会社に入ってからというものの、やらされる仕事はつまらないものばかり、上司は口うるさい、定時に帰れないと、不満ばかりを口にする人は多い。中には、会社を辞めてしまおうとすら考えてしまう人もいる。
一方で、24時間働きたい!や仕事が楽しくて仕方がない!と言っている人がいる。それこそが、「平和酒造株式会社」の人たちである。この会社は、日本の多くの企業が新入社員のモチベーション管理に苦戦している中、新入社員自らが志願して残業、宿直を行っているという。それだけでなく、噂を聞きつけた全国の新卒者からエントリーシートが寄せられてきている。一体何が起こっているのだろうか。
そんな平和酒造が出した本こそ、本書『ものづくりの理想郷――日本酒業界で今起こっていること』である。なぜ、新入社員たちのモチベーションが下がらずにいられるのか、その謎をこの本を通じて教えてくれいている。
「伝統」は残し、「悪習」は絶つ
平和酒造株式会社は、昭和2年に開業した、非常に歴史ある会社である。酒造業であることも相まって、昔ながらの「職人気質」が抜け切れずにいた。しかし、それでは若い世代が離れていくのは明白である。
そのため、日本酒造りの伝統として守るべきものは守りつつも、既存の「職人気質な」体制を一新し、新たな酒造として生まれ変わることができた。以下でその詳しい内容をみていこう。
「杜氏」から「マネージャー」へ
酒造において、技術的な面で最高の技術を持つとされるのが、「杜氏」である。杜氏の「職人芸」のようなものこそ、一番大事とされている酒蔵も非常に多い。しかし、それでは新入社員は自分たちが職人の技を覚える機会というものがなくなってしまう。それがいずれ不満になり、やがて次々とやめていく――酒蔵だけでなく多くの企業でも同じことが言える。
そこを平和酒造は、杜氏に頼み込んで技術やデータを社員に公開させた。代わりに杜氏には総監督のような「マネージャー」業務を任せることで、職人ならではのプライドを保持させることに成功した。自分が頼られていることにあぐらをかいて下の代へと技術の伝承をしなければ、いざ自分が引退して人に引き継ごうとしても、対象者がいなくてそのまま消滅、といったことになってしまう。
全国各地から「蔵人」を募集
酒蔵というと、家族経営なイメージを持たれることが多い。自分の酒蔵は自分の息子に継がせたり、周りで興味があると言ってくれた人を採るか採らないかといった具合である。事実、多くの酒蔵に関してはその体制を未だに続けているだろう。
しかし、平和酒造はそれを「全国規模」で採用する方針へと転換した。人材の発掘に尽力したのだ。その規模が、なんと経常利益の4割にも相当している。それまでして、全国に散らばる人材をくまなく発掘し、積極的に「日本酒造り」に関わらせるのだから、当然モチベーションの低下は防がれるのだ。
酒蔵ならではの、「伝統」と「時代」のジレンマを解消方法について述べている本書だが、これは単純に酒造業にのみ通用する話ではない。自分の会社に「古臭さ」を感じている方は、日本酒を片手にこの本を一読してみるといいかもしれない。
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう