組織に属しながら、起業家のように働く「イントレプレナー」。興味を持っている人も多いと思うが、どうやってなるのかはなかなか分からないはず。そんなイントレプレナーについて、実践者も交えて語ったイベント「TWDWサラリーマンの逆襲」が、11月22日に開催された。
第6回のテーマはリーダーシップ。社内でやりたいことをやるためには、自分で一歩を踏み出さなければならない。小杉氏は、重要になるのは「役職に関係のないリーダーシップ」だと話す。
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登壇者
THS経営組織研究所代表社員 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員 小杉俊哉氏
オイシックス株式会社 執行役員 海外事業部長 高橋大就氏
野村不動産株式会社 新宿360°大学 刈内一博氏
モデレーター
株式会社パソナテック ハッカソン芸人 羽渕彰博氏
見出し一覧
・社内で「流しのブレスト屋」になったソニー社員
・コンサルに必要なのは、思考の体力
・「will」からリーダーシップが始まる
社内で「流しのブレスト屋」になったソニー社員
小杉:今は、社内でも色々な動き方がある。そこで大切なのは、転機を作ること。社内で起業、転職はできるんですね。
これが企業にいる最大のメリットでしょう。いろんな山の登り方があって、新規事業に手を挙げるチャンスを逃す手はないよねって事例を紹介します。
ソニーに高木芳徳さんっていう人がいるんですよ。この人、データサイエンティスト兼アイディアクリエイターということで、社内で2枚の名刺を持ってるんですね。もともとはSEだったんですけど、ITスキルだけでキャリアを積むことに不安を覚えて、研究職に社内転職します。しかも、転職の制度に乗ったんじゃなくて、話をつけて勝手に引き取ってもらって、研究職になっちゃったんですよ。
ところが、リーマンショックで部門が閉鎖された。これはよくある話ですね。そうすると自分で何かやるしかないので、「流しのブレスト屋になります」って言って社内で創業を宣言しちゃったんです。
「私はいろんな部門の中に入って、ブレストの仲介役をします。橋渡しをします」って。実際に、ある部門が外部のコンサルに多額の費用を払おうとしてたんですね。それを彼が入ったおかげで払わなくて済んだ話もあって、瞬く間に有名人になるんですよ。
そのうち、50キロも物理的に離れた先輩から、「そんな君に教えたいことがある」と言われる。TRIZという、ロシアの特許審査官が特許をベースにして作成した問題解決法を教えてもらったんです。これを彼が記号化して、書籍化して、統合化するんですね。これを使って社内のいろんな問題を解決する。お声がかかれば「はいはい」って言って、アイディアクリエイターをやる。このように、自分自身の専業と副業を社内で両方やってる人もいます。
羽渕:めちゃくちゃ面白いですね。
小杉:そう、めちゃくちゃ面白いです。世の中のことはすべてこれで解決するんですね。たとえば、TRIZの2番に「分離」という概念があります。これって、たとえば小学生には難しいじゃないですか。彼は、子供向けにこれを教える試みもやっています。
例えば、2を記号化し、記号の2の下に丸がついているんですよ。これを理解させるため、予めプリントされ、折り返し、切り取り線も付いた厚紙を配る。それを組み立てると升のようになる。そこにビーズ玉と同じ大きさの小さな鉄球を複数入れる。
その紙の升の下からこれも用意した磁石をかざすと、ツーっと鉄球を集めて、下から取り出すことができる。これが「分離」だよって小学生に教えているんです。一度やったら二度と忘れない。
小学生のうちからこれを理解していると、イノベーションをどんどん生むような子が育つ。日本への貢献ですね。こんなことを誰から頼まれた訳でもないのに勝手にやってる。
コンサルに必要なのは、思考の体力
小杉:先日「採用基準」の著者で元マッキンゼーの伊賀泰代さんとお話しました。彼女は、思考力って思考スキルのことばかり言われますけど、そうじゃなくて思考意欲と思考体力が必要ということを指摘しています。
多くの人は考えるのが途中で嫌になっちゃうんですね。なので、意欲と体力が非常に重要。面接で最もコンサルに向かないタイプは、ケースの準備をしてきて答えを出そうとすること。想定問答を繰り返して正解を述べようとすることです。完璧に面接に備えてくるような人間は、絶対に採らないと。
そんな人間は、クリエイティブな発想は出来ないと思うんですね。答えを出せると思うのは、受験の延長だから。世の中、答えが出ないことだらけでしょ。それを考え尽くすっていうのが重要ですね。
あともう1つすごく重要なことは、長く日本企業にいると、上から言われたことをそのまま疑いもなく実行してしまう。組織の中でどうすべきかを考える癖がつくので、ゼロベースで考え、相手との上下関係なく主張をすることが求められるコンサルタントに向かなくなる。
コンサルタントだけじゃないですよね。クリエイター、あるいはグローバルで活躍したい人、リーダー、全部そう。新卒の時に来てくれたら採用できたけど、もう3年勤めたからこの人もう駄目だなっていう人がいっぱいいるって言ってました。
ですから、やるべきことをやってるだけだとそこで終わってしまうんですね。いかにそこから出るか。役割を越えてもっとやれるっていうことは、会社がこういうふうにしたらいいのになと自分が問題意識を持っていることです。自分の役割じゃない、今期の目標じゃないけど自分に時間があったらこうするのに、と思っていることです。
「will」からリーダーシップが始まる
小杉:自分が気づいていることなら、やれば出来るわけです。一歩踏み出す勇気があれば出来るわけじゃないですか。そこに踏み出すのが非常に重要だと思います。それから、さらには制約がなければ、「自分が社長ならこうするのに」と思うことは、何かということを考えてみることです。
やるべきことをやっていると、どうしてもマネジメントになるんですよ。面白くないし、受け身になるし、ワクワクしません。
一方、やらなくてもいいところに足を一歩踏み出すと、リーダーシップが発生する。自分に向けて発生したリーダーシップをセルフリーダーシップ、あるいはパーソナルリーダーシップっていうんですけれども、これを持てる人っていうのは一歩踏み出した、あるいは本当にやりたいことをやってる人、つまり自律しているということですよね。リーダーシップは、まず自分に発揮するのが第一歩です。
羽渕:ありがとうございました。マネージャーとリーダーって全然違うスキルセットなんだと改めて思いました。
小杉:会社の中の役職にかかわらず、求められる役割をやるのがマネージャーです。会社の中の役割、つまりタイトルとかなくても固有名詞でやるのがリーダー。だから、信頼がないと機能しない。
けど、イントレプレナーとかアントレプレナーは全く逆の方向で、「will」みたいなところがあって、それを実際に社外で試して出来る状態にしていって、それが仕事に繋がる。「must」→「can」じゃなくて「will」→「can」→「must」で動いているんだと、この図を見て改めて思いました。
刈内:すごくそう思いますね。僕もサラリーマンを10年やる中で、その多くは小杉さんがおっしゃるマネージャーしかできていなかったと思います。最低限の社会の常識や会社の仕組みを学び、マネジメントが出来るようになった上でリーダーになる方が、素直なプロセスなのかなと思います。つまり、新入社員がすぐにリーダーとして活躍することは難しい気がします。
高橋:リーダーシップって言葉の捉え方。いわゆる階層で上にいる人がリーダーというわけでは全くなくて、タイトルに関係なく発揮するのがリーダーシップだということなんですね。
私が好きなのは、「会社の強さっていうのは個々人のリーダーシップの総和である」という言葉。トップがリーダーシップを持っているだけじゃなくて、新人も含めて、どれだけ個々人がリーダーシップを持てるかが会社の強さになる。だからリーダーシップって、タイトルと関係なく一年目から、初日から発揮できるものだと思います。(続く)
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