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一流スポーツ選手がルーティンを重視するワケ。五郎丸ポーズから見えてくる「ルーティン」を見直す技術

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2015/11/11(最終更新日:2015/11/11)


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今話題沸騰中のラグビー日本代表。 

その中心的存在とも言える五郎丸選手は、PG前に拝むように手を合わせ、前かがみになってから蹴る独特のプレーでも注目を浴びています。

イチロー選手、ウサイン・ボルト選手など、ハイパフォーマンスができる一流スポーツ選手は、こういった“ルーティン”を取り入れていると捉えられがちですが、そもそもルーティンとは何を定義するのでしょうか? また、一般の生活にも取り入れることができるのでしょうか?  

今回は、行動科学という立場からルーティンについて教えていただこうと、予防医学研究者の石川善樹先生にお話を聞きました。

石川善樹 プロフィール

予防医学研究者 。広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究している。専門分野は、行動科学、計算創造学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『最後のダイエット』、『友だちの数で寿命はきまる』(ともにマガジンハウス)。

実は誰しもが持っている、自分なりのルーティン

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石川  みんなルーティンを持っているんですよ。ルーティン=無意識に行う決まりきった手順だから、普通気づかないんです。一流選手の特徴的なパフォーマンスを見ると、「自分も結果を残すために何かルーティンを作ろう」と思いがちですが、実は既にやっていることなんですよね。

例えばビジネスマンにとってのバッターボックスって、デスクでPCを立ち上げて仕事を始めるタイミングだと思うんですけど、その一連の作業こそがルーティン。まずはそこをブラッシュアップしていくことを考えると分かりやすいです。ルーティンっていうのは“外的な刺激に惑わされずに自分の道を貫くこと”、つまり自分を客観視できるものなんです。

————決まりきった作業を行うことで、自分を客観視できるのでしょうか?

石川  はい。毎日同じ作業を重ねれば重ねるほど、ちょっとした自分の体調の良し悪しに気付きやすくなります。多くの人は自分が今、不調なのか普通なのか好調なのか区別が付いていないと思うんです。不調も続けば普通になるから、気づきにくいんですよね。

違う例を挙げてみます。武道はまず型から入りますよね。最初は型を守るのが窮屈なんですけど、慣れてくると結果的に自分を自由にしてくれます。型がないと、自分を客観視する基準が「勝ち負け」しかなくなってしまうんです。

駅からの帰り道もそう。知らないうちに家に着いていた、くらいのルーティンだから特に苦にもならないし、たまに寄り道だってできる。これがもし毎回状況が変わったら大変です。

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————つまりルーティンがあると自分を落ち着かせることができる、ということでしょうか?

石川  いえ、必ずしもそうではありません。ビジネスパーソンだったら、いかにいい仕事をする状態に持っていけるか。いつも決まった状態に持っていくことが重要で、それは必ずしも感情を安定させるとは限らないんです。わざとネガティブな感情を持ったほうがパフォーマンスが出るのかもしれないし、ドラゴンボールの孫悟空みたいに、必ず一度怒ったほうがいいのかもしれないし、人それぞれなんです。

ゴールはどこなのか、何のためのルーティンなのか、ということですよね。つまりルーティンはそれ自体に意味を問うものではなく、その作業(行為)をしている間に自分はどれだけ余計な刺激から開放されて、いわゆる“ゾーン状態”に入れているのか、ということです。

忘れてはいけないのは五郎丸選手もイチロー選手も、突然あのようなポーズをやろうとしたわけではなく、元々原型の何かがありつつ、それをめちゃくちゃブラッシュアップして行き着いたんだと思うんです。それがルーティンを選ぶ基準。そう簡単にできるものではありません。

自分のルーティンに興味を持って突き詰めてみる

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————石川先生ご自身は、どんなルーティンを持っていますか?

石川  最近、長く使っていたラップトップPCが壊れたんですけど、そこでいろんな気付きがあったんですよ。新しく外付けキーボードにして、それを膝の上に置いて使うようにしたら肩がこらないし超ラクだったんですよね。つまり、僕には「PCを使う時に必ず肩がこる体勢をとる」というルーティンがあったんです。そこで最初はキーボードを変えるという部分的な修正をしたんですが、そのうち本当にPCが必要なのかっていうことを考え始めたんです。目的を理屈で考える段階から「自分はそもそも何をいいと思っているんだっけ?」ということを問う感情問題になってきました。実はこれを始めると面倒な作業になってくるんですよ。

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————自分自身を見直すってことですものね。

石川  はい。ルーティンは頭を使わないで済むのでラクなんですけど、退屈でつまらないという一面もありますよね。本当はルーティンなんてない方が刺激があって楽しいんです。ただ、一度出来上がっているルーティンを崩すのもストレスで、ルーティンが多い人ほど、それが崩れることですごくストレスが溜まるんです。人の脳っていうのは、基本的に勝手にルーティンになるもので、一日を振り返ると実はほとんどがルーティンなんです。ルーティンにまみれた自分がいて、新しいことを取り入れようと思っても、またすぐに戻ってしまう。

だからルーティンを崩すということは相当面倒くさいですよ。ほとんどの人は問題があった時に見直すんです。だから問題が起こる前にさらに良くしようと見直すのは“目的の修正”で、非常にクリエイティブな行動だと思います。それよりは、部分の修正をするほうがずっとラクですから。

あえてルーティンに対して興味を持って突き詰めると「自分って実はこういうことしているんだ」という驚きがあるはずです。興味を追求してサプライズまでくると、初めて人はそこで納得して変われると思うんです。ちなみに元プロ陸上選手の為末大さんは、常にルーティンを崩すことを意識しているそうです。いかに日々のルーティンを楽しくするかを考え、自分と向き合っているんです。

ルーティンを見直せば、毎日がワクワクする結果に

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————ルーティンを崩すには、具体的にどうしたらいいでしょうか。

石川  朝起きてから夜寝るまでの自分を一度振り返ってみるのがいいと思います。出社してPCを開いてからまずはメールを見ているのか、ネットを立ち上げているのか。集中力が切れたとき、どんなことをしているか。一つ一つに対して自分は一体何を狙ってこういうことをしているんだろうと考えてみる。すごく難しいですけどね(笑)。夜疲れてベッドに入るか、もしくは満ち足りた気持ちでベッドに入るか。後者の方が良ければそこまでの道のりをどうしたらいいのかを、ぜひ考えてみてください。

Interview/Text: 河辺さや香
Photo: 森弘克彦(人物)


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