ちょい飲みブームによる居酒屋以外の飲食店の居酒屋業態への参入によって、多くのチェーン居酒屋が業績不振に苦しんでいる。中でも、ワタミを中心とした「安さ」を売りにした総合型の居酒屋が軒並み業績不振から抜け出せないようだ。
「安さ」を売りにする時代はもう終わった?!
安さを売りにした居酒屋業態の代表、「和民」を展開するワタミは昨年11月、2015年3月期の連結最終損益が30億円の赤字になるとの見通しを発表した。従来の20億円の黒字予想から一転して2期連続で赤字となった。主力である居酒屋「和民」の苦戦により、今期の店舗閉鎖は100店にものぼる。
さらに、国内店の9割を占める「和民」と「わたみん家」の売り上げが消費税増税などの影響を受け、前年比6%減の1540億円となり、大幅に落ちている。
これまで、和民のような総合型居酒屋チェーン店は学生やビジネスパーソンが主な顧客層であった。しかし、仕事帰りに仕事仲間と飲みに行くビジネスパーソンが減り、若者の酒離れも進んでいることで、顧客層は年々縮小している。
また、消費税増税後の景気の回復に伴い、消費者の中では「プチ贅沢志向」の傾向が強まりつつある。このような状況に、安さだけを売りにした居酒屋チェーン店は太刀打ち出来なくなってしまったのだ。
「高付加価値」で生き残りをかける居酒屋
体験を売りにする居酒屋
大手居酒屋チェーン店の平均客単価が2500~3500円の中、平均客単価4200円を誇るチェーン居酒屋がある。それが「宮崎県日南市 塚田農場」だ。人気の秘訣は、こだわりの創作料理を提供していることはもちろん、独特の接客サービスにあると言える。
お客の来店回数に応じて「係長」「社長」など、肩書が記された名刺が渡され、来店回数によって肩書が昇進し、肩書に応じたサービスが受けられる。
また、客単価の1割をお客に還元できるよう、現場の裁量に任せ、独自のサービスを提供している。例えば、名物の地鶏の炭火焼きで、お客の箸が進まない時、「冷めてもおいしい食べ方」と言って、ポン酢あえにアレンジしてきてくれるといったものだ。
塚田農場では、このようなお客の優越感をくすぐるような「普段出来ない体験」を売りにした接客が、集客に大きく貢献していると言えるだろう。
非日常の空間を売りにする居酒屋
若い女性を中心に人気を博しているのが「コンセプト居酒屋」だ。週末はなかなか予約が取れない人気ぶりで、女子会や記念日のお祝いといった利用が殺到しているとか。
例えば、ルイスキャロルの不思議の国のアリスの世界観を反映して作られたのが、「幻想の国のアリス」。店内の装飾のみならず、メニューや店員のサービスなど細部に至るまでその世界観は反映されている。他にも、「ドラキュラの館」や「監獄」、「釣り堀」など、コンセプト居酒屋は都内を中心に広がりを見せている。
このようなコンセプト居酒屋は、近年の長引く不況に伴う「オフバランス消費」という消費者傾向を上手く取り込んでいると言えるだろう。これは、日常の財布(家計のバランスシート)とは別に蓄えたオフバランス(簿外)の金で買い物するという意味だ。消費者は日常を堅実に過ごしながらも、非日常を買うという変化の中で、自己を確認しそこからゆとりや満足感を感じとっているのだ。
既存居酒屋は生き残れるのか?
居酒屋以外の飲食店が居酒屋業態に次々に参入してくる中、それに対抗して既存居酒屋が生き残るためにはどのような戦略を取るべきなのだろうか?
生き残る店に共通して言えることの一つに、シンプルながらも「ターゲットが明確」かつ「付加価値がある」ということが挙げられるだろう。チェーン店、個人経営店にかかわらず、生き残る店は「誰に向けた店なのか」がはっきりしている。上記に挙げた例で言うならば、塚田農場ならビジネスマン、コンセプト居酒屋なら女性、といったように明確なターゲットが見える。
また、価格だけでは現代の消費者の心を掴むことは出来ない。多少高くても消費者は自分が良いと判断すれば、購入を決断するからだ。であれば、価格よりもその店でしか味わえない、その店に行く理由となる「付加価値」を作り出すこと。それこそが現代の居酒屋に求められている価値なのではないだろうか。
「安ければいい」という消費者の心理は過去のものとなり、割引や値下げなど表面的な対策では満足出来ず、一筋縄ではいかないのが現代の消費者なのかもしれない。
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