ブラック企業や過労死という言葉を耳にするようになったのは、2000年代に入ってからだ。これらの言葉は、資本主義によって効率化が進んでいく中で生まれた言葉でもある。社員が自分の会社を「いい会社」だと言えるような会社は、確実に少なくなってきているのではないだろうか。
本書『日本でいちばん大切にしたい会社』では、経営学者である坂本光司氏が、日本の様々な企業が見落としている“いい会社”の条件を、「日本でいちばん大切にしたい会社」と同時に紹介している。ここでは本書内から抜粋した“いい会社”だと言われる為の3つの条件と、それらを満たしている2つの会社を紹介していく。
“いい会社”の3つの条件とは
by tec_estromberg“いい会社”の3つの条件
- 社員とその家族を幸せにする
- 外注先・下請け企業の社員を幸せにする
- 顧客を幸せにする
1:社員とその家族を幸せにする
坂本氏は、お客様にサービスや商品を提供する社員が不平や不満を抱いていて、どうしてお客様に感動的なサービスを提供できるのだろうかと本書で読者に疑問を投げかけている。
いちばん大切なのは社員の幸せであり、それを支える家族への幸せを追求し、実現することが企業の最大の使命と責任なのである。
2:外注先・下請け企業の社員を幸せにする
坂本氏に言わせれば、外注先・下請け企業の社員は「制服が違うだけのわが社の社員」なのだそうだ。そのような企業を「こっちはお客様だから、文句をいうな」というスタンスで扱っている企業も多い。
利益が釣り合わない企業同士の関係は健全ではなく、誰かの犠牲の上に成り立つ組織は正しくないのだ。
3:顧客を幸せにする
「お客様が第一」という言葉は誰もが聞きなれた言葉であるが、坂本氏はこの言葉を真っ向から否定している。上記にあげた2つのことを満たして、初めて顧客を大切にすることが出来るからだ。
市場を創造するのは自社の社員と、下請け企業の社員である。社員の使命はこの世にない価値、潜在需要を発掘・創造すること、お客様の心の中にある見えざるニーズ・ウォンツを揺さぶり新しい市場を創ることだ。2つの社員の満足度を高めれば、必然的に顧客満足は得られるのだと坂本氏は主張している。
それでは、この3つの条件を満たしている2つの会社を見ていこう。
社員の7割が障がい者:日本理化学工業株式会社
by Nic Taylor Photography 現在、雇用者の7割が障がい者であり、上記の条件を満たし、業績を上げ続けている文房具会社である「日本理化学工業株式会社」を紹介したい。
ある日、当時日本理化学工業の専務であった大山泰弘に、障がい者学校の教諭から、御社で生徒を働かせてくれないかとの依頼があった。それが障がい者雇用のはじまりであった。
障がい者を健常者と同じように働かせることは、当初は苦労の連続だった。しかし工程を変えるなど様々な工夫をすることで、障がいを持っていても十分に働くことができるような環境を作ることに社員たちは成功した。そのような工夫の中で、能力に合わせて作業を考え、その人に向いている仕事を与えれば、その人の能力を最大限に発揮させることができること。障がい者であっても決して健常者に劣らない仕事ができることを日本理化学工業は示したのだ。
実際、工夫を生かすことによって開発された日本理化学工業の商品は多くある。中でも「キットパスきっず 12色」は第18回日本文具大賞機能部門優秀賞を受賞しており、成果を出し続けている。
大山によると、こうして結果を出し続けられる要因は、社員全体に自分も社会に貢献しているんだという思いがあるからだと語る。一介の中小企業ではあるが、そこに勤めて自分も弱者の役に立っている、という自負が社員ひとりひとりのモチベーションを高めているのだ。
48年間、増益収益を続けてきた寒天メーカー:伊那食品工業株式会社
by I Believe I Can Fry 寒天メーカーというと、あまりぱっとしないイメージがあるだろう。だが、伊那食品工業は、昭和33年の創業から平成18年までの48年間もの間、増収増益を続けてきたという驚きの会社なのだ。この会社を支えてきたのは、その素晴らしい経営理念にあると坂本氏は指摘する。その経営理念とは、「いい会社をつくりましょう」という至極シンプルなものだ。
寒天という食料品は、ありふれた味であるため、今までと同じであれば顧客を失いやすい。伊那食品工業は、伝統を大事にしながらも、創意工夫を凝らし新しい付加価値を加えながら、お客様に提供し続けることに成功している。
伊那食品工業を支えているのは、数字こそ追いかけてはいないが、社員、取引先、そしてお客様の幸せを考えているという「姿勢」なのである。そして、この姿勢が結果として48年間の増収増益につながったのだ。
本書では、今回紹介した事例以外にも、目からウロコの経営理念で結果を出し続けている会社が多数紹介されている。転職をする際には、坂本氏が紹介する会社を基準に様々な企業を調べて、会社選びの参考にしたい。
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