元祖ビアテイスト飲料「ホッピー」は、昭和50年代には東京を中心に1日20万本を出荷するヒット商品であった。しかし、21世紀に突入してからというもの、「昭和っぽい」「古臭い」と敬遠され、2001年には売り上げ8億8000万円と最低記録を出してしまった。
そこから7年。売り上げは約4倍に伸びた。社員の無気力、無関心が蔓延していた瀕死の「ホッピービバレッジ」に革命を起こした社長であり、本書『社長が変われば、社員は変わる!』の著者 石渡美奈氏の苦労は計り知れない。
本書は、ホッピービバレッジという会社を生き返らせた石渡美奈氏と社員の成長過程が、細かく記されている。
今回は、ホッピービバレッジがおこなった社員への教育に焦点を当ててお話ししたい。
会社と社員の成長の理由その1:「言葉の環境整備」をおこなう
タイトルだけ見ても何のことやら意味がわからないだろう。「言葉の環境整備」とは、ホッピービバレッジの4泊5日でおこなわれるコミュニケーション研修のことである。内容はNLP(神経言語プログラム)の簡易版で、自分や相手の深層心理を理解する手法や考え方を学ぶものだ。
なぜこのような研修が企業で必要なのだろうか? 著者である石渡美奈氏は、この研修には3つの目的があると述べている。
お客様が声にされない気持ちを理解する技術を学ぶ
「お客様が常に本音をぶつけてくれるとは限らない」と、石渡氏は主張する。お客様に愛されるホッピーになるためには、お客様の言葉や表情、仕草の裏に隠された本音を知るスキルが必要であるのだ。
自分自身の深層心理を知る
人は自分でも気づかないトラウマを抱えているものだ。そのトラウマは時として、自分の成長の妨げとなりうる。社員たちは、5日間で自分自身と向き合い、自分のことを理解する。周囲との向き合い方、自分との向き合い方、両方を学べるのだ。
どんな社員にも平等に教育し、連帯感を生む機会を設ける
新卒社員だけに教育をおこなうのは、平等ではない。新しく導入する研修なら、なおさらだ。新しく導入する研修があるのなら、既存社員も参加してもらうべきなのだ。入社した経緯によって社員教育にムラができてはいけない。研修の目的は価値観の共有であり、4泊5日の合宿という経験によって、社員同士の一体感も増す。
会社と社員の成長の理由その2:学んだことを振り返る
先ほど紹介した「言葉の環境整備」などの他にも、様々な施策を打っているホッピービバレッジであるが、せっかく学んだことも、忘れてしまっては意味がない。研修を通して学んだことは、定期的に振り返る機会をなるべくつくりたいものである。
その際に効果的なものが、「同じ研修にもう一度参加させる」というものだ。お案じ研修に2回以上参加した社員は、やはり成長の度合いも他の社員の成長に比べて早いようだ。1回目は新たな知識のインプットだけで終わるが、2回目以降は1回目よりも問題意識を持って研修にのぞめるのである。
会社と社員の成長の理由その3:学んだことをアウトプットする
「社員の成長の理由その2:学んだことを振り返る」で述べた「2回以上の研修を受ける」こと以外にも、研修で学んだことをより理解し、それを共有する仕組みがある。
それは「社内勉強会」である。「社内勉強会」とは、研修を受けた社員が講師となり、研修を受けていない社員に知識を共有するのだ。知識を会社内に伝播させることも目的としているが、この「社内勉強会」の本来の目的は、講師役となった社員の振り返りにある。
人間は、わかった「つもり」が多い。いざ人に学んだ知識を話そうとすると、全く言葉にできなかったりするものである。研修の復習も兼ねて、社員を講師役として「社内勉強会」をおこなうことは、有益なのだ。
ホッピービバレッジという会社の、看板娘のような存在である石渡美奈氏。彼女はただ自分がメディアに露出するだけでなく、社員一人ひとりと向き合うことでホッピービバレッジを成長させた。彼女と会社の紆余曲折について書かれている本書は、壁にぶつかって悩んでいるビジネスパーソンにも、悩んでいる経営者にもオススメの一冊である。
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