あなたには、どうしてもやり直したい過去はありませんか?私たちは長い人生の中で何度も決断し、そして後に後悔します。そんな決断と後悔のメカニズムを調べているのが、社会心理学者のダン・ギルバートです。そこで彼が発見したのは「歴史の終わり幻想」という法則。実は、私たちが後悔するのは「未来は変わらない」と思い込んでいるせいなのです。
TEDのプレゼンテーション動画の書き起こしから、人々が未来の自分をどう考えているかを学んでみましょう。
スピーカー
ダン・ギルバート/ハーバード大学社会心理学部教授
見出し一覧
・なぜ何歳になっても後悔するのか?
・みんな時間の力を舐めている!
・「未来は変わらない」という幻想
・過去のあなたと同じように、今のあなたも未完成だ
動画
なぜ何歳になっても後悔するのか?
人生のどの段階においても、私たちはその後の人生を変えかねない決断をします。しかし、実際に「その後」がやってくると、私たちは過去の自分の決断に後悔します。だから若者は、10代の頃に大枚はたいて彫ったタトゥーを10年後には大枚はたいて除去します。中高年が離婚に急ぐ相手は、若い頃結婚に急いだ相手です。高齢者が懸命に減らそうとしているのは中年の頃懸命に増やそうとしたものです。
ずっと同じパターンです。心理学者の私は、まさにこの謎に夢中になっています。なぜ私たちは未来の自分が後悔してしまう決断をするのでしょうか?今回はそれをご説明しましょう。
みんな時間の力を舐めている!
その理由は、私たちが時間の持つ力を根本的に思い違いをしているせいでしょう。年を取るにつれて変化が遅くなるのは、皆さんご存じですね。子どもは分単位で変化しているように見えますが、親の変化は年単位でしか見えないのです。
この不思議な分岐点はいつなのでしょうか?目まぐるしかった変化が、ノロノロと退屈になるタイミングはいつなのでしょう。10代のうち?中年になってから?それとも老年期?
その答えは何と、「今」です。どんな時も「今」なのです。みなさんに納得していただきたいのは、私たちが常に錯覚を持って生きているということです。私たちはいつも、たった今本当の自分になったと思い込んでいます。これまでの未成熟だった自分は過ぎ去り、残りの人生はこのままの自分で行くだろうという錯覚を持っているのです。
この主張を裏付けるデータがあります。人の価値観の経年変化を調べた研究です。喜び、成功、誠実さという3つの価値観を調べてみました。みなさんすべてお持ちですよね。年齢を重ねるにつれてこれらが変わるというのもご存じでしょう。何故そうなるのでしょうか。何千もの人に尋ねてみました。
半分の人には今後10年で価値観がどれくらい変わるか予想してもらいました。もう半分の人には、過去10年で価値観がどれくらい変わったか聞きました。とても興味深い分析です。18歳の人たちの予想と、28歳の人たちの振り返りとを比較すればいいのです。こうすることで、あらゆる年代を網羅した分析ができました。
結果はこうです。まず当たっていたのは、年齢と共に変化は緩やかになるということ。しかし、そのペースは思ったほど遅くないのです。データによると18~68歳のどの年齢でも、今後10年間で経験する変化を大幅に少なく見積もりました。これを「歴史の終わり幻想」と呼んでいます。この結果の大きさを示すために2つをつなげてみましょう。
18歳が予測する変化は50歳の報告した変化と同じだということがわかります。
「未来は変わらない」という幻想
価値観だけではありません。他のどんなことでもそうです。たとえば性格。現代の心理学者が人の性格を5つの因子に分けて論じているのはご存じでしょう。情緒不安定性、開放性、調和性、外向性、勤勉性です。
これについても同じことをしました。今後10年間でどのくらい変化すると思うか、そして過去10年間でどのくらい変化したか。結果はこちらです。
同じ図が何度も出てきますよ。やはり年齢と共に変化は緩やかになりますが、今後10年間での変化をどの年齢も少なく見積もっています。
価値観や性格のような一過性のものだけではありません。好き嫌い、つまりは基本的な好みだって同じです。例えば一番の親友やお気に入りの休暇の過ごし方、趣味や好きな音楽を挙げてもらいます。半分の人たちへの質問は「今後10年で変わると思いますか?」、残りの半分への質問は「過去10年で変わりましたか?」です。
結果はもうお分かりですよね?これも同じです。現在の友達が今後10年間も友達で、現在の楽しい休暇の過ごし方は10年経っても同じだと思い込んでいます。しかし、10年後には口を揃えて言うのです。「いやぁ変わっちゃったよ」と。
過去のあなたと同じように、今のあなたも未完成だ
なぜこうなったのでしょうか。単なる予測ミスでしょうか。いいえ、そんなことはありません。理由をいくつか説明します。これが重要な局面での私たちの意思決定を惑わせます。今好きなミュージシャンと10年前好きだったミュージシャンを思い浮かべてください。
さて、また質問しました。現在好きなミュージシャンが10年後にコンサートを開くとしたら、あなたは今いくら払うのでしょうか?平均額は129ドルでした。それなら、10年前に好きだったミュージシャンが今日演奏するとしたら?答えはたったの80ドル。理屈どおりに行けば両者は同額になるはず。しかし私たちは「今」は変わらないと信じるために、現在の好みを満たす可能性にお金を出しすぎてしまうのです。
何故こうなるのかは明らかになっていません。おそらくは、思い出す容易さと想像する難しさが関係しているのでしょう。10年前の自分のことなら思い出せますが、これから先の自分を想像するのは難しい。すると私たちは、未来は変わらないと思ってしまいます。自分が想像できないから、想像できないことなんて起きないだろうと考えるのです。
もちろんそんなことはありません。「想像できない」と言うのはその人の想像力が欠如しているというだけで、思い描いた出来事が起きないということではありません。
時間とは思った以上に強力なのです。私たちの好みや価値観、性格を容赦なく変えてしまいます。私たちがこの事実を認めるのは後になってからです。後から振り返ってようやく、この10年で自分がどれだけ変化したか気づくのです。
ほとんどの人にとって、今という時はまるで魔法の瞬間なのです。それは時の流れの分岐点、いよいよ本当の自分が現れる瞬間です。人間というのは未完成なくせに、自分は完成していると勘違いしてしまうのです。現在のあなたは過去のどのあなたと何も変わりません。いつ変わるか分からない、はかない束の間の存在です。お分かりでしょうか。人生で変わらないのは「変わる」という絶対的な事実だけなのです。ありがとうございました。(拍手)
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