組織に属しながら、起業家のように働く「イントレプレナー」。興味を持っている人も多いと思うが、どうやってなるのかはなかなか分からないはず。そんなイントレプレナーについて、実践者も交えて語ったイベント「TWDWサラリーマンの逆襲」が、11月22日に開催された。
第2回では、経営コンサルタントの小杉俊哉氏がイントレプレナーの在り方を力説。会社に使われるのではなく、会社を使い倒す働き方を提案した。
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登壇者
THS経営組織研究所代表社員 慶應義塾大学SFC研究所上席所員 小杉俊哉氏
オイシックス株式会社 執行役員 海外事業部長 高橋大就氏
野村不動産株式会社 新宿360°大学 刈内一博氏
モデレーター
株式会社パソナテック ハッカソン芸人 羽渕彰博氏
見出し一覧
・「会社から言われたことだけをやるの?」
・会社を使い倒す
・大義があれば、わがままも通る
「会社から言われたことだけをやるの?」
羽渕:イントレプレナーを実践するのって、とても難しい。それをどう乗り越えていくのかってすごく大事だし、会社でやるメリット、デメリットがあると思うんですね。そこを小杉さんの方からご説明頂きたいなと思っております。
私が会社を辞めて女房と子どもを連れて留学したのが30歳の時だったんですけど、何かやってるのはすべて30代なんですよ。今も『プロ経営者』っていう本を書いているんですけれど、そのあと上に立ってリーダーシップ発揮できる人間って、30代でとても頑張っている。
必ずしも社外に転職する必要はないんですけれども、会社にいながらでも自分から面白いことができないと、思うようなキャリアを送れないんじゃないかなと思ってます。それで、私の『起業家のように企業で働く』なんですけれども、ちなみにこの本を読んでる人はどれくらいいます?(と会場を見回す)少ないですね(苦笑)。
羽渕:ぜひ買ってください。お願いします。
小杉:「あなたは、ただ会社から言われたことだけをやって働くんですか?」って問いたいわけですよ。ベンチャースピリット、アントレプレナーシップが必要なのは、ベンチャーの人だけじゃない。
一方、会社員っていうのは非常に守られている部分があるので、逆にアントレプレナーシップを持ってイントレプレナーでやったらすごいことができるんじゃないのか。こういう話をしているのがこの本です。
国家事業みたいなことでも、とりあえずやってみる
起業家っていうのは、さっき社会起業家っていうのがありましたけど、大変なんですよ。私が仲良くさせてもらっている小島希世子さんは、まさに社会起業家ですね。農業をやっているんです、熊本で。
彼女は、農家を志向していたんですけれども、横浜の中華街でホームレスと出会って「なんだこりゃ」って思ったわけですよ。道でおじさんが寝ていて。しかも、衝撃的だったのは、それを道行く人が石ころのように無視して歩いている。
しかし、彼女はホームレスに話しかけに行くんですね。100人以上と話して気づくわけです。彼らは働きたがっている。ところが、働く場がない。
そこでピンと来たわけです。「そうだ、自分がやろうとしている農業をやってもらおう」と思うわけです。ホームレスの人たちの就農を支援して、過疎化している農村に送り込む。こういうとてつもないことをやってるんですね。
最初は周りも反対していたんですが、NHKの番組でも取り上げられ、『ホームレス農園』っていう本も出版し、だんだん支援者が集まってきて、いろんな人が応援してくれているんですね。
こんなことをやっている人ですが、学生に話をしてもらった時に、学生から「どうしてそんなことができると思ったのですか?」という質問がありました。もう、ほとんど国家事業ですよね。
その時彼女は「私はお金もないし、能力もないんです。だから、出来るか出来ないか考えると、出来ない。そうじゃなくて、やるかやらないかでしょ」と答えていた。まさに、先ほどの高橋さんのスライドと美しいシンクロですよね。これ、打合せなしです(笑)。
やるかやらないか。やると決めたので、いろいろな障害を乗り越える算段を考えた。まずはビジョンを語り、協力者を募る。そうしたら、安倍首相の奥さんである安倍昭恵さんが応援してくれたり、池上彰さんともご飯を食べる機会を経て好意的に受け取ってもらったりしている。
会社を使い倒す
小杉:社会起業家に限らず、起業家はしんどいです。だから、「起業しようかな、どうしようかな」って迷う人はやらない方がいいです。起業する人は、学生もそうなんですけれども勝手にやり出すので。
ベンチャーキャピタルから出資を受けたら、厳しい追及があります。ほとんど一年中働く。しかも、一日18時間ぐらい。結果しか評価されないです。そして、究極の自己責任です。誰のせいにも出来ない。
「こんな起業家に比べて、会社員はいいよね」という話です。だったら、会社を使って起業家のように働いたらすごいことになるんじゃないか。本の第三章で、大きな仕事は企業でこそ出来ると書いています。
会社でやる意味を意識するんです。1人でやったほうが経済的価値を生めるのであれば、会社である必要はない。会社のリソースを使い倒す、社内外のネットワークを作るということですね。
1人でやれることは限られているんだけれども、いろんな人の知恵を使って一緒にやったらいい。会社でやる意味を常に意識する。私はあまり数字が得意じゃないんですけれども、意識すべきは1人当たりの売上高。会社の規模によらず、会社の売上を社員数で割ってみるわけですよ。これは集団によるシナジー効果の指標になる。
つまり、1人で稼げるお金を会社の中に入ってみんなでやってても、それは意味がないわけです。1+1が2じゃなくて、5とか10とか100になるから会社に入ってやっている。それだけのことをやっていかないと、会社にいる意味はないですね。逆に言うと、1人で稼げるぐらいの1人当たりの売上だったら経済的な意味だけから言えば、辞めちゃってもいいじゃないかっていうことです。
会社の売り上げを1人当たりで割ると、東京海上は1億3300万円。これは1人で稼げないですね。三菱商事8800万円。経済的な点からだけ言えば、これは会社にいた方がいいわけですよ。基本的に辞めない方がいいわけです。他方、上場企業でも、一人当たり売上高が1000万円を割っているところもある。
個人でやっている人は、コンサルタントとか周り見ていると1人で5~6000万円までは稼げます。そういう人がこうした企業にいると、むしろ経済的には損だっていう話になりますよね。あくまで経済的な話だけですが。
赤城乳業わかります?ガリガリ君の会社ですね。ここすごいんですよ。1人当たり1億2600万円稼いでる。売上377億円で300人ですね。経営の立場から言うと、非常に経営効率がいいってことであり、一方、そこで働く社員からすれば、ひとりひとりがそれだけの付加価値を出しているということ。そういう会社もあるわけですね。
ですから、こういう会社にはいた方がいいと思うんですね。みんなが起業家のようにやれる。入社3年目ぐらいでも大きな責任を追い非常に大きな仕事をガンガンやれる。
また、自分の年収分働くっていうのは、自分の給料の分だけ働くのと勘違いしちゃいけない。人事からすれば、福利厚生その他でその倍ぐらいお金かかってるよと。
サラリーマンなら、失敗してもクビにならない
小杉:起業家のように働く人ってどんな人かっていうと、たとえばNHKのディレクターの神原一光さん。もともと大学のテニスの学生チャンピオンだったんですけれども、残念ながらプロになれず、失意に打ちひしがれてNHKに入った。
最初は面白くなかったそうですが、ある時から好き勝手やろうって思って、いろんな番組を立ち上げたり、社内外で勉強会を主催したりしている。34~5歳ですね。
この人が、本を書いているんですよ。『会社にいやがれ!』って本です。彼は、この本を書いた後に私のところにやってきました。先に出版されていた私の『起業家のように企業で働く』を見て、「やべえ、パクリだと思われる!」と思ったらしいんですね。それぐらい言っている内容が一緒です。
でも、そんなことはなくて。言っていることは同じですが、すべて彼の経験で積み上げてきたことで書かれている素晴らしい本だと思うんですね。本当に伝えたいことは共通で、会社のブランド、金、人、を使えるんじゃないかと思います。
サラリーマンってチャレンジして失敗しても、即クビにはならない。身ぐるみ剥がされて、家財持ってかれないでしょう。毎月決まった給料が決まった日に払われるでしょう。生活の心配をしなくていいわけですよね。
高橋さんが、NPOをやっていて給料がないことに気づいて焦ったと言っていましたけど、そういうことはないわけですよ。上司や仕事が合わなくても、人事異動はあるし、社内で「転職」できるじゃないですか。
日本では会社が変わることを転職って言いますけど、ジョブチェンジですから、あえて社内転職って言ったりもします。社内で起業も出来るし。こんなおいしい立場ないよねってことです。
大義があれば、わがままも通る
それからもう1つ、「Morning Pitch」ですね。毎週木曜日の午前7時~9時に、野村證券の新宿支店でやっているピッチイベントで、ベンチャーの登竜門のようなもの。
ベンチャーは日本ではとても過酷なポジショニングなんですが、それを何とか救うために大企業とベンチャーのお見合いの場を設けようっていうことで、去年の1月からやっています。そこから上場企業が現れたり、大企業と付き合いが出来るようになったりとか、非常に大きな成果を生んで、テレビや新聞でも取り上げられている。
その仕掛け人、が野村證券の塩見哲志さんです。この人が野村證券だからできたわけじゃないですよ。野村證券っていうのは、基本大企業相手のビジネスですから。
アベノミクスで少し大企業の収益が上がっても、ベンチャーが次々と出てこないと、日本の経済は真の意味で復活しないという問題意識を持ち、しかも野村のような大企業が変わらないと日本は変わらないと言って回ったんです。しかし、当然アーリーステージのベンチャーの支援など、社内で賛同を得られません。
それで外部とアライアンスを組んだんです。トーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬さんと、Skyland Venturesの木下慶彦さん。しかも海外のメディアも含むマスコミにも注目させるように仕掛けて、どんどん実績を作っていった。
今ではすっかり役員たちからも、一目も二目も置かれるようになっている。出る杭は打たれるけれども、出すぎた杭は引っ張られた。
大義があるわけですね。日本、あるいは会社の為にやってるんだと。個人的な興味だとか、自分のキャリアをどうしたいって言っても、なかなか支援者は現れないですけれども、会社のため、日本のためという大義があると、助けてくれる人は出てくるのです。(続く)
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