「宇宙」と聞いてあなたがイメージするのはどんなものだろうか? 何でも吸い込むブラックホールや宇宙人、水星や金星などの惑星……様々なイメージが広がることだろう。
その中でも、生命が存在しているとして、火星が話題になったことを覚えている人も多いのではないだろうか。今、その火星が、人類の引っ越し先になろうとしている。
火星移住計画、Mars One
バス・ランスドルプ氏率いるオランダの民間非営利団体(NPO)が計画しているプロジェクト、「Mars One」。これは、2023年に火星で生活を始めることを目的とする計画だ。
実際に火星に行く第一陣となるのはたったの四人、しかも二度と地球には帰ってはこれないという片道切符だ。そんなハードルが高いプロジェクトにも関わらず、全世界から約20万人の人が応募した。
なぜ乗組員は地球に帰れないのか?
もし火星から地球への帰還を可能にするならば、地球からロケットを打ち上げるときと同じか、それ以上に大きな装置が必要となる。今のところ、その大きな装置を火星に用意できるテクノロジーはない。
さらに、往復するために必要な燃料等についても考慮する必要があり、このような現在障害となっている様々なことを解消するにはまだまだ時間がかかってしまう。
また、これには人体の性質も関係している。火星の重力は地球の三分の一であるために、長期間火星で生活すると、自然と筋肉が衰え、骨も脆くなっていく。そのままの状態で地球に戻ろうとすると、負傷する恐れがある。そのため、火星で生活し続けることが可能なのであれば、そのまま火星で暮らす方がむしろ安全といえるだろう。
火星移住に残る懸念
出典:www.flickr.com 地球以外の惑星で暮らすという試みはたいへん興味深いもの。しかし、この計画には様々な懸念も残っているようだ。
資金は足りるのか?
まず、十分な資金が手に入るのかという問題だ。この火星移住プロジェクトは、最初の四人を火星に送りだすまでに約60億ドルかかると言われている。バス・ランスドルプ氏は、ロンドンオリンピックが3週間という短い期間で約40億ドルの放映権やスポンサーからの収入を得ていたことに注目しており、プロジェクトの進行過程を番組として放映する権利を売ることで、この費用を賄おうとしている。
確かに火星進出は人類史に刻まれるようなイベントではあるが、長期に渡るだけに、次々に新たなコンテンツが生まれる中で視聴率が確保できるかなどの問題は生まれるだろう。いかにして人を惹き付け続けるかが課題となるはずだ。
倫理的・人道的に問題はないか?
何事も、最初から成功するとは限らない。それはこのプロジェクトに関しても同じだ。その点に注目し、初回の参加者が実験台になってしまうことはないのか、また、プロジェクト自体の主目的はしっかりと説明されているのかなどを気にかけている人々もいる。
このような倫理的な問題は非常に繊細で、答えを出すのが難しいものだ。しかし、実際には多くの志願者が出ており、理由がそれぞれ異なっているとはいえ、確固たる意志を持って参加を希望しているという。ミッションやそれに伴う危険に関しても理解した上で志願している彼らを、止める理由が果たしてあるだろうか?
そもそも、本当に火星に辿り着けるのか?
最も根本的な問題だが、そもそも本当に火星に辿り着くことができるのか、ということについても議論されている。無人の探査機でさえ行方不明になったり、予定地点から外れたりということがこれまでに起きているのは事実。それよりかなり大きくなるであろう宇宙船を安全に着陸させるのは難しいと指摘されている。
また、宇宙空間には高エネルギーの放射線である宇宙線や、太陽から吹き出す高温なプラズマ(電気を帯びた粒子)で構成される放射線の源、太陽風が存在している。
これ以外にも多くの放射線源がある宇宙空間を長時間移動することになるため、いかにそれらに対応するのかも気になるところだ。
今回の「火星移住」のような新たな物事が始まるときには、必ず従来の価値観や常識とぶつかるものだ。その衝突の中で、何を重視すべきなのかは個々人が考え、選び取っていかなければならないだろう。
Mars Oneプロジェクトが仮に成功し、火星への移住が可能になったならば、そのとき「火星に到達するためのビジネス」は「火星で生き続けるためのビジネス」に変化し、更には「火星生活をより楽しくするものを生み出すためのビジネス」へと変化していくはずだ。新たなビジネス領域の誕生を予感させる、火星という新たな地への一歩がどのように踏み出されるのか目が離せない。
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