彼は生前にこのような言葉を残している。戦争を生き抜きながらも、映画に触れ続けてきたビリー・ワイルダーとは一体どのような人物だったのだろうか。そして、彼のこの言葉の真意とは。
映画監督「ビリー・ワイルダー」とは?
出典:screencraft.org 青年期は地元で新聞記者をしていたが、21歳の時に映画の脚本家を始める。とはいえ、脚本家としての生活は貧窮を極め、当時は家の家賃も払えないほどだったという。
1929年、彼が23歳の時、『日曜日の人々』という映画でその才能を見出され、ドイツでも指折りの映画会社ウーファへ招かれる。その後はヒット映画を連発し、脚本家としての生活も軌道に乗り始める。
ところが、1933年ごろから、アドルフ・ヒトラー率いるナチス党が台頭してくる。共産党の仕業に見せかけたナチスによるドイツ国家議事堂放火事件の勃発を知ったワイルダーは職を捨て、フランスへ亡命。とはいえ、フランスでは労働許可証がなかったため、偽名で脚本の執筆をしていたという。
後にアメリカ・ニューヨークに飛んだワイルダーは、映画監督になることを決意。数々のヒット作を世に送り出し、その生涯を映画と共に過ごしたのだ。
ビリー・ワイルダーという映画監督は、21世紀の映画監督たちにも強い影響を与え、そして尊敬を集めている。『THE 有頂天ホテル』や『清洲会議』などのヒット作を生み出した映画監督・三谷幸喜もワイルダーの世界に魅力されたひとり。ちなみに、ワイルダーの死の前年、2001年に三谷はテレビのとある番組でワイルダー(当時94歳)と会談している。
後の世の人々にも強い影響を与えるビリー・ワイルダー、もといワイルダー映画だが、彼の作品の「何が」ここまで人々を魅了するのか。それは彼が“エンターテイナー”だったからだろう。
ワイルダーの言葉をもう一度引用しよう。「私は芸術映画は作らない。映画を撮るだけだ」。この言葉はビリー・ワイルダーという映画監督が“アーティスト”ではないということを指している。
ビリー・ワイルダーは決して「自分のための映画」を撮らなかった。「人々のための映画」を撮り続けてきたのだ。映画というエンターテインメントを成立させるのは、それを見る人々があってこそ。強いて言えば、それを見て楽しんでくれる人があればこそ。
ビリー・ワイルダーという人間のこのエンターテイナー気質こそが、私たちを惹きつけてやまない理由なのだろう。ここからは、ビリー・ワイルダーの60を超える作品の中でも、筆者がとりわけおすすめだと思う映画をご紹介していこう。
おすすめワイルダー映画①「サブリナ」
“美しい三角関係”
出典: Amazon.co.jp オードリー・ヘップバーンという名女優の名はご存知だろう。女性の理想像といっても過言ではないだろう端正な顔つきと、キュートな仕草。彼女の魅力には筆舌に尽くしがたい節がある。
彼女の代表作としては『ローマの休日』が引き合いに出されることが多いが、実はこのビリー・ワイルダーによる映画『サブリナ(邦題では『麗しのサブリナ』と呼ばれる)』も、ローマの休日に並ぶ名作として名高い。
ここでは内容に関する詳しい言及は避けるが、一言で表すなら「美しい三角形」といったところだろう。昼ドラのようなドロドロしてるだけのくだらない三角関係などワイルダーは描かない。非常に爽やかで、美しい三角関係。ぜひ、一度見てみて欲しいワイルダー映画だ。
おすすめのワイルダー映画②「情婦」
“これぞ衝撃のラストだ!”
出典: Amazon.co.jp 「最後の5分。全てが覆る」などという広告文は数多あるわけで、確かに映画におけるクライマックスというのはその映画全体を左右してしまう。特にサスペンス要素の強い映画は、ラストシーンのインパクトが非常に重要なファクターとなる。
しかし、小手先だけでラストを覆すような映画をワイルダーは決して許さない。その代表的な作品が、1958年の『情婦』という映画だ。この作品の完成度の高さには、心からの驚嘆しか湧いてこない。
一つの事件から始まるストーリー。ラストに二重のどんでん返しがあり、物語終了後に「この映画の結末を未見の人に話さないでください。」という旨のナレーションが流れることでも有名。だから、観てもまだ観てない人には言っちゃダメですよ。
おすすめのワイルダー映画③「アパートの鍵貸します」
“笑って、笑って、ちょっと感動”
出典: Amazon.co.jp アカデミー作品賞・監督賞など5部門で受賞したワイルダー映画(とはいえ、ワイルダー映画にとっては珍しいことではないが)に『アパートの鍵貸します』という作品がある。1960年に公開された本作は、コメディ映画史に残る名作として名高く、笑って笑って笑って、ちょっぴり感動できる作品だ。
ストーリーは題名通り、自分のアパートの鍵を上司に貸すことで、自分の勤務評価を上げてもらっているバクスター。典型的な出世映画だが、ラストにたどり着くまでの道のりがとても面白い。
ちなみに少しだけ背景知識を加えておこう。劇中の時代のニューヨークは、ホテル(ラブホ?)といった簡易宿泊施設がなく、浮気をするには誰かの部屋を借りる必要があったのだ。そこでバクスターは上司たちの駒になっているのだ。
全体を通して趣向に長け、笑えるコメディ映画。ビリー・ワイルダーという映画監督・人間の考えるコメディの全てがこの作品には詰まっているといっても過言ではない。
ユダヤ人でありながら戦争を生き抜いたビリー・ワイルダー。彼の作品はいたるところにトリックが隠されている。「常に人を楽しませるための映画であって欲しい」そんな思いが感じられるような作品ばかり。
それゆえに、彼はジャンルに縛られなかった。サスペンスからラブストーリーまで、幅広い映画を撮り、人々を楽しませてきた。秋の夜長にワイルダー映画、いかが?
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