これから就活を迎える学生の多くが抱える悩みや不安。何をすればいいかもわからずに、気持ちばかりが焦っている人もいるだろう。そんな人のために、独自の道を歩く4人の先輩が一筋の光を与えてくれるイベント、「『人を楽しませる』を仕事にしたい学生のためのセミナー」が明治大学で開催された。その講演を5回に分けて書き起こしていく。
第3回目のテーマは、仕事と欲望について。お金や地位など、仕事と欲望は切っても切り離せないもの。仕事をする姿勢として正しいのは、欲望をむき出しにして貪欲に動くことなのだろうか? それとも周りに感謝しながら、つつましく働くことなのだろうか?
登壇者
芸人 2003年から中田敦彦とコンビ「オリエンタルラジオ」として活動 藤森慎吾氏
クリエイティブディレクター2011年にクリエイティブラボ「PARTY」設立 中村洋基氏
株式会社TBSテレビ 番組プロデューサー 中島啓介氏
BASE株式会社 共同創業者/取締役 LivertyやCAMPFIREなど複数の立ち上げに関わる 家入一真氏
モデレーター
株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー 佐藤詳悟氏
前回までの記事はこちら
見出し一覧
・「一晩で200万は使ってましたね」
・「メラメラしたものを持つ人だけが、スゴいところに行ける」
・欲望は果てしないからこそ、小さなものに感謝したい
・上を見ているうちは、まだまだ頑張れる
「一晩で200万は使ってましたね」
佐藤:やりたいことができると欲望がどんどん出てくるという話でしたが、みなさんはどうですか? 家入さんは、欲ありますか?
家入:僕は、29歳の時に運よく会社が上場して当時、20億くらいのお金を手に入れたんですよ。
藤森:凄い話ですね。
家入:入ってきたんだけど、キャバクラとかで使い果たしちゃった。一晩で200万円とか使ってましたね。
藤森:面白い。
家入:六本木とかでは、家入バブルというものが起きたりしたんですよ。
藤森:今日きてる! みんなついちゃいな、ついちゃいなって、女の子! みたいな?
家入:知らない人もどんどん呼んで、僕が会計していました。それでお金がなくなった瞬間に、それまで毎日のように飲んでいた人達がバブル崩壊で、みんないなくなっちゃったんですよ。
それぐらいから、生きるってなんだろうって。今はそんなに欲はないですね。日々に感謝してます。
藤森:お金が無くなってからの復活はどういうふうに?
家入:復活がどういったものかはわからないですけど、幸い今は生きることは出来ているので、それ以上のお金はそんなに求めていないというか、物欲も特にないですね。何の話だっけ?
佐藤:欲望。
家入:欲か。
「メラメラしたものを持つ人だけが、スゴいところに行ける」
佐藤:僕は芸人さん、それこそロンブーとかナイナイとかのマネジメントをやらせてもらっていたんですけど、彼らは欲が強いですよ。それは正しい欲ですが。やっぱり、欲があればあるほど頑張れるんじゃないかな。
家入:そうですね。欲がいい方向に行くと、自分を成長させてくれるものにつながります。けれど、やはり欲というのは往々にして執着とかにつながりますよ。仏教っぽい話ですが。
中村:そうだと思う。実は、ロンブーの淳とかはすごくライトな自己愛性人格障害なのかもしれない。欲が止まらないんですよ。
ある程度の欲ならいいんです。例えば、私も20代はものすごく給料が上がればいいと思っていたんですけど経営者になると、別に会社のお金を自分がいくら使ってもいいわけですよ。
佐藤:だから、そういうところが同一化していくと、ある程度どうでもよくなる。お金なら、ある程度のところで打ち止めになると思います。そうなると残るのは、承認欲求とかですよね。
みんなも多分そうだと思うけど、有名になりたいとか、自分のことを価値ある存在だと感じてほしいとか。でもそれもある程度ちやほやされるとそれで打ち止めになって、そこを超えた、何かメラメラしたものを持っている人だけが、スゴいところにいける。
だから、孫正義とかホリエモンとかも、どこまで行っても仮想し続ける、ある種の欲望を持っている。
「お金だけじゃ幸せになれないって、みんな気付いてる」
家入:最近は、自己承認とか承認欲求という言葉をよく聞きます。マズローの欲求5段階説ってあるじゃないですか? 生理的欲求とか安全的欲求が書いてあるやつです。
日本みたいな成熟した社会は、欲求のレベルが上がりすぎていると思います。例えば、貧困な国は明日のご飯もままならないのに、もっと認められたいって思わないはず。
藤森:食べたいっていう欲求がまずあるわけですね。
家入:有名になりたいとかないわけですよ。だけど、日本はみんなが生まれながらにして、わりと欲求レベルが満たされているので必然的に「自分がこの社会で生きている意味はなんだろう」と考えるんです。
だから、承認欲求をどう満たすかがこれからの課題になると思うんですよ。仕事だけじゃ満たされなかったり、最近の若い人はお金に興味がないって言われたり。お金だけじゃ幸せになれないって、みんな気付き始めているんですよね。
藤森:確かに。
家入:そうすると、残りは愛くらい。それは人生をかけて突き詰めるものなので、ある意味で病的な欲望を持っている人が他の人と違うことができると思うんですよね。
欲望は果てしないからこそ、小さなものに感謝したい
藤森:中島さん、どうですか。この中で言うと一応会社員ですが。
中島:会社員ですよ。
藤森:お給料をもらっていると思いますが、もっと欲しくならないんですか?
中島:会社員になったら、お金は考えてもしょうがないですからね。これ以上アップするためには、会社を辞めて何かするしかない。会社の中での欲って、それこそ面白い番組を世の中に広めることかな。
でも、ちょっと仏教的な話をしますけど、そんなことをずっと考えると毎日がツラいんですよ。欲望にまみれているから辛くなる。だから僕は、休みがあるとお寺に行くようにしています。人間本来の欲、それこそ生きる欲を見つめ直す。
日本人は基本的な欲望が満たされているので、本来のところに感謝しないと毎日がツラくなってしまう。楽しく仕事をしているはずなのに幸せじゃないのかって思うと、また調子が落ちてくるので、なるべく無欲でやっていくようにしています。
「本当に何が大事なのか、たまには考えたい」
佐藤:どこのお寺に行くんですか?
中島:小豆島とかに行きますね。車で30分ぐらい山を登って、さらに崖を鎖で登った奥の洞窟に行くようにしています。そこに行くと、昔の人はなぜこんな辛い思いをしてこんなものを作ったんだろう、なんて考えるんですけど、パッと振り返ると、スゴくきれいな瀬戸内海が広がっているわけですよ。
それを見たときに「これで十分だな」って思うようになりました。そういうところに行くと、何となく心が落ち着くんですよ。会社も家も赤坂で、非常に都会的な生活なんですが、ずっとそこにいればいいというわけもでもない。一体、何が人間にとって本当に大事かを考えるのは、とても意味のあることだと思っています。
佐藤:入社して、すぐの時とかどうでしたか?
中島:欲望の塊でしたね。
藤森:最初はそうですよね。
佐藤:逆に今はチームで、ADとかディレクターとかと一緒にやっていると思うんですけど、下の人なら欲を持ってくれた方がやりやすかったりしませんか?
中島:そうですね。特にこの仕事では、自分が思ってもいなかったものが返ってくるとありがたい。クリエイティブなアイデアって個人では限界があるので、自分と違う頭を持っている人が何か言ってきてくれるとすごくいいなって思います。
上を見ているうちは、まだまだ頑張れる
佐藤:マネージャーはどうですか? 若いマネージャーも多いですよね?
藤森:マネージャーがギラついているかってこと? うーん、そうですね。マネージャーも、もちろん志高い子がついてくれたら嬉しいですけど。今は時代的に、昔みたいにタレントと二人三脚みたいなことは少なくて、僕らは半年に1回ぐらいマネージャーが変わっちゃうので、絆みたいなものは生まれにくい。
僕らも吉本のタレントではありますが、個人経営者という認識なので、相方と話し合って、お互いに野心がなくなったらコンビでできないかも、という話はずっとしています。いまだに10年経ちますけど、お互い本当に欲深いですよ。すごく欲深い。
お金や衣食住、女性にモテたいとか…。この世界は、上を見たら果てしないので簡単に満たされることがない。
「この辺で安泰だとは思いたくない」
藤森:そんな中でもやっぱり、芸人を志した時と今を比べたら変わってますね。例えば、普通にご飯を食べに行くのが今では普通だけど、学生時代なら1回の食事でこんなにお金を使うなんて考えられなかった。慣れって怖いもので、今が贅沢だと思わないんですよ。
だからこそ金銭的な部分は、最終的に自分の原動力ではない気がしている。何をもって成功かわからないですけど、まだまだ上を見ていられるうちは、僕らはまだ仕事を続けられるかなと思っています。
とりあえず食べられるようになったし、キープがあんまり出来ない職種なので、微妙でも上がり続けていかないと。この辺で安泰かなって思った時点で下がっていっちゃいそうですね。
佐藤:オリエンタルラジオは、わりと早めにブレイクしましたよね。
藤森:そうですね。大学を卒業して1年目に「エンタの神様」とかに出演させてもらって、そこからレギュラー番組もちらほら。2年目の終わりぐらいから、本当にありえないことですけどゴールデンに番組を3本もやらせてもらったりしてました。
当時は「天下取ったな。ダウンタウンさん、超えたね」って、ものすごいエクスタシーを感じていたんですけど、見事にバブル崩壊。内容も実力も伴わない人間は、当然の結末を迎えるなと思いました。
そこから、相方と「やっぱり終わりたくない」って言い続けて、何とかやってこれています。怖かったですね。(続く)
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