最近、ファッションの世界で注目されている「エシカルファッション」というキーワード。「良識を大切にしたファッション」などと紹介されているが、実際どんなファッションなのか分かりづらい面もある。
現役の慶応大学大学院生にして、現役ギャルモデルとして10代女子を中心に支持を集める鎌田安里紗さん。そのもうひとつの肩書きは、エシカルファッションプランナー。
ファッションブランドとコラボしたり、オリジナルグッズを開発したりしながら、若い女性に分かりやすく「エシカル」を発信している。
そんな“ありちゃん”の経験と知識で「エシカルファッション」を語ってもらった。
鎌田安里紗 プロフィール
かまだ・ありさ/モデル。タレント。1992年、徳島県生まれ。高校進学と同時に単身上京。在学中にギャル雑誌『Ranzuki』でモデルデビュー。撮影などの活動を続けながら、2011年に慶應義塾大学・総合政策学部に現役合格。現在は同大学の大学院に進学、芸能活動も続けている。途上国の支援活動に関心が高く、自身のブログでも情報を発信。JICAの『なんとかしなきゃ!プロジェクト』のメンバーにも選出され、フェアトレード製品の制作やスタディ・ツアーの企画などを行っている。
「ファストファッション」と「エシカルファッション」ってどう違うの?
――そもそも「ファストファッション」と「エシカルファッション」って、どう違うんでしょう?
鎌田:
流行を取り入れた洋服を、早く安く大量に作るのが「ファストファッション」。いま若い女の子を中心に大人気ですよね。じゃあ「エシカルファッション」は……とひと言で定義するのはちょっと難しいんです。
「エシカル」という言葉は英語で「倫理的な・道徳的な」という意味なので、直訳すると「生産者・生産地に倫理的に配慮をしたファッション」ということになります。ややこしいので、私はもっとかみくだいて「人と地球に優しいファッション」と言うようにしています。
――「エシカルファッション」はどこが新しいんでしょうか?
鎌田:
服を買うときって、基本的にはデザインと値段だけを基準に選ぶじゃないですか。そこに「誰が?」「どこで?」「どんなふうに作ってる?」という服作りの裏側と、「どんなふうに着れるかな?」「長く大切にできるかな?」という服を買ってから捨てるまでの未来、つまり服を買う前後のストーリーを含めてファッションを楽しむのが「エシカルファッション」の新しさだと思います。
たとえばオーガニックの服が高いのは、環境に負担をかけずに作ろうとすると時間と手間のコストがかかるからですよね。じゃあ反対に、なぜこんなに安い服があるのか、と考えてみると、安く早く作るために農薬や化学染料をガンガン使っているのかもしれないし、お給料が低い人に長時間働いてもらっているのかもしれない。
その結果、お金がなくて毎日の生活が苦しい人がいたり、学校に行けない子供がいるかもしれない。土地や水が汚染されて作物が育ちにくくなったり、住んでいる人の健康が害されているかもしれない。
普段、服を買っていてもそういった想像力は働きにくいですよね。「エシカルファッション」というコンセプトがあることで、今まで考えていなかったところまで視野が広がるきっかけになると思うんです。
鎌田:
「エシカルファッション」とひと口に言っても、環境に優しい素材を使う、フェアトレードを通して貧しい地域の人に仕事の機会を提供する、捨てられるはずだったものを活用する、洋服を購入した代金の一部を寄付するとか、いろんなやり方があります。
どれも基本は「流行の服が早く安く買える」という買う人目線の都合だけじゃなく、どこで誰が、どんなふうに作っているのか、買った後にどうなるのか、前後のストーリーやおカネの循環を考えながら洋服を作っている、というのが大切なコンセプトなんですよね。
――とはいえ、若い世代とファストファッションは切っても切れない関係に思えますが……。
鎌田:
若い世代はおカネがないから、自分のお小遣いでおしゃれを楽しみたくてファストファッションを買う。それってしょうがないと思うんですよ。
でも、その選びの基準が「流行のこれが1000円!安い!買う!」みたいに、流行や価格に踊らされているだけだったら悲しいなって。結局、来年は着られなくなってゴミになる可能性も高いですよね。それはやっぱり「エシカル」じゃない。
どうしてそうなるかって、私たちの年代はネットやスマホから入ってくる情報に毎日どっぷり使っているから「感じる力」が弱くなってるんじゃないかと思うんです。
鎌田:
「いまこれが流行!これを着るべき!」って雑誌やSNSからバンバン情報が流れてくる。とりあえずそれを着ておけばトレンドをやりすごせるし、おしゃれな人っぽくなれちゃう。Instagramの写真とかも、自分が好きかどうか判断する前にハートがたくさんついてるから「いい写真!」って思っちゃうとか。そうやって情報を受け取るだけで生きていると、自分の好きなものは何か感じる機会もないし、忘れたままでも生きていけちゃうんですよね。
でも、たとえファストファッションで買い物したとしても「ずっと着たいと思う好きな服」を買って長く着るのであれば、それは消費のサイクルを延ばしてゴミを減らすわけだから「エシカルな消費」と言っていいんじゃないかなと考えています。
ファッションを入り口に「エシカルな消費」に気づいてほしい
――「エシカルファッションブランド」を選ぶだけじゃなく、「エシカルな消費」を意識するという視点もあるわけですね。
鎌田:
正直、このあたりはエシカルファッションを推進している人の中でもそれぞれに考え方は違うと思うんです。
でも、現実問題「オーガニックやフェアトレードの服じゃないとダメ!」と言い出すと、おしゃれの幅はせまくなっちゃう。そのくらい、フェアトレードやオーガニックの服って一般的なアパレルブランドの商品数に比べると圧倒的に少ない。逆にエシカルな作り方をしていても、それを主張していないブランドさんもありますし。「おしゃれしたい」と思うと、どうしても既存のエシカルファッションブランドだけでは選択肢が少なすぎます。
私も以前、エシカルファッションの存在を知って間もない頃は「ファストファッションを買うし、全身フェアトレードの服を着ているわけでもない私が、エシカルを語る資格なんてない……」って、エシカルにまつわることを一切言わないようにしていた時期もありました(笑)。
鎌田:
でも「100%できないなら諦める」というのも違う気がして、しばらくモヤモヤしていたんです。
そんなときに「エコ仙人にならなくていいんだよ! 10%でも20%でも自分なりにできることをやれば?」と言ってくれた人がいて、そのうち「ものを大切にして余計なゴミを増やさない」「好きなものを大切に長く使う」という選択も人や地球に優しいエシカルな価値観だな、と気づきはじめて。
大好きなおしゃれを我慢して「人のため地球のため……」と頑張っても長続きしないし誰もハッピーにならない。まずは自分が「好き!」「心地いい!」って思える感覚を最優先に物を買えばいいんだと思います。
そうすれば「流行ってるから」「安いから」といった基準だけで物を買うことも自然となくなっていくはず。「エシカルファッションブランド」を着るのもいい方法ですし、難しいときは「何を買うのか」「どう使うのか」を考えながら、できるだけ「人と地球に優しいエシカルな消費」になるようにする、というのも大事な視点だと思います。
「長く着られそうだったら買ってね」に込めるメッセージ
――ある109ブランドと、エシカルなコラボを企画しているのだとか。
鎌田:
はい。そこは個人的によく買うブランドのひとつなんです。「エシカルファッションブランド」というわけではないし、コラボでも最初はオーガニックコットンを使いたかったけど、価格帯とか期間とかいろいろ制約があって。
そこで「じゃあやめる!」と言うのは簡単なのですが、よくよく考えたら私自身そのブランドのデザインや形が好きで、めっちゃ大事に長く着てるんですよ。飽きちゃったらすぐ服を捨てる若い子も多いけど、洋服のどこかに「100回着られそうなくらい好きだな、と思ったら買ってください」とか「来年もまた着てくれる?」みたいなメッセージを発信するなら面白いかもと。
メッセージを見た人が「なんで?」って思ってくれたらエシカルな消費を考えるきっかけが生まれるし、理由を知った人のうち何人かは、109の他の店でも「この服100回着られるかな?」「来年もまた着たいと思えるかな?」って基準で服を見てくれるかもしれない。
「貿易の不平等が」「仕事の機会が」「環境破壊が」というところから話をしても、109に来てる世代にとっては別世界の話なんです。それなら身近な109の中から、エシカルな消費を考えるきっかけを作るのも意味があるんじゃないかなって。
エシカルファッションを楽しむには、何から始めればいいの?
――そもそも、どうしてエシカルファッションプランナーになろうと思ったんですか?
鎌田:
中学生のときにバリ島に家族旅行に行って、小さな子どもたちが物乞いをしてるのを見たんです。自分が過ごしてきた環境しか知らなかったから「こんな生活をしている人もいるんだ」ってすごくショックを受けて。それがきっかけで高校のときにボランティアに参加するようになりました。
でもボランティアだと一時的な手助けはできても、貧困問題そのものを解決するのは難しい。それなら途上国に仕事の機会を提供すれば、自分たちの力で豊かになっていけるかも、とフェアトレードにも興味を持ったんです。
エシカルな洋服を提案するプランナーの活動を始めたのは、服が大好きで一番身近だったというのが大きいかも。
高校時代からモデルをやりながらアパレルでバイトもしていたので、若い女の子の「やっぱり服が好き」っていう気持ちがよく分かる。それなら服をきっかけに「フェアトレードやオーガニックが、どうして必要なの?」というところを発信していけたら面白いし、モデルをしていれば興味を持ってもらいやすいんじゃないか、と考えたんですよね。
――若い世代に「エシカル」を発信してみて、反応はどうでしょう?
鎌田:
以前、自分でフェアトレードのトートバッグとヘアゴムを企画して「こういう問題があるので、こういうグッズを作ったよ」と紹介したことがあるんですけど、予想以上の反応!
「知らなかった、ショック!」とかブログにコメントがたくさん来て。きっと知るきっかけがないだけで、大好きなファッションとか、自分たちの生活といったん結びつけば若い子もつながりを感じてくれるみたい。
鎌田:
生活と言えば先日、友だちがスウェーデン留学から帰ってきて「北欧にはファストファッション着てる大学生なんてほとんどいなかった」って言うんです。
大学生ともなると、自分の好きなものをきちんと選んで買い、大切に手入れしながら着るのが身だしなみらしくて。物価は高い国ですけど、スーパーでは割高でもエコマーク製品を買う人が多いし、街中では不要なものをリサイクルするため、毎週どこかでフリーマーケットが開かれている。
友だちは流行のおしゃれが好きな普通の女の子だったんですけど、そういうエシカルな環境で1年暮らしたら「たくさん物を買ってすぐに捨てる生活っておかしくない?」と思った、と。
一度考えて買い物するきっかけさえできれば「安い!……ということは?」「500円!?……もしかして。」みたいに値段の背景を考えたり、ほんとに必要なものだけを買うようになったり、若い世代のライフスタイルは変わっていくんじゃないでしょうか。
――私たちもエシカルファッションを楽しむには、何からはじめればいいんでしょう?
鎌田:オーガニックの服を着て「エシカルファッションです」というのは一番シンプルですが、根っこは「本当に私の着たい服って何だっけ?」って考えることだと思うんです。
世の中の会社の多くは、物をたくさん作って、たくさん売らなきゃいけないから「あなたのスタイルは古い」とか流行の情報をどんどん流す。それは資本主義の仕組みの中ではあたりまえだと思うんですけど、無意識のうちにその流れに取り込まれていると、どんどん物を買うハメになるし、本当に好きなもの・欲しいもの以外は買っても買っても心は満たされないし、流行が変わるといらなくなってゴミも増える。それってなんだか悲しくないですか?
流行りじゃなくても、たくさんじゃなくても、安くなくても、本当に好きな服を着ていたら幸せなはず。だから「買うからには責任を持って大切に着られる?」を考えるのがエシカルファッションのスタート。もっと興味があれば、どんな人が作っているのかとか企業のウェブサイトを見てみるのもいいと思います。
疑問があれば「オーガニックの服は作らないんですか?」「フェアトレードに切り替えないんですか?」とか好きなブランドに問い合わせするのもいいですよね。そういう声が増えれば、コストが高くなるからできない……と悩んでいた企業も「お客様の要望があるなら」と安心してエシカルに変わっていけるかもしれない。
エシカルブランドを着るのはあくまで手段のひとつです。自分もファッションを楽しむなら、作っている人も幸せだったらいいな、とかシンプルに興味を持ってみるのが、エシカルファッションの第一歩じゃないかなと思っています。
Interview/Text: 木内アキ
Photo: ©ピープル・ツリー/神藤 剛(kamada arisa)
Photo: ©ピープル・ツリー/神藤 剛(kamada arisa)
記事提供:Qreators.jp[クリエーターズ]
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