優秀な人材は常に争奪戦。近年その範囲は国内だけでなく、海外の優秀な学生にまで及んでいる。しかし、それでも限られた人材を手に入れることは難しい。
創業20年、年商50億円のウィンコーポレーションの経営者である中村真一郎氏は、「優秀な人材が社内で確保できないのであれば、どれだけ優秀な人材を外部に置けるかが“企業成長の鍵”だ」と言う。 これからの社会を見据えた先進的な取り組みとして、同社は外部人材の活用を事業戦略に組み込み、その活用方法やノウハウを蓄積している。
外部人材の活用がどれだけ事業に効果をもたらすのか、中村氏の話を伺ってみた。
社員だろうが、外部人材であろうが、区別はしていません。
――人材を外部から入れるというシステムは何年前からやっていますか?
もう10年以上前からやっていますね。実は、優秀な人材がなかなか会社に入ってこないというのがきっかけで、このような働き方を導入したのです。一方で、優秀な人が入ってきても、その人材を活かすことができる社員が中小企業の場合は少ないと思います。社長が優秀な人材を使えたとしても、社長と同じ感性を持った社員はそうそういません。考え方が同じような人はいたとしても、同じようにクリエイティブな発想で使いこなせるかと言えば、それは難しいでしょう。
私は正直、社員であろうが、外部の人材であろうが、区別はしていません。多くの優秀な人は独立したりフリーランスだったりと、一つのところに留まることがないのです。
また優秀な人でも、会社に入って馴染めるという保証はありません。さらに、「良い人材が入ると中間管理職は潰しにかかる」というのが日本の企業の特色として言われることがあります。外資系の会社は実力主義なのでいいですが、日本の企業は労働者を守らなければならないという使命があります。人間関係のトラブルの対処法を考えるより、ある分野で優秀な人をどれだけ外部に置くことができるかということを考えたほうが良い場合もあると思います。
――従来の雇用システムの考え方を変えられた理由は何ですか?
我が社は、創業20年で年商50億になります。これくらいの規模になると自己満足してしまう経営者は多いのですが、私は年商1000億規模を目指しているので、まだまだ満足をしていません。だから、いかに優秀な人材を持つか、他にない発想を持つか、優秀な人脈をどれだけ引き入れるか、こんなことばかり考えています。
今は景気がいいので人も足りないほど仕事があり、誰もが余裕を持っています。しかし本来は、景気の悪くなったときにどれだけ仕事が確保できるか、というテーマをクリエイティブな思考で考えなければならないのです。
このような考えのできる人は、社内にはそう多くありません。社内には、立派な箱があれば実力が出せるが、そこから飛び出すと意外に結果を残せなかったり、ブランドがあれば力が出せるが、ブランドがなくなった途端に何もできなくなったりする人がいます。一方、独立している人は、本当に実力がないと生き残れないのです。
このような人材をいかに掴むことができるかで、企業を成長させられるかどうかが決まってきます。私は普段から、基本的に同業の人とは全く付き合いません。どれだけ異業種の方と付き合って、どれだけ異業種の発想を吸収するかです。同じ目線のところではなく、過去に大きなことをやっていた人、大きな器のような人と付き合わないとダメだと思っています。
質の高い仕事を実践するために、個人の裁量で必要な人材を確保する
出典:plus.google.com――外部から来た方は、どのようなポジションになるのですか?
基本的には私の直轄ですね。会社の成長を促す上での中小企業の悩みは、社内に置きたいと思う人材を置けないということ。たとえ置いたとしても、社長と社員との意識格差が露呈し、上手く融合されないということが多々あります。優秀な人材を使いこなせる会社は、一説には全体の20%くらいと言われています。
我が社でも、社内にいる人の考え方とフリーランスなどの考え方が異なる点が多く、うまく機能しないケースがあるので、私や役員などがその人と直接仕事をするのです。なので、外部の人を雇っても、仕事内容によってはあまり社内にも開示しないケースもあります。
――今入っている方には、どのような仕事を任せていますか?
「ウェブ戦略策定」というテーマで入ってもらって、コーポレートブランドの確立やホームページの見せ方などのディレクターをやっていただいています。その他、人脈を広げるためだけの多種多様なネットワークを持っている人や、事業部ごとで金融系の強い人、商社系の人など、分野ごとで外部人材を持っています。
私だけではなく、役員の中にも外部の優秀な人材を持っている人がいます。特に奨励しているわけではないのですが、事業を円滑に遂行するために必要であれば、当たり前のことだと思っています。
――組織的な伝達はどうしていますか?
毎週月曜日は各部署の長が集まって会議をしていますが、私は個人的に「一丸となってやるぞ!」といった体育会系の働き方が嫌いなので、我が社にはタイムカードがありません。各自で考え、実行してもらいたいと考えています。ですから、仕事のスケジュールなどは全てネットで管理しています。事業部ごとでグループを作り、そこに各自のスケジュールを入れて情報は全て開示しています。クラウドで管理しているので、一事務員から派遣で来ているアルバイトまで全ての情報が見えるようになっています。
しかし完全結果主義ではなく、個人のやり方で結果を出すという働き方なので、人材に関してもある程度は自由に扱えるようにしています。
――事業として継続すると決めたときは外部から社員として受け入れますか?
ケースバイケースです。本当は社内に入れたいけど、失敗するリスクが高いのが現状です。ある種、博打のようなものですね。それよりは外部に依頼して、その人の履歴を見て、お会いしてからプロジェクトベースで管理した方が効率が良く、効果的である場合も多い。今の時代、高い費用を出し求人広告を打っても、良い人材が採れる可能性は低いことが懸念されます。
実は、最近悩んでいるのは、中途採用です。特に優秀な営業を獲得することが課題です。優秀な人はどこかに囲われているし、引き抜くことになると企業間の関係性も難しくなるので、外部をうまく使った方がいいという結論になることもあります。
――人材の良し悪しを見抜くポイントはありますか?
見る点は、人の話を聞く態度・雰囲気・声のトーンです。具体的に言うと、自慢しない人ですね。「過去に○○をやっていた」と自慢する人は、たいてい仕事ができません。また過去の会社や「どこどこにいて」と語る人も、大体がダメ。大手の企業にいた人はほとんどそうですね。過去の栄光にすがっているような人もいます。自分の力ではなく大きな看板のおかげだったりするのに、そこに気づいていない人は仕事ができないと言わざるを得ません。
あとは人の話を聞かない人はダメです。人の言うことも聞かず一方的に自分の考えを押しつける人です。結果が出なければ、ただのほら吹きになってします。威張る人もダメ。50歳、60歳で威張らないで話せる人は、あまり見たことがありません。
実は、副社長は元々業務委託だった
――これまでに外部人材を活用し、失敗したことはありますか?
あります。定額のコンサルタント契約は、基本的に失敗します。結論からいうとフィーが合わないということ。例えば週1回の出社でも、ある程度の金額をお支払いします。そのときの実働とギャラの費用対効果が悪いということです。自分からプロジェクトの提案ができる人は10人中2人くらいで、あとは受け身になります。
こちら側がうるさいくらい言えば有効活用できるかもしれないが、それではプロに参画してもらっている意味がないのです。だから月々決まったコンサル料という契約では、不満が出ます。定額のコンサルタント契約ではなく、成功報酬型がいいのです。我が社が基本的にコンサル料をとらないのは、経費削減の他にそのような理由があるのです。
逆に外部の人材を上手く使いこなすことができれば、パフォーマンス以上の結果を出すこともあるでしょう。しかしその場合、こちらも忙しい中時間を割いて指示を出さなければならなくなり、時間がないという理由でアシスタントにコミュニケーションを任せてしまいます。すると、使いこなせないので外部人材がやめることになる。この繰り返しになってしまうのです。
――その場合の使いこなすコツはありますか?
面倒くさがらないことです。積極的に提案をして、課題を与え、期日を決めて提出してもらう。他に数ヵ月に1回は小言を言うことです。やはり言わないと甘えが出てきます。
ある程度の金額以上になると、それに見合った結果を要求しなければなりません。たとえ経営者自身は、「この程度でいいか」と思っても、他の社員は「何のためにお金を払っているのか!」と不満が生まれるからです。社内で理解させるためにも結果を出してもらわなければなりません。
――では、これまでに外部人材を使用し、成功した例は?
今の副社長の事例です。副社長は以前、業務委託による外部人材として我が社とお付き合いをしていました。副社長が持つ食材流通事業部のビジョンに共感でき、実際に30億円、50億円の収益になったのをきっかけに、我が社に入ってもらおうと思ったのです。
しかし当時、副社長自身も数社の会社を持っていました。優秀な人は、いろんな会社の面倒を見たりしているので、完全に引き入れるにはそれに見合った報酬も払っていかなければなりません。そこの整理には数年の時間がかかりましたが、今では我が社の副社長として手腕を振るっています。
――その他に社員になられている方もいますか?
います。それは大企業を辞めて独立して、小さな会社の社長をしていた人です。非常に能力は高いのですが、小さな会社では発揮できないのではないかと思い、会社は残していいので一緒にやらないかと我が社に引き入れました。独立して1人になると人の器が出てしまいます。その器がどの程度なのか、もったいないなと思う人がいます。そんなときは、「この器の中でやってみたらどうですか」という提案をすることもあるのです。
――外部人材として良い関係を続けているのは、長い人でどのくらいですか?
外部人材として10年以上の付き合いを続けている人がいます。我が社では、社内に引き入れないで外部に置いて応援をするし、仕事もお願いするというノマド的な関係も結構多いのです。その最終形がM&A。はじめは外部の人材として応援をしながら仕事をしてもらう。それで様子を見て、互いにメリットが大きくなっていけば本格的に株の売買の話になり、最終的には「株を買い取るので、グループ会社になりませんか」という話になるのです。
観ている世界が違う外部の人が加わることで幅が広がる
――外部人材と仕事をして、考え方が変わったことはありますか?
変わったというより、視野が広がったと言った方が良いかもしれません。会社としては本来、必要な人材は社内に入れて働いてもらうべきなのでしょうが、ハズれる場合も多く、そのときが大変です。
外部に相談役がいると、客観的な視点でものを見てくれるので非常に助かります。今回のホームページでも、社内とはまるっきり違う方向からの意見が出て、それをマッチングさせると非常に面白いものができると思います。これを社内だけでやると小さい世界のモノしかできません。観ている世界が違う外部の人が加わることで幅が広がります。そういう意味では、非常にありがたいし、結果としても素晴らしいと思います。
中村真一郎(なかむら・しんいちろう)さん プロフィール
山梨県甲府市出身。両親は大手百貨店と取引する県内では知られた有機栽培のインゲン農園を経営する。最近は農業を支援する事業も開始。1989年4月佐川急便グループに入社。92年4月軽貨急配、94年4月シーエスシーコンサルティングを経て、95年7月ウィンコーポレーションを設立し現職に至る。
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