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【全文】「社会問題をテクノロジーで解決できない理由」知らなければならない大切な4つの要素

Yoshiaki Hiratsuka

2014/09/21(最終更新日:2014/09/21)


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 技術力の向上が促進される一方で、未解決の社会問題。なぜ社会問題は解決されないままなのでしょうか?解決をするために足りないものとは何でしょうか。

 ジャーナリスト氏のジェイソン・ポンティン氏は、科学技術の進歩だけではなく、その技術を用いる方法を知る必要があると語ります。同時に、社会問題に潜む本質的な原因を見極めることの重要性を語っています。

 過去と現在を比較し、直視するべき現状とは。ここではポンティン氏が、将来テクノロジーが社会問題の解決に資する方策を述べたTEDの講演を書き起こします。

スピーカー

ジェイソン・ポンティン / ジャーナリスト

見出し一覧

・なぜ月へ行くことにしたのか
・月面着陸はテクノロジーの勝利なのか
・社会問題はなぜ解決されない?
・社会問題解決に必須の4つの要素

動画

なぜ月へ行くことにしたのか

 我々は人類の課題を解決してきました。

 1969年7月21日、バズ・オルドリンはアポロ11号の月着陸船から月面の「静かな海」に降り立ちました。アームストロングとオルドリンの2人だけでしたが、灰色の月面に降り立つことは、人類が総力をあげた結果でした。アポロ計画はアメリカ史上で最も誇れる、平和時代の力の結集です。

 NASAはこの計画に対して、今の価値にして約千八百億ドル、国家予算の4%をつぎ込み40万人が作業を行い、2万の会社、大学、政府機関が力を注ぎました。アポロ1号の乗組員も含め、亡くなられた方々もいます。アポロ計画が終了するまでに、24人の宇宙飛行士が月に旅立ち、12人が月面に降り立ちました。去年アームストロングが亡くなり、今一番の古参はオルドリンです。彼らはなぜ月に行ったのでしょう?381kgの石。多くは持ち帰ってはいません。

 帰って来た24人が口を揃えて言うには、我々の住む地球は小さく儚く見えたそうです。なぜ月に行ったのかという問いに対するシニカルな答えは、ケネディ大統領がソビエトにロケットを見せつけたかったからですが、ケネディ大統領は1962年ライス大学でのスピーチで次のような説明をしています。

 ジョンF・ケネディ:「なぜ月へ行くことを目指すのかと問う人もいます。その人達はこうも尋ねるでしょう。なぜ一番高い山を登るのか?なぜ35年前に大西洋を飛んだのか?なぜライス大はテキサス大との試合に挑むのか?我々は月に行くことにしました。月に行くことにしたんです(拍手)この10年で月に行くと決めたり他の目標を目指すのは、安易だからでなく難しいからです」

月面着陸はテクノロジーの勝利なのか

 当時の人々にとってアポロは、冷戦中のソビエトに対する勝利を意味しただけではありません。テクノロジーの超越したパワーを賛嘆するものでもありました。大きなチャレンジだから行ったのです。月面に着陸した頃は、他にも数々の技術が成功を収めていました。

 20世紀前半には工場の組み立てライン、飛行機やペニシリン結核のワクチンが生まれました。20世紀の中期にはポリオも天然痘もなくなりました。当時の技術は、1970年にアルビン・トフラーが唱えた「加速的推進力」を備えていたかのようでした。それまでの人類の歴史のなかで、馬や帆船より速く動くことはできませんでした。

 しかし1969年、アポロ10号は時速4万kmで旅立ちました。1970年以来誰も月に行っていません。誰もアポロ10号以上の速度で旅をしていません。テクノロジーの力に対する、楽観的な期待はどこかに消えてしまいました。技術の力で解決されると思われた、火星に行くとかクリーンエネルギー、癌治療、食糧問題などの大きな問題は手に負えないと思われるようになりました。

 アポロ17号の発射が今でも目に焼きついています。私は5歳でした。サターンV型ロケットから出る炎のようなガスを見つめないように、母が言いました。これが最後の月旅行だと薄々理解していましたが、私が生きている間に必ず火星コロニーは実現すると確信していました。その後テクノロジーが持つ問題解決能力に何かが起きたと、我々は思うようになりました。

社会問題はなぜ解決されない?

 よく聞く事です。TEDでもこの2日間話題に上がっています。技術者達は我々の関心を逸らしiPhone、アプリ、ソーシャルメディア、株売買をスピードアップするアルゴリズムなどの些細なもので、自分たちを豊かにしているかの様です。これらはいけないことではありません。我々の生活を豊かにし広げています。でも人類の課題は解決できません。何が起ったのでしょう?

 シリコンバレーのお決まりの答えは、IntelやMicrosoftやAppleやGenentechなどへ投資していた時代に比べ、野心的な会社への投資が減ったと言う事です。シリコンバレーはこれを市場の責任にし、特にベンチャーキャピタルの企業家へのインセンティブが原因だとしています。シリコンバレーによると、ベンチャーキャピタルは革新的なアイデアから離れ、ちょっとした改良や実際にない問題にまで投資するようになりました。

 でもそれだけではありません。シリコンバレーに問題があるのです。ベンチャーキャピタルがリスクを好んでいた時でさえ、10年以内に資金回収の条件の小規模の投資が好まれました。ベンチャーキャピタルは多額の資金を要し、開発期間が長いエネルギーなどの技術への投資からはなかなか利益を得られず、人類の課題を解決するような、すぐに商品価値を生み出さない技術には見向きもしませんでした。

 でも人類の課題を解決できない理由は、実はもっと複雑で深刻です。我々が抱える大きな問題には、時にはわざと手を付けないこともあります。火星に行きたければ行けるのです。NASAにはその計画案があります。でも火星に行くことは、政治がからみ世間の支持無しには決して実現しないでしょう。皆火星に行くよりも、地球にはもっと大切なことがあると信じているからです。

 人類の課題を解決出来ないときは、政治の機能不全によることもあります。現在世界のエネルギー消費の2%以下が、太陽光、風力、バイオ燃料など先端技術によって再利用できるものです。2%にも満ちていません。その理由は経済的なものです。石炭や天然ガスは太陽熱や風力より安く、石油はバイオ燃料より安い。それに変わる安いエネルギーは、必要とされているのに足りていないのです。

 技術者、ビジネスリーダー、経済学者達は新しいエネルギー開発を奨励する国内外の政策に賛成しています。それらは主にエネルギーの研究開発推進と、炭素価格制度の法制化についてです。でも今の政治の風潮では、このような世論を反映したアメリカのエネルギー政策や国際条約は期待出来ません。また技術的なものと思われた人類の課題が、必ずしも予想された原因の通りではないこともあります。

 飢餓は長いこと食料の供給に原因があると思われてきました。でも30年経った研究の結果は、政治的な危機が起こす食料供給の大惨事だということでした。技術の進歩によって、農産物や貯蔵運輸システムは改善できますが、政府が改善しなければ飢餓は続きます。そして人類の課題は解決されないときもあります。それは我々が問題自体を把握していないからです。

社会問題解決に必須の本質的な4つの要素

 1971年、ニクソン大統領は癌の撲滅を宣言しました。でもその後分かったことはいろいろな癌があり、治療が効かない厄介なものが多いということです。やっとこの10年で効果的で具体的な治療法が現実となって来ました。難しい問題は手強いです。

 テクノロジーで大きな問題を解決出来ないのではありません。きちんと解決するには4つの要素が必要です。1つ目に政治のリーダーと一般市民が解決に向けて問題に取り組み、2つ目に各機関がそれを支持すること。3つ目に社会問題が実際に技術的な問題であるかを見極め、4つ目にそれを理解することも必要です。アポロ計画が人類の課題を解決する技術力の象徴だと思われていたのは、これら4つの要素を満たしていたからなのです。

 でも将来これと同じことはできません。今は1961年とは違い冷戦のような人々を奮い立たせる競争もなく、ケネディ大統領のように危険や困難に立ち向かう人を英雄扱いしたり、太陽系探検のような人々の心を掴むSF神話もありません。それに何より月に行くことは簡単なことでした。たったの3日で行けたのです。それにより何か大きな課題が解決したわけではありません。そんな現代に生きる我々にとって、未来の課題は更に高く立ちはだかります。チャレンジは次々とやってきます。ありがとうございました(拍手)

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