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「一度食べたらやめられない」加工食品に仕掛けられた“至福ポイント”の罠を暴く:『フードトラップ』

中村麻人

2015/09/23(最終更新日:2015/09/23)


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「一度食べたらやめられない」加工食品に仕掛けられた“至福ポイント”の罠を暴く:『フードトラップ』 1番目の画像
by byzantiumbooks

 かつて日本で「やめられない、とまらない」というキャッチコピーで、一世を風靡したスナック菓子があった。そのスナック菓子を思わず食べ続けてしまう理由は、私たちが誘惑に負けてやめられなくなっているわけではない。そのスナック菓子が“やめられなくなるような味”に調整されて作られているからなのだ。その脳内の快楽を握ってしまうような糖分・脂肪分・食塩の絶妙な配合バランスを、「至福ポイント」と呼ぶらしい。

 本書『フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠』は、加工食品の裏側を暴くことに奔走しているニューヨーク・タイムズの記者、マイケル・モスによって執筆された。モスが行った米国食品業界のキーマンへの数百回のインタビューや、膨大な数の研究論文などを参考にして、本書は書き上げられている。

 この記事では、モスの調査によって明らかになった加工食品の恐ろしい裏側をいくつか紹介したい。

本のハイライト

「一度食べたらやめられない」加工食品に仕掛けられた“至福ポイント”の罠を暴く:『フードトラップ』 2番目の画像
出典: Amazon.co.jp

・糖分・脂肪分・食塩の3つの成分は、コントロールすることによって、消費者を虜にすることができる成分である。食品メーカーは、ヒット商品を産むためにこれらを駆使している。
・一方で、米国ではこれら3つの成分の過剰な摂取を招いており、肥満や病気が急増している。
・業界内部でも、現状に危機感を覚え、糖分・脂肪分・食塩を減らした商品の販売に舵を切ろうとする企業もあるが、競合企業との熾烈な争いを前に、ステークホルダーの非難を浴びて実現しない。食品メーカーも、フードトラップに捕捉されているのだ

出典:フードトラップ | 本の要約サイト flier (フライヤー) - 1冊10分で読める ...

“やめられない、とまらない”秘密

 まずは、“やめられない、とまらない”要素の一つである糖分に焦点をあてて、様々な食品が消費者を虜にする秘密を探っていこう。

 「糖分」の章では、ラットを使った実験によって明らかになったことが紹介されている。1960年代、当時大学院生であったアンソニー・スクラファニは、偶然ラットが甘いシリアルを非常に好むことを発見した。

 ネズミは習性で暗いところを好んでおり、明るい場所にネズミがいることは滅多にない。だがシリアルが明るい場所に置いてあるときは、ネズミは本能的恐怖に逆らい、甘いシリアルを食べに明るい場所に出向くことをスクラファニは発見したのである。

 本書では、人間の糖分に対する感じ方を「モネル化学感覚研究所」の研究を参考に紹介している。モネル化学感覚研究所では、人種・性別・年齢によって味の好みが違うことを証明した。例えば、子どもとアフリカ系米国人は、他の年代・人種より甘みを好んでいることなどだ。

 特に子どもは、急激に成長するためにエネルギーを欲しているので、甘みに強く反応する。甘いものを口に入れると子供は強く興奮するのだという。

太りつづける米国人

「一度食べたらやめられない」加工食品に仕掛けられた“至福ポイント”の罠を暴く:『フードトラップ』 3番目の画像
by Joe_13

 食品メーカーは、この秘密を利用して罠を仕掛けているが、その影響を顕著に受けているのは米国人たちだ。加工食品業界が“やめられない、とまらない味”を作り続けることによって、米国人たちは自分たちをいつでも満足させられる、手軽で手間がかからない食事をすることが出来る環境を手に入れた。

 そうして米国人が一日に摂取する糖分、塩分、脂肪分の量は、健康を維持するには多すぎる量になった。糖分の健康を維持する量としては、活動量が中くらいの女性なら小さじ5杯、男性なら9杯が丁度いいと言われている。だが、米国人たちが一日に摂取する糖分の量は、1日小さじ22杯分の糖分なのだというのだ。

 米国の肥満問題は、深刻になっていく一方だ。成人の肥満率は35%にのぼり、加工食品の影響を受けやすい子供の肥満率は、2008年に20%に急増しているという。

加工食品メーカーも捕らわれてしまった罠

 消費者の健康を害する自分たちの食品の凶悪さに気づいた企業は、食品に含まれる糖分の量などを減らそうとする。だが、食品メーカーが健康を意識した食品作りをするには、莫大なコストがかかる。支出に対してそれに応じた支払いがなければ、担当者はビジネスマンとしての危機を迎えてしまう。そのため、簡単に満足してもらえる至福ポイントがない健康を意識した食品づくりなど、誰も担当する気にならないのだ。

 一度利益が上がると、後戻りできなくなってしまうことは企業の悪徳だ。消費者のことを考え、自らが提供する食品を改善しようとすることは、企業側にとって諸刃の剣なのだ。提供する側、提供される側も罠にかかってしまったこの状況で、モスはこんな言葉を読者に贈る。

「最終的な選択権はわれわれの手にある。何を買うかを決めるのは私たちだ。どれだけ食べるかを決めるのも、私たちである」

 この記事では、食品にまつわる恐怖の一部しか紹介していないが、本書ではモスによる綿密な調査をもとにした恐ろしい裏側が描かれていている。本書を読めば、あなたは選択を誤らずにものを食べることが出来るだろう。


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