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“万年2位”コンビニの救世主は43歳・新社長。新浪剛史の10年にわたる再生と挑戦:『個を動かす』

Shinpei Hayakawa

2015/08/21(最終更新日:2015/08/21)


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“万年2位”コンビニの救世主は43歳・新社長。新浪剛史の10年にわたる再生と挑戦:『個を動かす』 1番目の画像
by Yuya Tamai

 新浪剛史という名前の経営者を聞いたことがあるだろうか。新浪剛史は、2002年に43歳という若さでローソンの社長に就任した(現在の社長は、玉塚元一)。

 新浪剛史が社長に就任した当時は、ローソンの業績が伸び悩み、またコンビニ業界大手のセブンイレブンという大きな相手に直面し、会社内には諦めの感情が漂っていた。しかし、新浪剛史は奇策とも言えるコンビニ業界の常識に囚われない経営戦略を展開し、見事ローソンを立て直し、成長させたのである。

 今回紹介するのは、新浪剛史がメディアに対して初めて語るローソン再生と挑戦の10年をまとめた『個を動かす 新浪剛史 ローソン作り直しの10年』という一冊である。

親会社に振り回されたローソン

 新浪剛史は、ローソンの社長に就任する前は三菱商事に勤務しており、その当時ローソンはダイエーの子会社であった。まだ三菱商事に新浪剛史が在籍している頃、ダイエー創業者である中内功氏からローソン株の一部を三菱商事に保有してほしいという話が持ち込まれた。当時の株式市場では、コンビニ事業はEC(電子商取引)の拠点となる見込みがあり、高く評価されていた。ダイエーは自社の抱える負債を削減するために、株価の高いコンビニ事業のローソン株を売ろうとしていたのである。

 しかし株式市場の予想に反し、米国で起こったITバブルの崩壊が日本にも波及し、国内のIT関連株が暴落し始めた。この流れの中で、コンビニがECの拠点となるという見通しは曇り始め、コンビ二業界全体の株価までマイナスの影響を与えられた。これによりダイエーはローソン株の売却益を得ることは出来ず、またそれを買い取った三菱商事も巻き込まれてしまった。

 ローソン本体からしてみると、自分の手の出しようのない親会社の資本取引によって経営は振り回されたことになる。またコンビ二事業への夢を抱いていた経営による過剰な出店とITバブル崩壊が相まって、ローソン自体も業績不振に陥り始めていた。ローソン社内では経営に対する不信や不満が増す中、新社長として就任したのが新浪剛史であった。

最初に成功体験を作らせる

 新浪剛史が社長就任後、まず最初に行ったことはおにぎりの新商品開発だった。新浪剛史がおにぎりに目を付けた理由は、おにぎりは主力商品でありコンビニの顔になるからである。そこで成功体験を作れれば、ローソン全体の士気に繋がると新浪剛史は考えていた。新浪剛史の最初の奇策は、おにぎりの新商品開発で行われた。

 新浪剛史は、社長直轄のプロジェクトとして商品開発メンバーを決める際に、これまで開発事業を担っていた商品部の人間を全て排斥したのである。おにぎりはご飯と具材を海苔で包むというシンプルな商品であるがゆえに、差異化が図りにくい。そしてコンビニ業界には王者とも言えるセブンイレブンがいたため、おにぎりで新商品を作ることに対して諦めの感情が商品部にはあった。新浪剛史は、この状態では新商品開発に熱がはいらないと考え、あえて開発素人である社員だけで開発チームを組んだのである。

 新浪剛史は「いくらコストをかけてもいいから最高の商品を考えろ」という目標を立てた。素人メンバーは先入観や固定観念がなく自由な発想を持っていたため、時には商品部から見れば頭を抱えるような高級食材を使うこともあった。100円前後が主流である市場で、新商品として売り出されたおにぎりは168円という二倍近い価格のものであり、社内では「本当に売れるのか」という不安の声が上がっていた。しかし食材にこだわったおにぎりは、周囲の予想に反しユーザーの心を掴み、発売後二か月で一億個を超える売上げを叩き出した

 業績悪化に苦しむ中で、新浪剛史は大成功をもたらし、社内の経営に対する不信感や不満を吹き飛ばすことが出来たのである。経営に対する信頼を取り戻した新浪剛史は、この成功体験を土台としローソン改革を進めていくことになる。

徹底した分権経営

 おにぎりの大ヒットから数年、新浪剛史はローソンの営業エリアを七つに分けた支社制を導入し、商品開発や人事など本社の持つ権限を委譲した。コンビニなどチェーン展開するサービスは、本社が全体に対して統一した事業スタイルや企業イメージを浸透させる為に中央集権的な経営が多く、セブンイレブンもその一つである。そのため新浪剛史の経営方針は、コンビニ業界では奇策ともいえるものだった。

 新浪剛史は対マスではなく、あくまで地域の環境や顧客に対応した個店としてのローソンを目指していた。コンビニ業界では、先頭を走るセブンイレブンに追いつこうと、セブンイレブンの経営方法を真似する企業が多かった。しかし新浪剛史は、ローソンが同じ手法を取っていては勝つことなんて出来ないと考えていたのである。だからこそ、コストがかかってでも一つ一つの顧客ニーズを捉えられる分権経営を導入したのだ。

 分権経営によりローソンは、支社ごとに顧客ニーズに合わせた経営を行い、利益を徐々に上げ始めた。その後、ローソン本社は独自のPontaカードを導入し、各地方ごとに細かいニーズ集計と分析を行い、質の高い顧客データを得られるようになった。これにより本社はどの店舗でも扱える商品の開発に注力できるようになったのである。

 こうした新浪剛史の徹底したローソンの分権経営は、他社には真似のできないローソン独自の事業運営と成功体験を生み出したのである。


 大きな成功体験で会社の空気を変える。一位とは違うやり方で勝負する。こうした新浪剛史の経営は、これからのビジネスにとって重要なヒントになるはずだ。ぜひ、この本を読んでみてほしい。



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