料理を作るうえで欠かせない存在「包丁」。切れ味の鋭い最高級の包丁が、世界に誇る日本料理を支えていると言っても過言ではない。
実は、プロ用に仕立てられた高級和包丁の生産のうち、実に90%のシェアを占めている場所がある。大阪府「堺市」である。堺市の包丁「堺刃物」は、天正時代に作られ始めて以来、600年もの伝統を経て世界にその名をとどろかせている。
今回は、2015年7月11日放送のテレビ朝日『世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ!!視察団』に合わせ、堺市が世界に誇る和包丁の魅力、そしてその裏にある包丁を作る職人たちの“ワザ”をご紹介しよう。
圧倒的な「職人技術」が堺刃物を支える
包丁は、一つ一つ手作りで丁寧に作られている。そのため、包丁の製作に携わる職人たちの技術がそのまま包丁そのものの値段に直結するのだ。
一般的な包丁は1000円しない程度であり、物によっては100円ショップで売られていることもある。プロ用の高級包丁であったとしても、15,000円程度に大抵の包丁が収まっている。
一方で、この堺刃物は20,000円を超える代物ばかりがラインナップされており、その技術力の高さがうかがえる。堺刃物を作る包丁職人たちは、技術の面で他の追随を許さない。
堺刃物は「分業化」されている
包丁を作る職人と聞くと、包丁をイチから完成まで全て1人で請け負っている印象がある。しかし実際はそうではなく、製造工程ごとに包丁作りが「分業化」されているのだ。
鍛冶屋なら鉄をもとに包丁の大まかな形を作っていく作業を、刃付け屋ならその大まかな形の刃物を研いで刃を付けていく作業を行う。このように、一工程ごとにそれ専門の職人が存在しているのだ。いわば、自動車産業でいう「関連工場」のような役割である。
一人ですべてを仕上げるより、各工程を細かく割り振ったほうが、請け負っている部分の専門的な技術はより上達する。それを極めたものが、今の堺刃物であると言っても過言ではない。
職人ワザ“だから”抱える問題
堺市の刃物職人の腕は確かである。ミシュランガイドに名を連ねているプロの料理人たちが愛用する包丁として、海外からの注目度も非常に高い。しかし、注目が高すぎるという状況がかえって、堺刃物にある問題を抱えさせている。
それは、受注に対して生産スピードが追い付いていないという問題である。職人の手作業であるため、どうしても一日当たりの生産量には限界がある。今堺刃物には「マンパワー」が不足しているのだ。しかし、文字通り“付け焼刃”のテクニックで作れる代物ではない。即戦力の確保など、とてもできるものではない。
2015年7月1日、堺刃物の後継者を確保するべく、「堺刃物職人養成道場」の受付を開始した。鍛冶と刃付けに分かれた2つのコースでは、1年におよぶ歳月をかけて職人の“ワザ”を叩き込まれる。堺刃物の危機的状況を脱却するために、若い人材を一刻も早く職人へとスキルアップさせていきたい、という思いが伝わってくる。
日本の伝統的な職人文化に対し、必ずと言っていいほどついてきてしまう「後継者問題」。堺刃物は今、他の伝統と同様に職人ワザだからこそ抱える問題への対応が迫られている。
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