消費増税の企業会計への影響として、今後注目が高まるのではないかと思われるものの一つに、売上などの消費税の経理方式があります。税法上、消費税は税込経理と税抜経理の2種類が認められていますが、今後、税込から税抜への移行を考える事業者が増えることが考えられます。
税額の「見える化」が及ぼすメリット
私は基本的に、免税事業者以外の顧問先には税抜経理をおすすめしています。しかし、税込経理は日々の記帳が簡便なため、小規模法人、個人事業主にとって便利な存在であることは確かであり、長く税込経理を続けている関与先企業もいくつかあります。
しかし会計の基本はやはり税抜だと思います。税抜経理のメリットとして大きなものは、期間損益が正確に記され、経営分析に使える決算書が作れること。会計の本来的な役割を考えると、預り金である消費税を除いて売上などを計上した方が正確性が増すのは間違いありません。
これは消費税アップによっていっそう重要になる考え方です。 後に納めることになる8%の消費税額が「見える化」されていないことで、会計の精度がさらに下がることになります。また、税額が期中に把握できる状態になっていなければ、納税資金のリスク管理も難しくなるでしょう。
もうひとつ気になるのが、軽減税率の議論です。商品ごとに消費税額が異なる軽減税率が導入された場合、税抜経理の必要性は明らかに高まります。導入についての議論の行末は不透明であり、また簡易課税制度がどのように変更されるのかによりますが、経理方式の変更のタイミングとして今はちょうど良い時期だと感じます。
移行には会計人によるサポートが欠かせない
ほかの税目についても、税抜経理することで有利になることがあります。たとえば、26年度改正で拡充された中小法人の800万円の交際費損金算入枠は、計上した交際費の額で判断するため、税抜経理の場合は上限864万円と枠が大きくなります。これは飲食費の「5千円基準」においても同様です。また、一括償却ができる少額減価償却資産も、取得価額を税抜きにすることで適用が可能となることがあります。
免税事業者から課税事業者になる時はもちろんのこと、会社規模が拡大する途上にあり、各種の費用が大きくなっているのであれば、税抜経理への移行を検討しておいたほうがよいでしょう。
経理業務が煩雑になることは大きな壁となりますが、最近は会計ソフトの機能が発展し、税抜経理が初期設定で簡単にできるようになっています。期首に行う各種調整などを会計人がサポートし、スムーズな移行を実現させたいところです。
そして、今後も税込経理を行う判断をした事業者については、キャッシュフローなどの経営診断を確実に行い、経営者が自社の経営の状態を見誤ることのないようにアドバイスする必要があります。
いずれにしろ、消費税制が大きく変更されたこの機会に、税込・税抜経理それぞれのメリット・デメリットを伝えた上で、顧問先に改めて経理方式に関する意思確認をしておく必要があるのではないでしょうか。
カイケイ・ネットナビゲーターによるコメント
「税込会計」と「税抜き会計」、両方のメリット・デメリットを理解した上で 経営者はどのような方式を選ぶかが大事だということですね。一方で、そもそも「中小企業の経営者は数字に弱い」という傾向があるようですので会計人としては、いかに数字に興味を持って頂けるように 経営者とコミュニケーションを取っていくかが課題になるのではないでしょうか。税制改正のタイミングは、経営者との距離を埋める絶好の機会になりますね。
(カイケイ・ネットナビゲーター 高橋 良輔 MS-japanコンサルタント)
<この記事は カイケイ・ネットが提供しています>
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