ペニンシュラやマンダリン オリエンタル、フォーシーズンズ、シャングリラ……このような高級ホテルの名は、誰もが一度は耳にしたことがあるのでないだろうか。リッツ・カールトンも、そこに名を連ねる高級ホテルのひとつである。
リッツ・カールトンは、第二次世界大戦中にも利用されていたペニンシュラのように長い歴史を持っているわけではない。ザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニーは、1983年にアトランタで創業して以来、わずか20数年間で世界的な高級ホテルの仲間入りを果たしたのだ。リッツ・カールトンはアメリカだけでなく、シンガポール、上海、香港などのアジア諸地域で、従業員にとってもっとも働きがいのあるホテル・カンパニーとしての評価も受けている。
なぜリッツ・カールトンは、ここまで短期間で内外からの高い評価を得ることができたのだろうか? 本書『リッツ・カールトンが大切にする サービスを超える瞬間』では、ニューヨークのトップクラスホテルである「プラザホテル」で勤務後、リッツ・カールトンの日本支社長を経験した著者・高野 登が、「おもてなしの極意」について語っている。
リッツ・カールトンに生きる仕事術
まず気になることは、高級ホテルならではの仕事術だろう。結果を残しているホテルでは、一体どんな仕事術が徹底されているのだろうか。
紳士淑女のコミュニケーション
リッツ・カールトンの従業員は、とりわけ顧客との会話を大事にしている。このホテルでは「紳士淑女をもてなす自分たちも紳士淑女である」と定義し、顧客と同じ目線で会話をすること意識している。これにより、決して馴れ馴れしくはなく、適度に距離のある親しさを演出することができる。リッツ・カールトンでは、ちょっとした会話でホテルや従業員に安心感を持ってもらい、次に何か頼みごとをするときに顧客側が従業員に頼みやすいよう工夫しているのだ。
従業員間で同じ目的を共有する
コミュニケーションは、何も顧客に対してのみベクトルが向いているわけではない。従業員同士も欠かさずコミュニケーションをとっていく必要がある。リッツ・カールトンの従業員は、気付いたことがあれば部署関係なく進んで物事を処理していく。自分の担当以外のことでも、同じ目的や感性を共有するための仕組みが出来上がっているのだ。
この目的や感性の共有が為されていることによって、自分のセクション以外で何か起きたとしても、全従業員がその問題を自分の問題として捉えることができる。
新人の「こんなはずじゃなかった……」を防ぐ
次は人材育成について触れるが、何もホテル業であるからといって独特な人材育成術があるわけではない。新人の従業員が思うことはどこでも基本的に同じであり、不満要素も似通っているものである。では、リッツ・カールトンではどのように新人を扱っているのだろうか?
皿洗いにビジョンは必要か?
この質問の答えは紛れもなく「イエス」である。皿洗いはとにかく皿を洗い続ければ良い、というように思われがちであるが、ホテルで扱う皿にも様々な種類があり、それぞれ扱い方も違う。
顧客に「心のこもったおもてなしと快適さを提供する」ためには、たとえ皿一枚でもぞんざいに扱ってはならない。ホテルのビジョンを十分に理解できている者であれば、皿洗いであっても自然このような行動をするはずなのである。
リッツ・カールトンでは、どんな些細な仕事であってもビジョンを持つように、と新人の時から学ばせている。
アイディアの宝庫! 新人に活躍の場を
日本の多くのホテルでは、新入社員が現場に配属された場合、まずはそのセッションで最も地味で単純な作業から始めさせる。これは、現場の雰囲気と仕事に慣れるには当然のことでもある。
しかし、入社してくる人々は何らかの目的を持って入社してくるはずなのである。「自分がやりたかったこと」と、「現実にやっていること」とのギャップに悩まされるのはホテル業に限った話ではない。そこでリッツ・カールトンは、地味な現場仕事の大切さ、それらの仕事が会社のビジョン達成のためにどのように貢献しているのかを、新人に納得できるように伝えている。リッツ・カールトンの創立者、ホルスト・シュルツィは「企業が犯す最大の罪は、従業員にビジョン無き仕事をさせることだ」と語っている。
まさしくその通りで、会社のビジョンやミッションに共感できない者が、会社にプラスに働くわけがないのである。ただ雇われ目的もなく働く人間は、「自分の時間と能力を会社の金と交換している」だけで終わってしまうのである。
それでは、ただ仕事をこなすだけの新人にしないためにはどうすればいいのか? 解決法としては、ミーティングをこまめに行うなど、新人の創造力を生かす場所を設けて、彼らの豊富な創造力を延ばしていく職場環境を作ることが挙げられる。もしそのように新人育成が成功したなら、その新人が上の立場になった時もまた同じことを新人に行うはずである。
歴史ある高級ホテルにも劣らない、リッツ・カールトンの「ブランド」
並みいる高級ホテルのなかでも、わずか20年で「世界のトップホテル」という存在感を漂わせることに成功したリッツ・カールトン。その成功の背景には、独自のブランド戦略がある。
顧客に感謝されるホテルへ
顧客の期待値に沿っておもてなしを提供するだけでは、他の高級ホテルとの差別化は図れない。そこでリッツ・カールトンでは、顧客に満足してもらうサービスを提供するのではなく、それを超えた「感動」してもらうサービスを提供するよう心がけられている。そして、その「感動」がずっと続くと、その先には「感謝」が待っているのだ。つまり良いサービスは、サービスを超えて最終的に「感謝」されるものなのである。
従業員もブランドの一部
ホテルのブランドを形作るためには、従業員にもそれなりの人格と品格が求められる。顧客が従業員と関わるということは、顧客がホテルのブランドに直に触れるということと同じ意味を持つ。
どんなに豪華な建物や完璧なサービスマニュアルがあっても、こうした揺るがない信念がなくては、顧客に“選ばれる”ホテルにはなれない。「最上級のおもてなしを」、この一心で経営されるリッツ・カールトンからは、ただの「金儲け」を超えた本物のビジネスの形を学ぶことができるだろう。
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