本記事では、家庭と仕事を両立し、結果を残し続けるマネージャー・リクルート住まいカンパニーの楠さんの「仕事術」に迫っていきます。
楠さんの経験から学び、仕事もプライベートも充実させられるようになりましょう。
- リクルートで30以上のサービスを立ち上げた、楠 麻記子氏のプロフィール
- 母だからこそ、技術者だからこそ、生まれてくるサービスがある
- 子育てをする人こそ管理職を目指すべきだと思う理由
リクルートで30以上のサービスを立ち上げた、楠 麻記子氏のプロフィール
安倍晋三内閣の経済政策、アベノミクス「三本の矢」の成長戦略の中核を担っているのが「女性の活躍」でした。
2020年までに女性管理職比率を30%に高めるという目標を掲げ、有価証券報告書に役員の女性比率の記載を義務付けるなどの取り組みを進めていたことを覚えている人も多いのではないでしょうか。
これらにより、管理職に占める女性比率が、6.9%(2012年6月)から8.3%(2014年6月)に増加しましたが、実感としては遠い道のりに思えます。
やはり女性が管理職に就く上でネックとして挙がるのが、結婚や出産などのライフイベントです。しかし、そんななか「ママこそ管理職を目指すべき」と語るある女性管理職がいます。株式会社リクルート住まいカンパニー 事業開発室のプロダクトマネジメントグループでマネージャーを務める「楠 麻記子(くすのき・まきこ)」さんです。
楠さんは、一児の母でありながら、リクルート住まいカンパニーで新規事業の立ち上げにおける企画と開発部門のマネージャーを務めています。また、メンバー時代には、多い時に年間10の新規サービスを1人で担当しリリースするという離れ業をやってのけました。ワーキングマザーでありながら、マネージャーを務め、さらに技術者でもあるという、珍しいキャリアの持ち主です。
楠さんは、SEとしてキャリアを始め、リクルートのIT部門へ転職しました。SUUMOの立ち上げに携わりMVPを受賞、SUUMOゲームシリーズにおいては1年間で10アプリをローンチしています。
産休後は、女性には珍しい開発マネージャーとしてプロジェクトを指揮し、娘が起きている間は仕事をしないといった、家族第一をモットーにして働く女性です。世の中のモヤッとすることを解決するための価値あるサービスをひとつでも多く生み出すことに邁進しているそうです。
母だからこそ、技術者だからこそ、生まれてくるサービスがある
2015年9月には、秩父市と目黒区の一部小学校を対象にBeacon(ビーコン)を活用し、地域ぐるみで子どもの位置情報把握を可能にする「子ども見守りサービス」の実証実験を開始しました。Beacon(ビーコン)とは、一つひとつのBeacon端末を識別するIDを発信する端子のことです。
iPhoneのiOS 7に標準搭載された「iBeacon」でも使われており、位置の検知による店舗来店促進のクーポンに活用されています。楠さんは、新たなテクノロジーを活用した「安全な街づくり」や「くらしコミュニティの活性化」にも積極的な行動を行いました。楠さんは、この子ども見守りサービスプロジェクトの企画開発を指揮しており、実際に子どもを持つ身だからこそわかるニーズを要件としてサービスに反映させています。
このように、母だからこそ、技術者だからこそ、生まれてくるサービスがあります。楠さんも、新規事業の企画について、こう語っているようです。
「企画はプランナーではなく、開発を行う自分たちが主体となって考えていきます。私たちが新しいサービスを企画するときの強みは、エンジニア上がりの人が多い組織なので、テクノロジーオリエンテッドなところから新規事業を考えることもできるところです。
この春から私のグループでエンジニアだけで新規事業を一から検討する取り組みも開始しているのですが、新しいテクノロジーを活用したなかなかいい案が生まれています。」
最近は、エンジニアだからといって企画が固まった段階で話が来るのではなく、マーケットやユーザーの課題に対して、どうサービスを作っていくか考えることが多いと楠さんはいいます。楠の管轄である「ネットビジネス推進室」は、エンジニアや企画職が集まっており、開発だけをするわけではないという点が組織として珍しいのではないでしょうか。
「リクルートで30以上のサービスを立ち上げた」モノづくりへの思い
楠さんの語る「技術志向な新規事業」というと、一般的にはどうしても顧客ニーズが欠けがちなものをイメージしてしまうのではないでしょうか。しかし、そこをカバーするモノづくりの経験、思いが楠さんにはあります。
「私は中途入社8年目でリクルートでは社歴が長い方で、SUUMOの立ち上げにもかかわっていました。メジャーではないかもしれませんが、数年前にリクルート住まいカンパニーがゲームを作っていた時期がありまして、そのときにはゲームを10種類ほど作っていました。
毎日朝から深夜まで一人で延々ゲームのテストをしていて、上司から『え? ゲームのテストで頑張ってるの?』と驚かれたことがあります。私がゲーム下手過ぎたことが時間がかかった原因なのですが。何よりユーザーに楽しんでもらえるものを納得いくまで作りたい、という想いがありました。ゲーム以外にもこれまでサービスを30くらいは立ち上げていると思うのですが、どれも同じ想いで作っています。
私自身、キャリアプランよりも、世の中によりよいサービスを出すことができるかが大事にしているポイントです。」
キャリアプランにどうあることよりも、世の中に価値を提供できているかを重視している楠さんだからこそ、結果的にマネージャーという立場に立っているのではないでしょうか。
マネージャーが実践する、リクルート仕込みの「仕事術」
「少し驚かれるかもしれないのですが、生活リズムとしては毎朝4時に起きて、夜10時には娘と一緒に寝ています。
会社にある在宅勤務制度を使って、朝4時に起きて、5時までは娘の保育園の準備や夕飯の支度をして、5時から7時くらいまで仕事をしています。日中はほぼ会議で埋まっていて自分の仕事を行う時間がないので、朝の時間を資料作成など集中すべき作業に充てています。
もちろん毎日朝仕事をしているわけではありませんが、忙しいときはその時間を使うことでストレスを解放できていますね。あとは、趣味や勉強の時間にも充てていることもあります。」
ワーキングマザーだからこその理由でこの制度を活用しており、多くの仕事をこなしていると楠さんはいいます。
「育児していると『絶対この日は帰らなければならない』という日があって、そのうちに仕事が思い通りにできないストレスがたまっていくので、家に帰って仕事ができる選択肢があるほうがいいですね。
朝6時まで仕事をしたら、子どもが保育園に行く準備やご飯の用意をします。子どもを送ったあとは、会社で18時まで仕事をして、19時に保育園に迎えに行きます。20時に夕食を食べたら娘をお風呂に入れています。
やっていることは他の人と変わらないかもしれませんが、一般的な社会人のリズムとは時差があります。でも、その時差を作ることで娘と一緒にいられる時間が長くなるので、精神衛生上よくなって仕事にもより集中できるようになっています。」
リクルートが大切にする、Whyから始める仕事習慣
在宅勤務制度を活用して、子育ても行いつつマネージャーとしての仕事をこなしている楠さん。しかし、そんなに上手くいくものなのでしょうか。そこにはなにか秘密があるに違いない、そう思った人も多いでしょう。そこで、仕事の秘訣を楠さんに聞いてみました。
「私はあたりまえのことしかやっていないです。ただひとつ仕事術といえることがあるとすれば、WhatやHowよりも「Whyを最初に考える」ことを意識しています。仕事を依頼されても「何でこの仕事を依頼されているのか」というのが見えないと、仕事ができあがっても依頼主が想定していたできと異なることがあって、結局仕事の時間がかかってしまいます。
よくあることですが、誰かがずっとやり取りしていて長いメールができ上がって、最終的にそのメールの一部が転送されて仕事を頼まれても、頼まれた部分だけを見たら仕事の経緯が全くわからず、アウトプットに差が出てしまうのです。「なぜ依頼されているのか」を見ることが、時間短縮に繋がります。Whyを大切にするというのはリクルート特有で、他の会社ではなかなか言われることではないかもしれません。
何をするにも言われたことをやるのではなくて、なぜやるのかを考えることが時間短縮に役立つのもありますし、全ての基本だと思います。メンバーにも必ず自分の中で仕事を理解してから取り組むように意識づけしてもらっています。」
「Whyから始める」というと、TEDで2,300万回の動画再生数を誇るサイモン・シネックによる「優れたリーダーはどうやって行動を促すか(How great leaders inspire action)」という講演を思い返す人もいるのではないでしょうか。リクルートでは、日々の仕事のなかで「Whyから始める」習慣が身に付いているというから驚きです。
コントロール出来ない部分からつぶしていくのが「大人の働き方」
そして楠さんは、もうひとつの仕事術を明かしてくれました。これは、仕事に期限が設けられており、その期限を絶対に守らなくてはいけないときにぜひ役立てて欲しい仕事術です。
「あと時間短縮術として「自分の予定より他の人の予定を先に立てる」というものがあります。
「この日までにこの仕事を終わらせてほしい」と言われたら、一緒に仕事をする人との打ち合わせの日程や予定を先に確保します。誰かと一緒に仕事をするときは、自分がどう頑張ってもリカバリーできない部分があるので、自分の努力ではどうにもできない要素からつぶしていきます。そうすれば誰かが不在で仕事が進まないといったこともなくなるので、仕事の期日を確実に守ることもできます。
昔だったら退社してからの時間を使い、他の人にお願いした部分含め、自分でどうにかカバーしようとしていたのですが、母になってからはそれができなくなったので、子どもが生まれてからは特に重要なことだと感じるようになりました。特にエンジニアは一人で仕事をすることがないので、自分以外の人の要素で何かが起きることが多く、一緒に仕事をする人を考慮することが大切です。」
エンジニアがプレイヤーからマネージャーに変わる瞬間
エンジニアのキャリアプランで往々にして議論になるのが、技術を極めるか、マネジメントに回るかの選択です。では、なぜ楠さんは、マネージャーになることを決意したのでしょうか。そこには、楠さん、そして会社としての思いがありました。
「マネージャーになったのは1年前です。産休から復帰して半年後、新しくできた組織のマネージャーに就任させていただきました。プレイヤーとしては、これまでに多くのサービスをリリースしてきたので、多少規模が大きくなったところで同じ仕事をくり返すことは可能だと思っていました。一方、自分の中で「チャレンジ」できなくなったように感じていたのです。
プレーヤーとして1人でできる仕事は限られていて、より多くの人と協働してできる仕事のほうが世の中に貢献できる価値は大きいと思います。価値のあるサービスを出すためには、マネージャーとして多くの人に協力をいただきながら仕事を進めることが重要だと思いました。」
いい選手が必ずしもいい監督になれないように、プレイヤーとマネージャーは本質的に大きく異なる部分が存在します。その違いを楠さんはどう乗り越えたのでしょうか。
「自分のために働くというマインドは変えました。メンバーやひいては会社のために働くと考えるようになったのが、変わった部分です。いいものを作るために働くので、自分の成長は二の次になりました。他人の成長が自分の成長になるというのもあります。
この考えに至ったのは、周囲にそういうマインドを持った人が多かったこともありますが、「社会に大きな価値をお返ししたい」という会社の方針にも影響されました。リクルートは、みんなどうしたら社会に価値を提供できるのかという価値観のなかで働いているのが素晴らしいです。」
子育てをする人こそ管理職を目指すべきだと思う理由
楠さんは「ママこそ管理職を目指すべき」だと語ります。管理職というと、多くの責任があるため、子育てという時間的制約があるなかでは全うするのに不安があるのではないかと考えてしまう人も多いのではないでしょうか。楠さんは、なぜワーキングマザーに管理職になることすすめるのでしょうか。
「エンジニアはちょっと特殊かもしれないのですけど、管理職になったほうが子育てしやすいと感じます。『事件は現場で起きている』ではないですけど、エンジニアは何か問題があったときにその場でメンバーと話し合って対応を行わなければならないことが多いので、会社で対応しなければならない場合が多いです。管理職になればそういった点は現場にいるメンバーに任せて、家から電話やメールで状況把握や指示ができる場合もあります。
マネジメントで会社に貢献できる立場になれば、働きやすい環境を作るために会社の仕組みにも進言できるようになります。他社の管理職の詳細な状況はわからないのですが、私の会社は管理職でも「子供が病気なので帰宅します」と言いやすいですし、子育てしながら仕事をするための仕組み作りも進言しやすいので、管理職にトライしやすい環境にあると思います。」
もちろん、この意見は職種や会社、家庭環境によっても変わることです。しかし、自分の働きやすい環境を自ら作っていく姿勢や、ライフスタイルに合わせた会社への貢献の仕方を考えることは、多くの人に適用できるポイントです。
また、ここまで楠さんは、家庭も仕事もなんでも上手くこなせているように見えたかもしれません。しかし、ワーキングマザーでありつつもマネージャーであることの苦悩もあります。
「子育てと仕事を両立できているといっても、子どもと過ごせる時間が短いことは苦労しています。帰宅して夕食を作って、そのあとは一緒にテレビを見たり遊んだりしていますが、一緒にいる時間が取れても1時間くらいなので、私との時間より保育園の先生と一緒にいる時間の方が長いのですよね。それは非常に寂しく感じることです。」
やはり小さな子どもを持つ母としては、一時間でも多く子どもと一緒にいたいものでしょう。少しでも働いている限り、この悩みは尽きることがないでしょうが、これ以外に苦労していることはないといいます。
子育てする女性管理職にそばには、子どもを産みやすい環境あり
ワーキングマザーでありながら、凄腕マネージャーとして働けるのには、やはり環境の部分も大きいと楠さんはいいます。
「子どもの体調がよくないときに、上司から看護休暇をすすめられたことがあります。そういった制度の存在がありがたいことはもちろんですが、休むことを勧めてくれる上司や休暇をとらせてくれる風土には、大変助けられています。子育てに対して理解のある人が多いのもありがたいです。
そもそも産休をあたりまえに取れるので、産後に仕事へ復帰する女性も多いです。子どもが産みやすい環境の会社だと言えます。中にはお子さんを会社に連れてくる方もいて、フロアに子どもの泣き声が響いていることもあります。私も産休復帰前に娘を連れてきました。」
多様な人材や働き方を受け入れる環境というのは、なにも制度のことだけではありません。有給休暇が取りにくい会社があるように、その制度を活用できる風土・上司あってこそです。
リクルートグループでは、多彩なライフスタイルを支援する制度として、産休・育休制度、事業内保育園「And's(アンズ)」、在宅勤務制度が用意されています。そして、実際に産休をとって会社に戻ってくる上司がいて、それを見て同じように産休をとる部下がいるというポジティブなサイクルができあがっているのです。リクルート住まいカンパニーは、「女性の活躍」を支える代表的な会社のひとつです。
最後に楠さんに、今後のキャリアプランを聞かせてもらいました。
「ゆくゆく価値ある事業を生み出せたら、そのサービスに携わる立場でいたいとは思っています。世の中のためにいいサービスを生み出せる人間になっていたいのです。
住まいカンパニーには執行役員に女性もいて、女性管理職の比率も大きくなっています。私自身は、部長や取締役を目指して働くというよりも、世の中に価値を提供し続けていった結果、そういった役職に就かせていただけたらいいなと思います。私が成し得たいことは、世の中に価値あるサービスを産み出すことだけです。」
本インタビューの最後まで、世の中に価値を提供できるかどうか、いいモノを作り続けられるかどうかを見つめ続けていた楠さん。いいものを作ることとプライベートを両立させるのは、難しいでしょう。しかし、たゆまぬ努力によって楠さんの活躍は続いていくでしょう。
ライフイベントで管理職を諦めない
- 母親だからこそ、技術者だからこそ生まれてくるサービスが有る
- 在宅勤務制度を使って自分に合った生活スタイルを作る
- 世の中に価値あるサービスを生み出すという信念を忘れない
本記事では、開発マネージャーである楠 麻記子さんの仕事術をご紹介しました。
優れた開発マネージャーは、「当たり前」の基準が高く、たくさんの努力をしていることを読み取れたのではないでしょうか。
本記事を参考に、自分の譲れないものを見つけて貫き、優秀な開発マネージャーになってみてはいかがでしょうか。
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