HOMEインタビュー 何があっても仕事とアイドルは捨てられなかった――好きなこと、仕事のために諦めなきゃダメ?【前編】

何があっても仕事とアイドルは捨てられなかった――好きなこと、仕事のために諦めなきゃダメ?【前編】

Yudai Imamura

2015/02/19(最終更新日:2015/02/19)


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何があっても仕事とアイドルは捨てられなかった――好きなこと、仕事のために諦めなきゃダメ?【前編】 1番目の画像

 自分の好きなことができるのは、学生の頃まで。大抵の人は、社会人になると他のことには目もくれず、その仕事をとことん究めようとするはず。だが、中には「仕事は大切。でも、自分の好きなことにも全力で取り組みたい!」と思っている人もいる。

 今回のインタビュー相手は、都内のweb系企業でエンジニアとして働く傍ら、2014年12月まで「謎解きアイドル『パズルガールズ』」(以下、パズルガールズ)というアイドルグループで活動していた堤沙也さん。「二つを両立することで、得るものも、失うものも多かった」と語る彼女は、「仕事とアイドルの両立」という働き方を実践する中で何を感じたのだろうか。


――現在のお仕事の内容、そしてアイドル時代の活動内容について教えてください。

 web系企業にて、webエンジニアをしています。入社して2年間はスマホアプリを担当する部署にいましたが、3年目の春から、また別のメディア事業をやっている部署に移りました。アイドル活動にかかわらず、ずっとエンジニア職で仕事しています。

 アイドルの活動としては、パズルガールズというアイドルグループに、2期生として所属していました。観客参加型の「リアル脱出ゲーム」を企画・運営する会社がプロデュースするグループという位置づけで、発足当初はリアル脱出ゲームでの演者などが主な活動でしたね。本格的なライブ活動が始まったのは、私が加入して1年後ぐらいでした。


――仕事をしながらアイドル活動……。聞くからにハードスケジュールなイメージですが、両立していた時期の一日のスケジュールについて教えてもらえますか?

 一番過酷な時期だと、起きるのは朝5時過ぎ。6時ぐらいに家を出発して、まずは7時から9時ぐらいまで、アイドルのライブの朝練に参加します。それが終わると、9時半から19時半ぐらいまで仕事。仕事が終わればすぐにイベント会場に移動して、23時半ぐらいまでイベントに出演したり、会議に参加したり、撤収作業をしたり……。全て終わって終電で帰るのが0時45分ぐらいでしたね。それに加えて、土日もリアル脱出ゲームのスタッフをしたり、ライブに出演したり……という日々を送っていました。


――そんなに自らを追い込んででも、「両立」という選択をした理由は何ですか?

 もともと、アイドルではなく声優を目指していたんです。でも、大学進学と同時に通い始めた声優の専門学校で、プロの世界の厳しさを味わい、一度は挫折しました。でも、社会人になってから同世代のアイドルの舞台を観に行った時に、「今しかできないことにもう一度挑戦したい」と、改めて思ったんです。

 もちろん、webエンジニアという仕事は大好きです。でも、それと同じぐらい私は歌と踊りが好きだった。会社や仕事が嫌になったのではなく、プラスαの欲望が出てきた、という感じですね。そのタイミングでたまたま見つけたのが、パズルガールズのメンバー募集でした。

 オーディションに受かってからは、アイドルへの想いが強かったので、ありったけの時間や想いを懸けて活動してきました。でもその反面、webエンジニアという仕事も手放したくはなかった。二つの職業を持つことで大変だったこと、苦しかったことは数え切れないぐらいありますが、どちらかを捨てることはどうしてもできませんでした。


――社会人の働き方として、“その仕事の専門領域を突き詰めていく”というのが一般的なイメージだと思います。その中で、堤さんのように“仕事もアイドルも全力でやり切りたい”という方は珍しいのでは?

 そうですね(笑)。二つの物事に必死で取り組んできた今、結論として思うのは、「どんなに優れた人間であっても、二つのことに全力を注ぐことは無理」だということ。もちろん、工夫して一定の成果を上げることはできると思いますが、物理的に難しいことも沢山あります。色々な人に迷惑をかけたし、その人達の協力があってこそ、1年半仕事とアイドルを両立できました。

 例えば、アイドルの活動について昼間に会議が入っている場合も、会社員は仕事なので参加することはできない。平日の夜にイベントがある場合は、慌てて定時退社。仕事がバリバリできる人間だったらよかったのですが、当時社会人2年目の私は何をやっても中途半端だったなと、今ではすごく反省しています。

 あと、二つの何かを掴もうとすれば、他のことを切り捨てなければいけなかった。人付き合いによって生まれる信頼関係など、本当に多くのものを犠牲にしないといけない。仲が良い会社の同期からの誘いなども、アイドルになってからはほぼ断わらざるをえませんでした。たくさんの人の優しさを受ける反面、人の信頼もたぶん失いながら、両立という道を進んできました。


――仕事とアイドル活動を両立する中で、アイドル活動が仕事面に好影響をもたらすことはありましたか?

 いじってもらうネタにはなりましたね(笑)。仕事というよりは、人生観が変わるきっかけをもらえたと思っています。アイドル活動のおかげで、これまでの人生の中では出会わなかった人達と出会うことができました。時には価値観の違いから、グループのメンバーとは分かり合えないこともありましたが、そこでいかに合意して上手く進めていくのか、ということも教えられましたね。

 あとは、ファンの方々にも教えられたことはたくさんあります。客観的に見たら、私は中途半端な形で活動していたように映るはず。それにもかかわらず、ずっと応援してくれていた人達もいたんです。決して正しいやり方ではなかったかもしれないけど、一生懸命必死でやっていれば、応援してくれる人はいる。それがわかった時にはすごく嬉しかったし、それに応えるために頑張ろうと思っていました。(続く)



堤沙也(つつみ・さや)さん プロフィール

1990年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。都内のwebサービス全般を扱う企業で、webエンジニアとしてサービスの設計や開発に従事。主に扱う言語は、Ruby,Python,PHP。エンジニアとして働く傍ら、2014年12月まで「リアル脱出ゲーム」を制作・運営する株式会社SCRAPプロデュースの「謎解きアイドル『パズルガールズ』」のメンバーとして、イベントの運営出演、ライブ活動などを行っていた。

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