっているのだ。こういったポップカルチャー・ビジネス(ヲタクビジネス?)というものはなかなか取り上げられにくい為、知らなかったという方も多いかと思う。
今回は12月29日から開催される「コミックマーケット89」に先駆け、コミケの概要やコミケの裏事情、マンガ・アニメと絡めて見るコミケと題して、多角的にコミケというイベントについて迫っていこう。日本のポップカルチャー人気を具現化するかのようなコミケ、日本人であればぜひとも知っておいて欲しいものだ。
「日本を代表するモノは?」
突然だが、皆様は「日本を代表するモノは?」と尋ねられたら、どんなモノを思い浮かべるだろうか? 日本を代表するモノーーそれはすなわち「日本が世界に誇れるモノ」ということになるわけだが、答えの多くは「日本食」と「ポップカルチャー」、このふたつに大別されるのではないだろうか。
無論、ここで思い浮かんで欲しいのは後者、ポップカルチャーの方になるのだが、1988年から1989年にかけて起きた「東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件(通称:宮崎事件)」の影響か、はたまた他の要因か、いずれにせよ未だに「アニメ・マンガ」といったモノに対する(マイナスな)ステレオタイプを捨てきれずにいる方も少なくないだろう。
しかし、マンガ・アニメ・ゲームといった日本のポップカルチャーが、まさしく「世界に誇れるモノであること」は認めざる得ない事実だ。それをコミケの入場者数55万人という数字が物語っている。
2015年8月21日から30日までの10日間に開催されたビールの祭典「オクトーバーフェスト」を例に取ってみよう(芝公園にて開催されたもの)。おそらく、コミケよりオクトーバーフェストの方が知名度としては上だろう。しかし、10日間で一体何人の方が参加したか、皆様はご存知だろうか?
実は、50万人を僅かに超えた程度なのだ。この数字を見れば、コミケの規模の大きさが手に取るように分かって貰えることと思う。コミケは3日間で55万人なのだから。こんな一大イベントを詳しく知らずして、日本人は名乗れない。コミケの規模とは、もうそんなところまで来ているのだ。
そもそも、コミックマーケットって?
出典:amiamiblog.com コミケを一言で表すなら、「同人誌即売会」という言葉になるのだろう。なかなか聞き馴染みはないかもしれないが、同人誌とはリトルコミックとも呼ばれるマンガの一種であり、端的に言えば「パロディ」マンガである。
原作マンガの内容を勝手に変更して、BL(ボーイズラブ)作品にしてみたりといった具合で、要は著作権違反の趣味マンガに分類される。コミックマーケット入場者の大半は、こういった同人誌を買い求めにくる。ゆえに同人誌即売会とも言われるのだ。
本論から外れすぎる手前、同人誌の歴史にはあまり触れたくはないのだが、こういった同人誌というタイプのマンガが脚光を浴びるようになったのは、なにを隠そうコミケが誕生した1975年から。
それまではSF大会などの小規模イベントでしか注目されなかった同人誌は、コミックマーケットの登場によって作成者(サークルと呼ばれる同人誌の作り手)もそれに対する買い手も急増したわけだ。
要するに、「コミケ=同人誌」という図式になるわけだ。コミケを売る人に、コミケを買う人。それがコミケというイベントを成り立たせてきた。とはいえ、コミケの発足当初、1975年のコミケの規模は今と比べても非常に小さいものだった。
来場者数700人から55万人へ「コミケの軌跡」
前述のように、2015年の夏コミ(コミケには夏に開催される夏コミ、冬に開催される冬コミの2種がある)の入場者数は55万人ほどで、10日間で50万人弱のオクトーバーフェストにも勝る。今となっては、このくらいの人数・規模は当たり前と言えるコミケだが、1975年、記念すべき第1回目のコミケはなかなか厳しいものがあったという。
上のグラフを参照して貰えば一目瞭然(?)なのだが、1975年に至っては消えてしまっているほど。実は、1975年のコミケの入場者数はたったの700名ほどだったのだ。渋谷のクラブイベントクラスの規模で開催された第1回目のコミケ。
当時、日本のポップカルチャーがどのような状況で、どのくらいの認知度を誇っていたかは憶測の域を出ないが、『機動戦士ガンダム』はおろか、『銀河鉄道999』もなかった当時。おそらくまだまだ当時の日本ではポップカルチャーが浸透してはいなかったのだろう。
コミケ豆知識:コミケの会場代(東京ビックサイト)は「億越え」
出典:u-note.me ちなみに、コミケが行われているのは有明の東京ビッグサイト(東京国際展示場)であり、以前のU-NOTE記事「夏の恒例イベントにかかる「場所代」を調べてみた」で判明したコミケ会場代は、だいたい1億3000万円ほどだった。
まあ、55万人が来場するイベントであれば、当然といえば当然なのだが、こういった高額な会場代を払えるのは、コミケがそれだけの経済効果を持っているから、に過ぎない。億円単位の会場代など、コミケが与える経済効果にしてみれば些細なもの。なぜなら、コミケの経済効果は約180億円なのだからーー。
コミケ:経済効果180億円の裏側
出典:otapark.com 180億円の経済効果を与えるコミックマーケット。これはもはやひとつの「市場」と言っても過言ではないだろうが、無論、経済効果とは「波及効果」である。つまり、コミケというイベントが他に与える経済の波及効果であり、コミケによって他の市場が加速するというわけだ。
ここからはコミケの経済効果とされる180億円という金額の裏側に迫るべく、多面的にコミケを切り取っていこう。180億円の経済効果と呼ばれるのには、それなりの理由があるのは確かだが、多少なりとも筆者の憶測が入っていることを予めご了承頂きたい。
経済効果180億円の裏側①「コミケが持つ相乗効果」
コミックマーケットという空間が同人誌即売会であることは前述の通りだが、コミックマーケットがただ単純に「同人誌を変える場所」と考えるのは少しお門違い。確かに主たる目的は同人誌に集約されるのかもしれないが、重要な点は同人誌だけではない。
例えば、あなたが会社でイベントを主催することになったとして、最も重要視する点はどこだろうか? 商品のラインナップだろうか? 顧客に富裕層を呼び込むことだろうか? いずれも正解ではあるだろうが、180億円という経済効果を生むほどの効果はないように思える。重要なのは「相乗効果」であり、もとい「空間づくり」というものなのではないだろうか。
少なくとも、コミケはその空間づくりにおいて一級品なイベントと言えるだろう。ヲタクにターゲット層を絞ることで、コミケという(異質な)空間を、イベントを作っているのだ。ある意味での排除であり、差別化である。
そもそも同人誌というものに興味のある人間は、周りを見渡してもそう多くないだろう。少なくともそのように感じられる。ヲタクと呼ばれる人々も皆様と感じることは同じで、周りの目は気になるところ。
しかし、コミケという空間は違う。「みんな同人誌が好きなんだ」という認識をコミケという空間は生み出す。これは購買意欲の相乗効果にもつながるもので、「あの人が買ってるから……」という理由で新たな同人誌やグッズを買う人も少なくないとか。
「即売」という点も古典的ではあるが、コミケには欠かせないものである。その場で売り手と買い手がコミュニケーションを取れること、その場でしか買えない商品であるという付加価値。ネットショッピングのように、今後買おう……ということはできないのだ。
こういったクラスター効果とも呼べる購買意欲の相乗が、コミケの与える180億円という経済効果の裏にあることは想像に難くないだろう。
経済効果180億の裏側②「コスプレイヤー・海外からのコミケ訪問者」
出典:otapark.com これもまた空間づくりの一種ではあるが、コミケと同様、近年「コスプレイヤー」という言葉が急激に台頭してきている。好きなアニメのキャラクターをイメージしたコスプレ衣装を纏った人達のことだ(コスプレ衣装に関しては、市販のものが少ないため、自分で作ってるという人が多いんだとか。驚嘆)。
ちなみにこのコスプレイヤーは、もちろんコミケ周辺にも出現する。「出現する」というか、「群がっている」と言ったほうが適切かもしれない。それほどまでにコスプレイヤーはコミケにやってくるのだ。コミックマーケット公式HPでは、そんなコスプレイヤーに対してこのような注意が出てるほどだ。
登録を要するというのもなかなか珍しい対応に思えるが、こういったコスプレイヤーもまた、コミケを盛り上げる(経済効果の面から見ても)ために必要とされているのだろう。会場外ではコスプレイヤーの写真会など、空間としても楽しめる仕組みとなっているのだ。
また、そんなコスプレイヤーの中でも近年急増してきたのが、外国人のコスプレイヤーである。日本のアニメは欧州(フランスが一番と言われているが)で人気爆発中で、欧州からはるばる日本までコミケにコスプレを披露しに来るヲタクも少なくないという(無論、来場者も少なくないが)。
このように、日本のトップカルチャーであるアニメやマンガを目当てに日本旅行をするという海外ファンの存在もまた、コミケの経済効果の一要因なのであろう。
経済効果180億円の裏側③「マーチャンダイズ商品がバカ売れ!」
出典:00tn.blogspot.jp コミケ=同人誌即売会とは言ったものの、最近のコミケは同人誌だけでなく、参画企業(アニメ制作のメーカーなど)によるブースも存在していて、そこでは種々の関連商品(マーチャンダイズ商品)が売られている。
これはアニメに携わっているメーカーにとって、コミケが新たな市場と見なされたからに他ならない。こういった商品のターゲット層は主に海外ファンで、日本でしか買えない商品を欲している人の新たなマーケットとなっているのだ。
こういった「本物の」マーチャンダイズ商品は同人誌とは異なり(同人誌は100円から、高いものでも1500円ほど)、価格帯が高くなっている。日本のアニメファンにとってはさほど目新しくない商品でも、外国人のニーズにはピッタリ合ってくるというわけだ。
このように、コミックマーケットは、アニメ業界にとっても新たな市場となっているのだ。
コミケ都市伝説:“売り上げ日本一のコンビニ”
出典:www.favmedia.me 『日本一のコンビニで』と題されたNHK特番で、フィーチャーされたのが「ローソン国際展示場駅前店」である。これもまたコミケと関係のあるもので、このローソン、コミケの会場である東京ビッグサイトのすぐ目の前にあるコンビニなのだ。
無論、55万人が集まるイベントの目の前のコンビニだ、客が殺到することは想像に難くない。日本一のコンビニというのは、コミックマーケット開催期間のワンピークではあるが、日本で一番売り上げをあげる(?)と言われているからだ。
筆者も当番組は見ていたのだが、売り上げのほとんどは「おにぎり」などの軽食と「お茶」などの飲料水だという。上の写真は、コンビニ店員が膨大な数のおにぎりを並べている様子である。コミックマーケットの会場内は人口密度の高さが相まって、非常に暑いという。飲料水が売れたり、時間を惜しむコミケ参加者にとっておにぎりが人気商品であることも頷けるだろう。
つまり、コミケはコンビニなど、一見関係のない場所でも強い経済効果を与えているということだ。ローソン国際展示場駅前店では、アニメ関連のグッズもコミケ期間中に販売しているというから、その効果は絶大なのだろう。
コミケ豆知識:ATMが“空”になる?
「ATMが空になる」。ATMからお金が出てこない、ということだ。これは流石に度肝を抜かれたニュースだったが、どうやらコミケ常連にとってはどうやら「コミケあるある」らしい。
コミケ参加者が平均どのくらいのお金をコミケで使っているかは分からないが、ATMが空っぽになるほど、皆さんお金をおろすわけだ。滅多に遭遇しない事態ゆえ、これもまたコミケの持つ180億円という経済効果を裏付けるものだろう。
180億円の経済効果を与えるコミックマーケット。今年2015年も終わりが近づく中、ヲタクたちの熱はさらに増す一方だ。何故かって? それは12月29日から冬コミがあるからだ。今年の冬コミはどのくらいの盛り上がりを見せてくれるのだろうか。筆者も後でニュース上で確認する(実際に参加はしない)
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