トヨタの企業戦略や成功体験に関する書籍は多くある。それは、実際にトヨタが多くの成果を挙げているからである。トヨタには成果を出す強い現場力があるのだ。
トヨタの現場では、一人ひとりが自分で考えながら行動し、仕事のなかで問題や課題を見つけては、各自が改善を行っている。これが、トヨタの現場力の秘密である。しかし、最初から社員全員が自分で考えて行動できていたわけではない。では、どのようにして社員一人ひとりが、強い現場の1ピースとして「自分で考え行動できる人材」に成長していったのか? そこには、トヨタの社員が大切にしている思考の型があった。
今回紹介するのは、『どんな仕事でも必ず成果が出せる トヨタの自分で考える力』という一冊。本書で扱われている「トヨタの強い現場力を支える思考の型」のなかから、3つの思考の型を紹介していく。
トヨタ「秘伝の思考法」:#1 改善思考
まず紹介するのは、知恵を出しながら現状を少しでも良くしていこうという思考の型「改善思考」である。人は、何か変化を起こすときに「失敗したらどうしよう」と考えてしまい、なかなか新しい方法や取り組みに踏み切れない。しかし、それは大きな規模で動こうとしているからであり、小さな部分から始めていけば変化も失敗も少なく済むのである。
トヨタでは、まずは身近なところから改善をしていくべきと社員に教えている。まずは身の回りの作業のムダを減らす「作業改善」、次に職場環境や設備のムダを減らす「設備改善」、業務フローや工程のムダを減らす「工程改善」と進めていく。身近な所から改善し、徐々に改善の範囲を広げていくことで、最終的には企業全体の改善にも繋がっていくのである。
またトヨタの改善の基本は、「ムダを減らす」ことである。トヨタでは「頑張ることは汗をかくことではない」と考えていて、「時間は動作の影であり、動作にムダがあれば時間もムダになる」と社員に教えている。仕事上のムダを減らし、成果を求め、新たな取り組みに挑戦する時間を作るための方法が、改善思考なのである。
トヨタ「秘伝の思考法」:#2 横展思考
前項で、ムダを減らす改善思考を紹介し、社員一人ひとりの改善行動が徐々に規模を大きくしながら企業を改善していくという話をした。しかし、これは社員が身の周りだけでなく、自ら進んで改善の範囲を広げていけるということが前提である。そのため、社員が動かなければ改善は広がっていかないというリスクもある。そこで、トヨタは横展思考というものを取り入れている。
横展思考とは、良いアイデアや事例をどんどん広げて、全体の底上げを図るというものである。そのためトヨタは、社員が行った改善を共有する場として、改善成果のコンテストや発表会を地区ごとに開催している。
またトヨタの横展思考は社内のみでなく、他の企業や異なる業種からも良いアイデアを拾ってくる。トヨタでは「優れたものは何でもベンチマークせよ」といい、「優れたものと自分の差を測定して、一つひとつ差を埋めていけば成長できる」と社員に教えている。ちなみにトヨタのかんばん方式は、アメリカのスーパーマーケットからヒントを得たものである。
トヨタ「秘伝の思考法」:#3 行動思考
トヨタの基本姿勢として「改善は巧遅より拙速を尊ぶ」という言葉が掲げられている。自分では完璧だと思って仕事を進めていても、ニーズや社会の変化とズレてしまうリスクがある。まして、それが完成したものであれば修正するのに大きくコストがかかってしまう。それを防ぐために、トヨタでは「行動思考」を社員に徹底させている。
行動思考は、自動車製造業を行うトヨタならではのものとも言える。自動車製造の現場では、まず動き、失敗だと分かれば、すぐに立て直すのが日常である。もちろん仕事を始める前に、起こりそうな問題を予測して対策もする。しかし実際に動いてみないと、本当に起きる問題を知ることは出来ないのだ。
早く動けば、動いた分だけ見えてくるものがある。そして、スピード感のある仕事をするには、日頃から自分の仕事について深く考え行動している必要がある。「行動思考」と「改善思考」はこのように互いに繋がっているのだ。仕事において拙速と改善を繰り返していくことで「巧速」に近づく。こうして一人ひとりが強い現場力の持ち主として成長していけるのだ。
トヨタの強い現場力は、一人ひとりが考える人材だからこそなせるものである。本書には、本稿で紹介した思考の型以外にも、「現場思考」「真因思考」やトヨタのDNAである38の口グセが紹介されている。この本を読めば、あなたも強い現場力の持ち主になれるはずだ。
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