今地方では、路線バスの廃止が相次いでいる。理由は単純、赤字が続いているからだ。ニーズが無くなったわけではないものの、地方の過疎化に伴い路線の減少傾向にあることは間違いない。
そんな現状がある一方で、廃止されかけていたバス路線を「あえて」引き継ぎ、見事再生させた会社が存在する。埼玉県川越市に本社をかまえる「イーグルバス株式会社」だ。イーグルバス社長・谷島 賢(やじま まさる)は、小江戸・川越や嵐山など、埼玉の奥地にある路線バスに“ある施策”を施し、乗客数を再び増加させている。
今回は、2015年6月25日放送のテレビ東京『カンブリア宮殿』に合わせ、谷島賢の路線バス復活への“戦略”で行ってきた施策を紹介していく。
谷島賢の施策1:「ビッグデータ」を最大限活用
出典:knovelblogs.com 路線バスは今まで、「運転手の勘」に頼っている部分が多かった。バス内の混雑、道路の渋滞状況などをあくまで「肌感覚」でしか理解をしていなかったのだ。そのため、とっさの混雑や予期せぬ渋滞などがなぜ発生するのか、要因の分析ができないでいた。
この状況を変えるべく、谷島賢は「ビッグデータ」を活用することにした。全てのバスにセンサーを搭載し、どの時間のどの停留所間にはどれくらいの人が乗り降りをするのかを「見える化」したのである。これにより、利用されていない区間や時間帯が一目瞭然となったのだ。それに基づき、朝の通勤時間帯など、よく利用されるポイントに対して、渋滞を想定した綿密なダイヤを組むことに成功したのだ。
アンケート結果を実践、しかし失敗…
ビッグデータの活用に加え、谷島賢は「アンケート」の活用も行った。乗客にアンケート回答に協力してもらい、待ち時間や混雑など、利用のしやすさについて回答をしてもらった。「地元の声を活かす」というのがねらいだ。
すると「電車からの乗り換え時間が短い」という回答が多く寄せられた。そのため、谷島賢は電車との乗り換え時間を多めに取るように改善した。その結果、逆に利用者が減ってしまうこととなってしまった。実はアンケートに回答していたのは、日中に利用するお年寄りが多かった。朝や夕方に利用していた通勤者などは現状に満足していたため、アンケートに回答していなかったのだ。そもそもアンケートに回答した母体を把握できていなかったことが、このような失敗につながったという。
以後、通勤時間帯は間隔を以前と同じように戻し、日中のみ乗り換え時間を多めに取るようにした。すると、想定通り利用者を大幅に増加させることができた。
谷島賢の施策2:「ハブバス停」を設置
「ハブ空港」という言葉がある。地方に向けて航空便が拡散していく場所、いわば地方に向けた「拠点」的存在だ。航空や電車など、様々な交通機関に取り入れられているシステムである。
谷島賢はこれを路線バスにも導入した。ときがわ町役場の隣に「せせらぎバスセンター」という「ハブバス停」を設置し、そこからさらに地方に路線バスが行き来するようにしたのだ。
従来の路線バスは長さが統一されていなかったり、複数の路線が同じ場所を走っていたりと、効率の悪い運行状況だった。それがこのシステムを導入することで、路線の長さを短く均一に、しかし重複なく運行することができるようになった。結果、バスそのものの数を増やすことなく本数を増加させることができ、更に路線バスの需要を高めることもできた。
終点は「どこへでも」
日高市はこま川団地。埼玉県の奥地というだけあって、ここに住む人というのはやはり高齢者が多い。そのため、終点の「高麗川団地折返場」から自分の家まで歩くことも厳しい人が多いという現状がある。
谷島賢は、このバス停が終点であることを踏まえ、2014年からある取り組みを行っている。それが「おでかけサポート便」だ。この取り組みは、希望者がいれば終点を通り越し、さらに自宅近くまで送り届けてくれるというものだ。この付近には坂が多いことも相まって、お年寄りには大好評のサービスとなっている。この地元に密着した戦略もまた、路線バス利用者を増加させている要因の一つだ。
谷島賢が進める「未来への取り組み」
谷島賢は、埼玉の路線バスを見事に再生させることに成功した。しかし、それだけでなく、谷島賢は路線バス業界を根本から再生させるべく、2つの取り組みを行っている。
人手不足解消のため、免許取得を支援
路線バス業界が抱える問題の一つに、慢性的な人員不足が挙げられる。理由として、運転手として働くために必須な「大型二種免許」を取得する人の減少がある。大型二種免許の取得者は、平成20年から毎年1割ほど減少する傾向にある。
この状況を改善すべく、谷島賢は「バス運転手育成制度」を導入した。この取り組みは、大企業が行うこととしては珍しくないが、イーグルバスのような中小企業が行っている例はめったにない。他の中小企業が足踏みをしている中、谷島賢には先を見据えられる「余裕」があった。
ラオスにも「ビッグデータ」を
2014年11月、JICA(国際協力機構)は東南アジアの内陸国、ラオスの路線バスを改善すべく、イーグルバスと提携を結んだ。これにより、谷島賢の考えた「ビッグデータ」の活用がラオスにも輸出されることになった。
ラオスはまだまだ発展途上ということもあり、交通インフラが日本に比べてはるかに後れをとっている。「トゥクトゥク」という三輪タクシーが交通の主流だったが、最近になってバスの利用者が急増してきたのだという。谷島賢によりビッグデータの活用を覚えたラオスが、インフラ面でどのように成長していくか、非常に楽しみである。
埼玉の路線バスは赤字撤退を回避することが出来たものの、他の都道府県の路線バスにはまだまだ課題が山積みにされている。谷島賢のように、地元に対して親身に要望を聞くことこそ、地方のインフラを再び甦らせるカギなのかもしれない。
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