企業の競争戦略の立て方は、ストーリー作りと似ている部分がある。良い結末を考え、そこまでの道筋を考える。どれだけ良い脚本を書けるかは、論理性や具体性、実現可能性が重要となってくる。
優れた戦略ほど面白く、思わず人に話したくなるようなものだ。戦略における選択の一つひとつが互いに関係し合い、全ての流れが結果に繋がる。それはまるで起承転結を踏まえた一続きのストーリーである。
今回紹介するのは、競争戦略をストーリ作りに見立て、そのポイントを実例と共にまとめた『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』という一冊である。
戦略に大事なのは「違いをつくって、つなげる」こと
戦略に大事なのは「違いをつくって、つなげる」ことだと著者は述べる。よく競争戦略のポイントとして、他社との違いを生む「差異化」というものが挙げられる。差異化は、企業が独自の価値を生み、優位性を持つためには必要なことだ。しかし、他社との違いを考えるだけでは企業としての軸がなく、価値が生み出せない。そうならないためには、どのような成功を収めたいか結末を考え、望んだ結末を生むための差異化を行わなければならない。しっかりとストーリーの起承転結を考えるのである。
本書の中では、マブチモーターという小型モーター専門のメーカーの事例を取り上げている。昔モーター業界では、製品メーカーの注文に合った特注仕様のモーターを作ることが一般的であった。メーカーや製品によってモーターに求められるニーズは異なり、また各モーター製造メーカーも得意分野が異なるため、モーター市場全体に対するシェアの拡大が難しかった。そのなかで、マブチモーターは大量生産可能な標準化したモーターの開発と、金型さえあれば生産に高い技術がいらないため人件費や土地代の安い海外に生産拠点を置くという差異化を行い、モーター市場全体を相手にしたシェアの拡大を図ったのである。
マブチモーターは単一モデルしか生産しないため、質の向上にも注力した。高い質があり、大量生産によって安く買えるモーターは製品メーカーの受けが良く、マブチモーター製の小型モーターに合わせた製品を製造するメーカーが徐々に増え始めていった。その後、マブチモーターが望んだように市場におけるシェアは拡大し、大きな利益を生むことができたのである。
戦略に不可欠な他社との違いの作り方
前項で述べたように、戦略には「違い」が重要である。この項では、「違い」についてもう少し詳しく見ていく。
著者は「ストーリーとしての戦略を考える際には、適切な違いを選び取ることが重要である」と述べる。適切な違いを選ぶというのは、違いにも種類があるということである。本書では以下二つの違いが挙げられている。
Strategic Positioning(SP):他社との違い
これは他社と違うところに自社を位置付けるというものである。例えば松井証券は、他の証券会社が顧客へのコンサルティングの方法で競合との差異化を図っている中で、そのやり方を一切捨てることにした。そして、ネットでの取引のみに注力し、ネット証券による優位性を得た。
Organizational Capability(OC):自社独自の強み
これは競争に勝つために自社独自の強みを持つというものである。例えばセブンイレブンは、他の小売チェーンが採用している全店舗の実績や発注履歴の集計による自動発注システムとは異なるシステムを使っている。それは、店舗ごとの情報に合わせた仮説を元に発注料を決める仮説型発注を行うもので、他の小売りチェーンとは違い、地域に根ざした店舗経営を行っている。
この二つは、両方揃っていて初めて成り立つものである。他社にはない自社独自の強みを持つためには、他社との違い(SP)が明確で、強力な自社独自の強み(OC)があることが重要だ。しかし、どちらかに偏っている企業が多いと著者は述べている。自社の強みはどうか? 今一度、見直してみるべきである。
ストーリーとしての戦略作りに必要な5条件
ストーリーには起承転結という柱が必要である。もちろん戦略にも柱がある。本書で著者は、戦略における5つの柱を以下のように示している。
コンセプト(起)
違いを生み、成果を出すためには、どのような顧客価値を生むのが適切かを考える。そのためには「顧客が何を欲し、何を避けるのか」という市場内の顧客にとって魅力となる価値を計る必要がある。
構成要素(承)
前項で述べた他社と違う位置づけ(SP)や自社独自の強み(OC)を踏まえた「違い」を考える。
クリティカル・コア(転)
様々な「違い」を持ちながらも企業として一貫した軸を持つ。例えば、スターバックスは、他のチェーン店とは異なり、店舗数が多いのにも関わらず直営方式という管理コストのかかる方法を取っている。一見すると不合理な「違い」に見えるが、直営方式によって一貫した企業イメージを作り出している。
競争優位(結)
最初の方でも述べたが、戦略は結末から考えることが重要である。ストーリーとしての戦略をを考える上では、まずどのような違いを生み、市場で競合との競争のない自分だけの土俵を作るかという結末を考えることから始める。
一貫性(つながり)
コンセプトや構成要素で考えた「価値」やそれを生み出す「違い」が、互いに望んだ結末につながるかどうかを考える。
優れたストーリーとしての戦略を立てるためには、この5つの柱のどこが欠けてもいけない。しかし5つ全ての柱を同時に建てることも難しい。一つひとつの柱を丁寧に固めていくことが重要である。
戦略をストーリーのように考えることで、適切な選択をすることも望んだ結末を迎えることも可能になる。ぜひこの本を読んで、これからの戦略作りに生かしてほしい。
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