この日、会場は芳醇なウイスキーの香りと、起業家たちの熱気に包まれた。
11月5日、スコッチウイスキーで名を馳せるシーバスリーガルが主催する「シーバスブラザーズ・ヤングアントレプレナー基金 Supported by GOETHE」(以下ヤングアントレプレナー基金)のイベントが、渋谷の「TECH LAB PAAK」で開催された。
今まさに応募を受付中のヤングアントレプレナー基金は、優秀な若き起業家やプロフェッショナルを発掘・支援することを目的に、幻冬舎より発刊の男性ライフスタイル誌「GOETHE(ゲーテ)」協力のもと、2012年に設立。1,000万円もの助成金を用意し、起業や既存ビジネスのさらなる発展を目指す有望かつ若いビジネスパーソンをサポートしてきた。
さらに、前回2014年度(第3回目)の受賞者から、シーバスブラザーズ社主催のアントレプレナー世界大会「ザ・ベンチャー」へ日本代表として出場する権利を与えている。「ザ・ベンチャー」は、総額100万USドルが用意される、起業家発掘のためにビジネスアイデアを世界各国と競い発展させる場だ。前回大会には、世界16か国のローカル大会を勝ち抜いた世界各国代表16人が出場。米サンフランシスコで開催された。今年度も、ヤングアントレプレナー基金受賞者が日本代表として出場することができる。
今回、開催されたイベントでは、第3回目のヤングアントレプレナー基金を受賞し、「ザ・ベンチャー」において第2位に選ばれるという偉業を成し遂げた株式会社センスプラウト、技術アドバイザーの川原圭博氏がスピーカーとして登壇。また、2,000万ダウンロードを突破したフリマアプリ「メルカリ」の取締役、小泉文明氏をモデレーターに迎え、“社会に貢献する「ビジネスモデルの創り方」”と題し、熱いトークセッションが展開された。以下、レポートを届ける。
ヤングアントレプレナー基金との出会いは突然だった
「我々な何者なのか」。トークセッションは、川原氏によるセンスプラウトの事業紹介から幕を開けた。
「私たちは、センスプラウトを用いて、世界の農業問題を技術で解決しようとしています。例えば、アメリカ・カルフォルニア州では、1,000年の1度の干ばつが起こり、その状態が4年も続いています。レストランで頼んでもないのにお水を出すと罰金を科せられるほど、事態は深刻です。そういう環境では、いずれ野菜を作ることができなくなります。今は化石水という地中の奥深くにある水を前借するなどして、なんとか工面して野菜を作っていますが、それも長くは続きません。なるべく早く水問題を解決する必要があるのです。
センスプラウトとは、正しいタイミングで、正しい量の水を野菜にあげ、必要最小限の水で野菜を作るためのテクノロジーです。一般的には40万円くらいかかる技術ですが、センスプラウトでは4万円から5万円で実現できます。家庭用インクジェットプリンタを活用し、iPhoneアプリなどと連携することで、従来の10分の1ほどのコストで提供することが可能になりました」
そんな画期的なセンスプラウトだが、法人化に至った背景には、ヤングアントレプレナー基金が大きく関わっている。
「元々は家庭用のプリンタインクによって電子回路を作り出すことができる技術を研究していて、この技術は非常に安くできるため、どこかに活用できないかを考えていたのですが、そのときに水問題に直面しました。そして、センスプラウトのプロジェクトが始まったとき、ヤングアントレプレナー基金に選ばれて、会社を創ることになったのです」
「偶然、Facebookでヤングアントレプレナー基金の告知を見て、仲間と話し合って参加を決めました」と当時を振り返ったのは、川原氏と共にスピーカーに登壇した、株式会社センスプラウトの技術アドバイザー、西岡一洋氏だ。この「一歩踏み出してみる行動力」は起業においても重要と、モデレーターの小泉氏も唸った。勇気を持って踏み出した者だけが、チャンスを掴むことができる。このことは、どの時代でも変わらない、疑いようのない事実だろう。
海外の起業家の視点はグローバルでソーシャル
そして、話は、川原氏の「ザ・ベンチャー」の体験談に移る。
「世界大会に向けて、アメリカで各国代表と合宿をしました。ファイナリストは皆、ソーシャルアントレプレナーを自負する起業家ばかり。印象的だったのは、女性や若い人が多かったことです。在学中の学生もいました。ライバル同士なので、最初はピリピリとした雰囲気が漂っていましたが、一緒に講義を受けたり、毎晩一緒にシーバスリーガルを飲んで語り合ったりして仲良くなりました」
彼らと接する中で感じた、日本との違い。それは、起業家の視点がグローバルでソーシャルであることだと言う。日本では、起業家自身が自分のアイディアややりたいことが出発点となる傾向にあるが、一方、海外では、「この課題は、私が解決するんだ!」という社会的使命が先に立つ、いわゆるソーシャルアントレプレナーが多いそうだ。実際、「ザ・ベンチャー」においても、「どれほどのインパクトを世界にもたらすことができるのか」といったことが最大の評価ポイントになっていたと川原氏は語った。
ただ、日本社会において、社会貢献的な意味合いが強いビジネスは利益追求がしにくい側面があるのも事実だろう。しかし、「ソーシャルアントレプレナーを意識しすぎるとビジネスにならないのではないか」といった議論が日本国内に存在していることを小泉氏から振られた川原氏だが、「持続可能な仕組みにしたければ、あくまでも株式会社は儲けないといけない」と断言した。そして同時に、明確なミッションを忘れてはいけない、とも。センスプラウトの場合、「世界の水問題を解決する」というのがミッションだ。小泉氏も、メルカリにジョインした際、最初に着手したのが「ミッションステイトメントの作り直し」だったことを明かした。ビジネスにおけるミッションの重要性を強く認識させられる一コマだった。
川原氏「こんなに素晴らしいファンドはない」
トークセッションの最後、川原氏はこのように締めくくった。
こんなに素晴らしいファンドはない。このヤングアントレプレナー基金に選ばれなければ、センスプラウトは法人化していなかった。そして、ザ・ベンチャーの合宿でグローバルな視野を手に入れることもできなかった。ビジネスアイデアを持つ起業家は、迷わずに応募してもらいたい、と。
こうして、トークセッションは喝采に包まれて幕を閉じた。その後、懇親会が開催され、「シーバスリーガル18年」を片手に起業家同士が「志」を語り合う光景を会場の至るところで目撃することができた。次回の「ヤングアントレプレナー基金」の栄冠は、ここにいる誰かが手にするかもしれない。そう思うと、胸が熱くなった。それはきっと、ウイスキーのせいではなかっただろう。
シーバスブラザーズ・ヤングアントレプレナー基金
なぜ、スコッチブランドが起業家を支援するのか?
シーバスリーガルの生みの親であるジェームスとジョンのシーバス兄弟は、スコットランドにブレンデッド・ウイスキービジネスの礎を築き、世界的な成功を収めた。そしてそれに留まることなく、その成功を社会へと還元することに尽力した。こうしたシーバス兄弟のパイオニアスピリッツと社会貢献の志を受け継ぎ、起業や既存ビジネスのさらなる発展を目指す、有望かつ若いビジネスパーソン等をサポートするため1,000万円の助成金を交付している。
過去の受賞者
第1回:志賀亮太氏(ファッションデザイナー)
福島県出身のファッションデザイナー。2011年1月「自然と人間と動物の共存」をテーマに、天然素材にこだわった生地や毛皮を使い、流線形を多用したレディースファッションブランド「RYOTA SHIGA」を設立。Ethical Fashion Show Parisでの日本人初の優勝の他、アメリカ、ドイツ、ニュージランド、シンガポール等のショーでも優勝経験があり、国内外にて多くの媒体に取り上げられる。
第2回:太刀川英輔氏(デザインアーキテクト/NOSIGNER株式会社代表取締役社長)
慶應義塾大学大学院理工学研究科にて、デザインを通した地域再生と建築とプロダクトデザインの研究に携わり、在学中にソーシャルデザインイノベーションファームNOSIGNERを創業。平面/立体/空間を横断するデザインを得意とし、科学技術、教育、地場産業、新興国支援など、既存のデザイン領域を拡大し、社会に機能するデザイン活動を続けている。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。
応募概要
< 募集対象 >
起業や新規事業の立ち上げを目指す25~49歳の方
※2015年12月1日時点
< 応募〆切 >
2015年12月1日(火)必着
< 受賞者発表 >
2016年1月18日(月)
< 応募方法 >
下に記載のウェブサイトより、募集要項および応募申込書をダウンロードし、内容をご確認いただき、必要事項をご記入のうえ、添付書類と共にCBYEF審査委員会まで郵送でご応募ください。
< 審査スケジュール >
第一次審査: 応募書類による審査(12月中旬予定)
第二次審査: プレゼンテーション審査(第一次審査通過者のみ。12月下旬予定)
結果発表 : 2016年1月18日(月)
応募方法、募集要項・応募申込み書のダウンロード、よくある質問、問い合わせはこちらから
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