モチベーション(やる気)とは、人間が活動する上でエネルギーとも言える原動力だ。このモチベーションが向上するかどうかで活動の成果が全く違ってしまうほど、モチベーションを高く保つことないし向上させることが重要視されている。そのため、様々な団体でモチベーションの向上を図る取り組みが行われているだろう。特に従業員のモチベーションが業績に直結する企業では、モチベーションを向上させるための理念を共有することがある。
しかし、モチベーションを向上させることは非常に難しく、組織における永遠の課題と言っても過言ではない。モチベーションが向上しない原因が分からないこともあるため、どうしていいか分からず困惑してしまうだろう。
そこで今回は、トヨタ自動車 相談役・佐々木 眞一氏の一冊『現場からオフィスまで、全社で展開する トヨタの自工程完結―――リーダーになる人の仕事の進め方』から、トヨタという日本が誇る世界トップ企業で取り組まれている「自工程完結」と呼ばれる考え方をご紹介しよう。
モチベーション向上は「基本が出来ていない」認識から
出典:blogs.bsj.sch.id 上司に任された仕事を一生懸命やったのに、上司から満足できる評価を得ることができなかったという場面は多くの職場で見受けられるもの。そういった場面では多くの人のモチベーションが下がってしまう。また、モチベーションが下がるだけではなく、仕事の生産性を大きく下げたり、時間を多くロスしてしまったりする。
トヨタでは仕事の質を向上させるために、「実は基本的なことができていない」という認識を持つことを重要視している。その認識から「自工程完結」という新しい考え方を取り入れ、全社でこの考え方を共有することでモチベーション向上を促しているのだ。
「上司は細かい指示ができていなかった」「部下はちゃんと確認しなかった」といった基本的なことミスが、モチベーションを損ねる状況を生んでいることを認識し、仕事の質を向上させようという発想は、当たり前のようで実は気付きにくい盲点だ。
心がけだけではモチベーションは向上しない
出典:bodyonept.com モチベーションを損ねる状況は多くの企業で生まれており、その際には「次は細かいところまで指示するようにしよう」「次はミスをしないように確認しよう」と自分に言い聞かせているだろう。それにより、実際にそのようなミスは減っているように思えるかもしれない。しかし、新たなミスを含め、どうしてもモチベーション低下によるミスが起きてしまうことが現実だ。
では、どうしたらこのようなモチベーションを損なう状況を起こさずに済むだろうか。トヨタの出した答えは、「より科学的に仕事を進める」というものだった。それが「自工程完結」である。実際にトヨタでは、品質管理検査でどうしても起きてしまうとされていた不具合が起きなくなったという実例がある。
熾烈な競争を繰り広げている自動車業界の中でも常にトップの座を守っているトヨタは、毎年生産性を向上させる具体的な目標を持っており、省人化や省エネ技術の開発に取り組んでいる。自工程完結も生産性を向上させるための取り組みである。生産性を向上させることは、モチベーションを向上させることに繋がるのだ。
一方で、長い時間考えて仕事をした部下を評価するといった企業も存在するようだ。つまり、単純に部下を頑張らせるように仕向けることが上司の仕事だと思っている企業が存在ということ。部下が反骨精神でモチベーションを上げるとでも思っているのだろうか。これでは生産性は言うまでもなく低下するだろう。そのため、日本の多くの職場ではモチベーションは向上しにくい。
「暗黙知」がモチベーション向上を妨げる
出典:psychlopedia.wikispaces.com 海外の職場とは異なり、日本の職場では、上司から部下への権限委譲が進んでいないのが現実である。部下が仕事をするにあたって、常に上司の顔色を伺わなければならない現状が、部下に必要以上の仕事をさせて疲弊を生む原因なのだ。これではモチベーションが向上しないのは当たり前である。上司も意思決定力が低く、時間をかけて結論を出そうとする。その結論を出すための材料をまた部下に用意させる。
日本にとっては革新的な発想であるが、誰でも意思決定できるだけの情報があれば、上司などいらないという考え方がトヨタにはある。確かに、この考え方に沿って仕事をしていけば生産性は抜群に向上するだろう。さらに、一人ひとりが伸び伸びと仕事をすることができ、モチベーションの向上にも繋がる。
とにかく日本では、仕事における情報の共有ができていない。多くの職場で、情報が共有されていないため、暗黙知というものが存在する。「あの人にしかできない」が価値になってしまっているのだ。この暗黙知が一番大きな無駄を生む場面は、人事異動だろう。やっとマスターした仕事から離れ、また別の仕事をゼロからスタートしなければならない。これではモチベーションが向上するはずもない。
日本の企業内で見ると、トヨタの生産性へのこだわりは異常なようにも思えるが、異常なように思えてしまうほど、現在の日本の職場ではモチベーションを向上させることのできないシステムが根付いていて、日々私達のモチベーションを下げているのだろう。この異常なこだわりこそ、トヨタが世界での熾烈な競争においてもトップでいられる所以なのだ。
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