「無印良品」。今や世界に名を轟かすブランドである。街を歩けば、無印良品の袋を抱える人を見つけるのはそう難しくない。日本に400を超える店舗を持つ無印良品だが、実は91年にオープンしたロンドン店を皮切りに、今では下記の海外地域に301もの店舗を展開している。
本書『無印良品のデザイン』では、経営層や社員、デザイナーなどがそれぞれの立場から「無印良品とデザインの切っても切り離せない関係」について語っている。無印良品にとって「デザイン」はどんな意味を持つのか、その秘密に迫ってみよう。良品計画という企業とアドバイザリーボードを担うクリエイターの間に「無印良品」という共通の思想を持ちえた奇跡をご覧あれ。
無印良品のコンセプトを支える「アドバイザリーボード」
ブランドのコンセプトが幅広く、顧客のターゲティングが甘いブランドには「ファン」が定着しにくい。一方無印良品には、シンプルで流行に左右されないデザインのアイテムだけが取り揃えられ、このコンセプトに惚れた「ファン」は足繁く店舗に通う。無印良品が一貫したブランドデザインの商品を生み出し続ける背景には、ある仕組みが関係している。
その仕組みとは、「アドバイザリーボード」である。「アドバイザリーボード」とは「ブランドコンセプトを維持するために外部のデザイナーで構成された組織」を指し、無印良品を展開する良品計画がブランドコンセプトを維持するためには、この「アドバイザリーボード」という仕組みが欠かせないという。
良品計画のアドバイザリーボードは、グラフィックデザイナーやインテリアデザイナーを含む4人で構成されている。アドバイザリーボードの4人と、代表取締役会長、経営幹部社員は月に一度「アドバイザリーミーティング」を開き、無印良品のベクトルをどこへ向けるかをゆるい雰囲気で話し合うという。
気軽に話し合う場を設けることは、意思決定を早めるだけでなく、目指すべき方向を空気感として共有する役割も果たすのだ。
「価格競争」にとらわれない無印良品の“ブランド力”
なるべく安く高機能な商品を買う。この考えは、どの消費者も共通してあるものではないだろうか。家電量販店では「他店より1円でも高い商品があればお申し付けください」などと謳われており、消費者は少しでも安い商品を置く店を選ぶ。
ところが、無印良品は価格競争が激しい家電を手がけているにも関わらず、あえて「価格」や「機能」にこだわらない。無印良品のプロダクトデザイナーを務め、アドバイザリーボードの一員である深澤直人氏は、「家電の高機能化はメーカーもユーザーも幸せにしない」「価格競争に陥るなら、無印良品が家電を手がける意味はない」と言い切っている。彼は、家電ををあくまでも「豊かな生活」を実現するツールであると定義し、そこに高機能化や無理な価格設定などは要らないと考えているのだ。
無印良品というブランドには、ユーザー目線で本当に必要なものとそうでないものを取捨選択する力が根付いている。「無印良品らしさ」が一貫しているブランドコンセプトに惹かれたユーザーは、アイテムの値段が格別安いものでなくとも、「無印ファン」として繰り返し無印良品のアイテムを手に取るのだ。
デザイナーは「店舗」までもデザインする
by chinnian 無印良品のデザイナーがデザインするのは、何も商品だけではない。無印良品の店舗は、インテリアデザイナーの計算のもと緻密にデザインされているのだ。
日本文化と無印良品
「MUJI 東京ミッドタウン」などの店舗デザインを手がけたインテリアデザイナー・杉本貴志氏は、「日本だからこそ無印良品を発信できた」と語る。確かに無印良品というブランドが持つシンプルさは、日本ならではのデザインかもしれない。また杉本氏は、無印良品には日本文化にも通じる思想があり、それが店舗デザインにも反映されているとも語っている。
店舗は消費者とブランドが「出会う」場所
店舗は消費者が無印良品というブランドに直接出会う場所であり、そこでコンセプトに共感してもらう必要がある。
コンセプトに共感してもらうためには、商品が充実しているように見せること。品揃えを充実させることで、消費者にあれもこれもと商品を手に取ってもらえる機会が増える。また、商品の複数購入の機会も圧倒的に増える。ある特定の商品ではなく無印良品のコンセプトを貫いた商品全体を見せ、ブランドの哲学を消費者に感じさせられるかどうかが、店舗デザインの鍵なのである。
コンビニから駅のホームまで、様々な場所で目にすることができる「無印良品」。その成長の背景にある一貫したブランドデザインと、社内の共通する「空気感」は、ブランドがどこで戦うにも必要不可欠な要素であると言ってもいいだろう。
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