「複数の企業で同時に働く」。あなたはこんな働き方を考えたことがあるだろうか? 一つの仕事で手一杯。そう感じる人も多いことだろう。
そんな中、「同時に6社で働く」という驚くべきキャリアを持つ男がいる。会社創業から上場を経験、現在は独立し「ビジネスノマド」として働く釜野晋史氏だ。
釜野氏には「企業再生をする」という明確な目標があるという。その目標達成のためにはどんなステップを踏むべきか考えた挙げ句、たどり着いた答えは転職ではなく、「ビジネスノマド」だった。
釜野氏は、なぜ特定の企業に属さず「ビジネスノマド」として働くことを選んだのか。どうしたら「ビジネスノマド」としてのキャリアを継続させることができるのか。詳しく話をうかがってみよう。
「同時に数社」が最も効率的で目標への最短距離。私がノマドを選んだ理由
ーー 釜野さんは、現在どのような働き方をされているのか教えてください。
私のスキルや強みは、介護・医療業界、人材ビジネス、新規事業、上場準備、管理体制強化といったキーワードで認識いただくことが多いと思います。現在は自身のキーワードに合った会社6社に参画しています。個人のネットワークから紹介されている会社がほとんどです。
ーー
ノマド的働き方をしようと考えたのは、いつからでしょうか?
私は、最初に就職した会社では、まともな成果は出せていませんでした。新卒で入社したタイミングで一部上場するなど、イケイケのベンチャーで働いていました。
自分としても、とにかく仕事を若いうちから早く任せてもらえそうな会社を選びましたし、その通りでした。ただ、自分自身は社会人になってすぐに営業力があるわけでもなく、とにかくがむしゃらに頑張るしか能力もなかったので、どちらかというとすぐに窓際という感じで、ダメな営業でした(笑)。今までお山の大将みたいに自分はできると思っていたところを、思いっきり後ろから頭を殴られたような気持ちでしたね。
「このままではマズい!」とエス・エム・エスに参画してからは、人生が一変しました。今までは“できないまま”でも会社に存続はできていましたが、それからは能力がないという言い訳をしている余裕もありませんでした。目標を持ちながら実践と学習を繰り返していく中で徐々に個人としても成長を実感できました。上場を経験できたことも大きかったです。
数年前から、そろそろ会社を離れ、今後はこれまでの経験を活かして企業再生に携わりたいと考え始めました。そのためには何が必要か考える中で、いろいろな会社の経営体質や経営の中身を知るために、実際に様々な会社に携わりたいなと思いました。
他の方法として、転職を重ねて自分がやったことのない仕事を積み重ねていくというやり方もありますが、それより同時に数社と仕事ができたらもっと効率的ですよね。転職を考えても、すぐに思い通りの会社に転職できるわけではありませんし、自由に部署を渡り歩くこともできないでしょう。
まあ、いろんな会社に同時に入った方が、目標達成への時間が短縮するだろうと思い始めました。そうした中でビジネスノマドというのは、イメージに近い仕事だと思いました。
「言いたいことを言わせてもらう」ことが仕事を継続させるコツ
ーー 今の働き方を、将来もずっと続けていきますか?
私自身、自己分析しながら将来的な自分の働き方を考えると、「企業再生をしよう」という目標にたどり着きました。起業のための手助けではなく、なぜ企業再生なのかというと、「0から1をつくる仕事」と「1を2にする仕事」であれば、私自身の資質上、後者の方が向いていると思ったからです。
「企業再生をする」と目標に掲げたのは良いのですが、これまではデベロッパーと創業経験しかなく、他の業種のサービス形態がどうやって成立しているのかは、肌身を持って知りません。これを知る機会として多くの企業、様々な業種に同時に関与していくことがベストだと思ったのです。
ーー ビジネスノマドは会社に雇用されているわけではなく、派遣とも違いますよね。どういったモチベーションで働いていますか? 何かこのような働き方を続けるコツはあるのでしょうか?
まずこの仕事をするにあたって前提にあるのが、「自分の夢を叶えるため」ということです。確かに社員ではないので、外から会社内の物事を変えたり、推進するのは容易ではありません。辛いなと思うときもあります。しかしその気持ち以上に、「経験になる!」という思いの方が強いので、モチベーションがなくなることはありません。
基本的にどのプロジェクトでも「担当者ではなく、経営者と一緒にやらせてください」という条件を出しています。どんなプロジェクトでも最終決定権は経営者にあり、担当者とだけやっていては、会社全体、または将来を考えた展開をしようとしても理解されないことがあるからです。決断までのプロセスが多く、スピードが遅くなるからでもあります。ですから、「常に会社の経営者と同じ方向を向いて、その経営者とコンタクトがしっかりとれる中で仕事をする」ということを、必ずコミットしてもらっています。
また「言いたいことは、必ず」とはお伝えしています。経営者は、これまでやってきた経験から「自分が正しい」と思っている方が多いと感じます。どんな経営者でも、良い意見のときもあれば、そうでないときもあります。私自身、経営者に同調するために参画しているわけではないので、私自身のこれまでの経験から考えられる合理的な判断で意見を言わせてもらっています。
経営会議でぶつかることはよくありますね。それでも意見を抑えておくことは絶対にしません。このスタンスは前職からずっと続けています。はじめに「それが嫌であれば、最初から言ってください」と伝えています。それでいくつかの案件はなくなりましたけどね(笑)。ただ、それはスタート段階で決めておくので、プロジェクトが進行してからは何も言われません。なので、このような仕事を継続していくコツとしては、「言いたいことを言う」ということですかね。
当然、喧嘩しているわけではないので、建設的な話ができて協議ができれば良いのです。大きな目標を成し遂げるには、「今までがこうだから」「社長はこっちが好みだ」などは関係ないわけで、話を進めていく中で、何が合理的なのかという判断を自分の経験の中から必ず導き出すようにしている。会社の中には、社長の顔色をうかがう人も多いですが、私のような立場だからこそできることかもしれませんね。
「救える会社を救うこと」:釜野氏が叶えたい「夢」とは
ーー 釜野さんのこれからの「夢」は何ですか?
私の夢は、「45歳から世界でトップックラスの会社を5社救う」ことです。
日本でも、大手企業でさえ経営状況は常に安定しているわけではありません。パーフェクトな会社がないということは、大きな案件をお手伝いするチャンスがいくらでもあるということです。会社の中で手術しなければならない箇所、そのとき必要な人材、必要な体制などを総合的に判断して、社内から変革を推進するのも良いでしょうし、外部からするのもよいと思います。
雇用されるのが嫌だとか、外部からでないと嫌だという考えではなく、救える会社を救えれば就業形態は問いません。ただ、目標達成へのスピードや、実現するためのスキルを付けるためには、今は雇用されるのではなく色んな会社に入った方が良いと思っています。また具体的に「世界の5社」と決めると、やるべきことが見えてきます。私は英語が話せませんから、世界の5社を救うために10年間でやるべきことの一つに、ビジネス英語を身につけるというミッションもあります。
ーー 今後、釜野さんが事業をするときには、プロジェクトごとに外部のスペシャリストを集めるか、会社組織にするか、どちらを選びますか?
ファイナンスならファイナンスのプロフェッショナル、人事なら人事のプロフェッショナルなど、各分野のプロフェッショナルを集めてスペシャルチームを作りたいですね。今もいろいろな方々との出会いがあり、人脈も広がっていますが、将来はそのような方々と一緒に企業再生をしたいと思っています。
「会社を作らない」というわけではありません。「内外を気にしない」ということです。法人を作る必要性があれば作りますし、必要なスペシャリストが社内にいなければ、外部の人に参画してもらいます。内部人材のみで全ての集団を形成するべきとは思っていないので、良い人なら社内外問わず一緒にやりたいですね。
独立するリスクと一歩踏み出せないリスク、どちらが怖い?
ーー 今は企業に属していて、将来はノマド的な働き方をしたいという人に、アドバイスはありますか?
大前提として言いたいのは、私は会社の中でずっと頑張る人も起業する人も、そしてノマド的に動く人も、全て必要だと思っているということです。ただ、どの働き方も必ずメリットとデメリットがあります。大事なことは、まず自分がどういうことを成し遂げたいかという目標を作ることです。目標に向かって登る道のプロセスで、ノマド的な働き方が良いならそちらを選べばいいと思います。
例えば、年商が10億円の会社の中で、その歯車の一つとして頑張っているというのも良いでしょう。しかし、私は会社に属さず、年商10億円の会社の仕事を6社くらいやっています。そこに目標達成へのやりがいを感じるから、今のような働き方をしているだけです。ビジネスノマドとしての働き方は、これまで選択肢の一つにすらなっていなかったので、ビジネスノマドが一般化して選択のオプションが増えるのは非常に良いことだと思います。
もう一つ考えて欲しいのは、リスクです。起業する、ノマド的働き方をするというのは、リスクがあると考えている人が多いのが事実。しかし、どんな働き方を選んでもメリットとデメリットはあります。目標に向かって会社を辞めるという不安もあるが、目標に向かわず、そのままでいるという不安もあるのです。
「自分が勤めている会社は本当に潰れないのか」「その枠組みの中で本当にやりたいことができるのか」「自己実現を放棄する可能性はないのか」。きちんと自己分析をして目標を定め、必要であれば恐れず外に出た方がいいと思います。自分が負けないと思っていることがあれば、不安に思うことありません。何かの強みを持っていれば仕事に就けないということはないでしょう。ただその強みが平均レベル以下であれば、フリーとして働くのは難しいと思います。そうであれば、今は強みを磨くべきです。焦らず、しっかり働き方を見つめ直すだけで、成長のスピードは加速するはずですよ。
釜野晋史(かまの・しんじ)さんプロフィール
大学卒業後、マンションデベロッパーの株式会社ゴールドクレストに入社。2002年に4名で起業し、合資会社エス・エム・エスの設立に参画。翌年、株式会社エス・エム・エスの設立に伴い取締役に就任。創業事業である介護系人材紹介事業の立上げを軌道に乗せ、新規事業責任者として国内外のサービスの企画・立上げを実施した。2008年には総務・経理財務担当として東証マザーズ上場業務や管理本部体制の構築に従事し、2014年まで主幹事業である看護師人材紹介の責任者として事業運営を経験。現在は、独立して企業支援に従事している。
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