ついつい「期間限定」や「特売セール」という言葉に踊らされ、衝動的な買い物して、後悔してしまったことはあるだろう。
本書『社会の抜け道』では、冷めた社会学者・古市憲寿と怒れる哲学者・國分功一朗の対談を通して、人を踊らせる社会の構造とその社会を上手く渡っている「抜け道」を見つけた人々が描かれている。
「消費」というキーワードから見えてくる社会の構造と、その抜け道を見つけた人々の姿とは一体――。
消費者を巧みに踊らせる「IKEA」の仕組み
世界的な家具販売店・IKEA、國分はIKEAのことを「使いようによっては生活を豊かにするとてもいいツールだが、全く計画性がなくブラブラ来た人は、無駄に家具を買わされてしまう場所だ」と批判している。
同じ家具量販店であるニトリであったなら、店員が買う側が必要なものを選ぶのを手伝ってもらえるが、IKEAはそうではない。IKEAには、消費者が買いたくなるような様々な仕組みがある。
例えば、他の家具店にはない小物が散りばめられていたり、同じ品物が違うディスプレイで何度も登場するように見せる店の構造などである。結果的に、消費者の手が伸びてしまう。
つまり、IKEAは消費者の能力が試される仕組みになっていて、楽しめる人にはとても楽しめる場である。だが買い手のリテラシーが高くない場合は、望んでないものを買わされてしまうのだ。IKEAは、買い物のリテラシーが高くない人にとっては、非常に強い不満足感や退屈感を作り出す。
浪費は満足感を与えるが、消費は人々を踊らせるだけだ
IKEAのように、社会の中には人々を踊らせようとする構造は溢れている。その構造から見えてくるのは、どんどん発達していく消費社会の一つの悪しき側面だ。
國分は、「記号」に踊らされて消費してしまうと指摘する。この場合の記号とは、人と比べる際に利用できるデータのようなものだ。「私はあの店にもこの店にも行ったことがあるのよ」というとき、人は他人と自分を比べている。その際、その「店」が記号として扱われているのである。
本書で國分は、『ファイト・クラブ』という映画を取り上げて、消費に翻弄される主人公を紹介している。この映画の主人公はブランド狂であり、まるでIKEAのショールームのような部屋に住んでいる。主人公は、カタログのような部屋を目指してものを買っている典型的な記号消費の人間なのである。
このような記号に溢れている社会で踊らないためには、満足感をもたらす「浪費」と、記号によって踊らされることで起こる「消費」を区別し、理解するべきだというのが國分の主張だ。
上手くIKEAに踊らされている主婦
このような消費社会で、うまくIKEAに踊らされているのが主婦たちである。
主婦たちは、平日の昼に巧みに記号消費させるIKEAに訪れ、IKEAのおしゃれなフードコートをママ友たちとの交流の場にしている。子供を連れて唐揚げなどを食べながら、楽しくおしゃべりをしているのだ。
社会学では、消費社会が進んでいくと、商店街がなくなりショッピングモールのような画一的な空間に町が置き換えられていき、プライベートな人々の交流はなくなっていくと予想していた。だが、主婦たちはそのような画一的な場所で憩いの場を作っていたのだ。
この記事で紹介したように、この社会では消費者を陥れ、消費させようとする構造があふれているが、踊らされずにその構造を利用するという「抜け道」も同時に用意されている。ここで紹介したのは、一つの抜け道だが、本書には様々な抜け道を見つけた人々が紹介されている。今の生活に閉塞感を感じているなら、手に取ってみて欲しい。
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