職場での抜擢はうれしいが、リーダーになればなったで悩みは増える。あちらを立てればこちらが立たぬ。「どこかに解決法が転がっているはず」と、日夜ヒントを求めるみなさまに朗報あり!
根本的な問題解決の方法として、アメリカのビジネススクールで活用されている書がある。それが中国の古典思想だと、老荘思想研究者にして、「東洋思考による経営」を提案する田口佳史氏は言う。
性善説・性悪説ってなんだ?
47年間、中国古典思想を読みつづけてきた田口氏は、企業の変革指導者の顔を持つ。そのベースは、もちろん中国古典。その主な思想を輩出した春秋戦国時代は550年も続いた乱世であった。
混迷の極みにあって、健全な社会と愉快な人生を歩むために出てきたのが、性善説の儒家、性悪説の法家、そしてさらに包括的に見渡す道家の老荘思想だ。それらの有効性の高さに目をつけたのが、アメリカでも最大の激戦地といえるビジネススクールだったのは興味深い。
「孫子」兵法に始まる21世紀トレンド
アメリカの流行は日本にも即座に跳ね返る。2000年から5~6年間は『孫子』の兵法が引っ張りだことなった。その背景には、ビジネススクールが戦略論や組織論を教える必要があった。
この分野で最高峰とされるのは、古代から第二次世界大戦に至る戦史を分析したリデル=ハート。英軍退役将校だった彼が最も影響を受けたのが『孫子』だったと聞けば、抜け目ないビジネスマンが食指を動かすのは当然だろう。
ロジスティック戦略に強くなるには
リデル=ハート以前にさかのぼれば、ナポレオンに敗れて「戦争とは何か」を考え抜いたクラウゼヴィッツの『戦争論』がある。ドイツが統一に向かう19世紀後半、オーストリアとフランスを相次いで攻略したモルトケは、『戦争論』の一の弟子だ。
モルトケの戦略は、ロジスティックスに着目した極めて現代的なものだ。兵器・弾薬・食料や衣料を適切に運ぶことは、兵力に大いに影響する。しかし、このことは、『孫子』では「輜重(しちょう)」という言葉で、すでにBC500年頃に述べられていたのだ。
創業より維持が難しいと感じたら
『孫子』の後、『論語』ブームを経て注目を集めているのが、唐の太宗の言行録である『貞観政要(じょうがんせいよう)』だ。第2代皇帝である太宗は、300年に及ぶ唐の長期政権の礎を築いた。
日本では北条政子と徳川家康がともに参考にしたという。どちらも権力をいかに安定させ、維持していくかの「帝王学」を考え抜いた人だ。今注目を浴びるのは、「落ち着いてものを考えたい」「経営や政治にじっくり取り組みたい」という願いと、その難しさが背景にある。
実は使いこなせる中国古典思想
ここに紹介しただけでなく、中国古典の名著にはご存じ「四書五経」をはじめ、老荘思想の『老子』『荘子』、性悪説を唱えた『管子』『韓非子』、兵家の思想としての「武経七書」など、膨大な蓄積がある。
日本で中国古典思想が最も熱心に読まれたのは江戸時代だ。中江藤樹や熊沢蕃山の書物などは、現代のために書かれたのではないかと思われるほどで、幕末動乱期にはさらにキレのある儒学者を輩出する。いま思い切って中国古典の窓を開けることは、きっと新しくて懐かしい景色との出会いになるに違いない。
(10MTV編集部)
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