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【全文】すべての情報がつながる世界へ――Webシステム開発者が語る「次世代のWeb」

野口直希

2014/08/28(最終更新日:2014/08/28)


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 仕事のやり取りからランチのお店の検索まで、今や私たちの生活にWeb検索は欠かせません。そんなWebの仕組みを作ったのがティム・バーナーズ=リー。彼は今、「次世代のWeb」を作り出そうとしています。しかそれを完成させるには私たちの協力が不可欠なんだとか。新しいWebで世界はどう変わるのでしょうか?そして、そのために私たちができることとは何なのでしょうか?

 ここでは、ティム・バーナーズ=リーが未来のWebの姿について語ったTEDのプレゼンテーション動画を書き起こしていきます。

スピーカー

ティム・バーナーズ=リー/計算機科学者・ハイパーテキストシステム考案者

見出し一覧

・WWWを作った原因は、共有できないストレス
・新しい概念は人を通じて広まった
・Web上にデータを並べるという革命
・世界を変える「Linked Data」
・情報の公開を!
・あなたの情報が世界を作る
・検索じゃ分からない答えも、ここにはある

動画

WWWを作った原因は、共有できないストレス

 時がたつのは早いものです。私はちょうど20年程前に、情報の利用方法や協力して仕事する方法を再構築したいと考えてWorld Wide Webを発明しました。そして今、20年後のTEDで私はみなさんに新しい再構築にご協力頂きたいと思います。

 時代は1989年に遡ります。私はグローバル・ハイパー・テキスト・システムの提案書を書きました。ですが、当時は誰も関心を向けてくれませんでした。

 しかしその18ヶ月後、上司が新しいコンピューターの点検がてら、サイドプロジェクトとして先ほどの提案にゴーサインを出してくれました。そして彼は、私にコーディングを行う時間をくれたのです。そこで私はHTMLの大まかな部分を作りました。HTTPと呼ばれるハイパーテキストプロトコルや、httpで始まるURLの概念などをです。私はコードを書いて、それを公開しました。

 何が私を突き動かしたのでしょうか?それは、多くのストレスです。当時の私は不満でいっぱいでした。私はソフトウェアエンジニアとして巨大でエキサイティングな研究所で、世界中から集まった多くの人と働いていました。彼らは多様なコンピューターを研究所に持ち寄り、多様なデータフォーマットや文書システムで仕事をします。実はそこにストレスのタネがあったのです。

 もし私がシステムのどれかを使って何かを作りたいと思ったとします。しかし、社内は多様性に溢れすぎているので、その度に新しいマシンにつないだり新しいプログラムの動かし方を学ばなければなりませんでした。互換性がなかったのです。それはとてももどかしいものでした。目の前に無限の可能性があるのに、その扉を開けないのです。

 ハードディスクの中にはいくらでも有用なドキュメントがあったのです。インターネットのようにそれらすべてが巨大な仮想文書システム上にあったらどんなに良いことでしょう。一度そんなアイデアが浮かんだら、それはもう私を捉えて離しませんでした。そして、多くの人は見向きもしませんでしたが、上司は認めてくれたのです。彼の死後見つかった資料には、欄外に鉛筆で「よくわからないが興味深い」と書かれていました。(笑)

新しい概念は人を通じて広まった

 しかし一般的には、Webという概念を説明するのは非常に難しいものでした。今では当時の説明の難しさを伝える方が難しいのに。TEDが始まった頃なんかにはWebは存在せず、「クリック」という行為も今とは違った意味を持っていました。

 そんな当時に「このハイパーテキストというリンクが含まれるページをクリックすると…なんと、別のハイパーテキストページが表示されるんだ!」なんてことを説明していたのです。しかも、あまり見栄もよくありません。リンクという概念を彼らに想像させるのは骨が折れました。考え得るあらゆる文書にリンクで飛ぶことができるというのは、当時の概念からかけ離れた発想だったのです。

 それでも、ある程度の人々は受け入れてくれました。理解してもらうことこそ難しかったのですが、なんと理解してくれた人たちの中からは草の根運動が起こったのです。それこそが、Webが面白くなった原因です。

 私が最も興奮したのは、技術自体でも、人々が技術を使ってやったことでもありません。そこから生まれたコミュニティーであり、力を合わせる人々の精神に興奮したのです。あの頃はとにかくワクワクしていました。

Web上にデータを並べるという革命

 面白いことに、今も当時と同じ状況になりつつあります。当時の私はみなさんにお願いしていました。「このWebというものにみんなの文書を置いてください」と。すると、みんながやってくれたのです。感謝しています。実際、すごいことになりましたよね。私は圧倒されてばかりでした。Webで起こったことは、私たちが当初想像していたことを遥かに超えていたのです。

 今回、またお願いがあります。次はWebに、みなさんのデータを置いて頂きたいのです。ここにまだ開かれていない大きな可能性があります。人々はデータがWeb上に存在していないことに、多くの不満を抱えているのです。

 そもそもデータとは何でしょう。文書とデータは何が違うのでしょうか。文書は読み物です。内容を読めるし、リンクを辿ることもできます。ですが、それだけです。一方、データなら様々な事が出来ます。

 ハンス・ロスリング(編集者注:公衆衛生学者TEDでの講演「最高の統計を披露」が大好評)の講演を聴いた方はいらっしゃいますか。多くの方はご覧になったと思いますが、最も卓越したTEDTalkの一つでした。ハンスはこのプレゼンテーションで様々な国々をカラフルな色で表現しました。そして、所得水準を一方の軸で表しもう片方を幼児死亡率として、時の経過をアニメーションで示しました。彼日人々が発展途上諸国の経済に対して持っていた思い込みを、プレゼンテーションで吹き飛ばしたのです。
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 彼はこのようなスライドを紹介しました。地下には全てのデータが存在し、データは面白みのない茶色の箱として描かれているのです。みなさんもそのように思っているでしょう。なぜなら、データはそのまま使う事が出来ないからです。でも実は、誰かがそのデータを使うことで、データは私たちの生活に大きな影響を与ているのです。

 先ほどのプレゼンは、ハンスが国連のWebサイトなどで発見したデータを組み合わせたものです。彼はデータを一緒に組み合わせ、個別のデータより遥かに面白いものを生み出し、確か彼の息子さんが開発したソフトウェアに取り込んでこの素晴らしいプレゼンテーションを作成したのです。

 ハンスの印象深いセリフは「沢山のデータを持つ事こそが重要だ」です。そして私は、昨夜のパーティーで彼がそのことを力説しているのを見て、とても嬉しく思いました。

世界を変える「Linked Data」

 ここで想像してみてください。彼のように6つかそこらのデータではなく、みんながデータをWebに載せることで、考えうるあらゆるものが利用できる世界を。これをと呼びます。

 この技術はごくシンプルなものです。Webに何かを載せるには3つのルールがあります。まず「http:」で始まるHTTP名が必要です。これからは文書だけではなく、人や場所、製品やイベントに対しても「http:」を利用します。様々な概念が、それぞれHTTPで表されるのです。

 2つ目のルールは、このHTTPの名称をもとにWeb上で検索し、データをHTTPプロトコルを使ってWebから取得したら、人々が知りたいと思うことを有益な情報として標準形式のデータで取得出来ることです。そのイベントには誰が出るのか?出演者はどんな人なのか?彼の出身地はどこなのか?などなど。より高度で重要な情報が取得できるのです。

 3つ目のルールは、その情報を取得したらその人のことだけではなく、関連情報も取得できるということです。データとは関連です。面白いことに、データとは次々とつながっていくのです。

 この人はベルリンで生まれました。ベルリンはドイツにあります。関連した情報が表示されるとき、それに関わるあらゆるものについてHTTPで始まる名前が取得でき、好きなものを調べることができます。まずその人を調べ、そこから彼らが生まれた都市を探し、その都市の地域や、町、そして人口…というように。つまり、関連する情報全てに目を通すことができるのです。

 簡単でしょう?これがLinked Data なのです。何年か前に私は『Linked Data』いう記事を書きました。すると、この企画はみるみる成長していきました。

 Linked Dataは、ハンスが示したような沢山の箱を私たち自身が持ち、そこから沢山の芽が伸びてくるイメージです。単なる沢山の草でも一本の草が伸びている根でもなく、それぞれの植物は有機的につながっています。関わりのあるあらゆるデータを見ることができ、それらをつなぎ合せることができるのです。プレゼンテーションであっても分析結果であっても。そして最も重要なことですが、データはつながりが多ければ多い程その価値が高まるのです。

情報の公開を!

 Linked Dataという概念は世に放たれました。それから間もなく、これに関する興味深い発表をした人物がベルリン自由大学のクリスビッツァです。彼はWikipediaに目を向けました。そう、みなさんのご存知の膨大な文書が詰まったオンライン辞書です。Wikipediaには小さな囲み記事があり、それらの中には色々なデータが入っています。
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 彼はそれらのデータをWikipediaから抽出して、Web上のLinked Dataのノードに入れるプログラムを作りました。それがDbpediaです。Dbpediaは、この画像で真ん中に見える青い塊として表現されています。そして実際にベルリンを調べてみると、ベルリンに関連する様々なデータが互いにつながっていることも確認できます。Dbpediaからベルリンのデータを取得すれば、他の情報も合わせて引っ張りだせるのです。そしてワクワクすることに、このつながりは成長を始めました。これもまた、ゼロからの草の根運動なのです。

 データに関して少々考えてみましょう。データは様々な形で存在します。Webの多様性から分かるように、様々なデータが自由に設置されているのです。これが非常に重要です。

 そこには多種多様なデータがあります。例えば政府のデータ。企業データも重要です。他にも科学データや個人データ、気象データにイベントに関するデータ、それにニュースなどあらゆるデータが存在します。

 みなさんには、Webの多様性と、そこに眠る大きな可能性を秘めたデータの多さを知っていただきたいのです。いくつか紹介しましょう。

 政府のデータから始めましょう。バラク・オバマはスピーチで、アメリカ政府のデータをインターネットから利用可能にすると言いました。私は政府がデータをLinked Dataとして公開することを願います。政府の情報公開は透明性の担保につながりますが、重要なのはそれだけではありません。

 そのデータは、全ての政府の機関から集められたデータです。その中にアメリカの人々の生活についてのデータがどれほどあるでしょうか。それは非常に役に立ち、また価値があります。会社の資料に使うことができます。子供が宿題をするのに使うこともできます。つまりこのデータが利用できれば、世界がより良くなるのです。

 政府機関がデータをどう扱っているかお分かりですよね。彼らはデータを公開せずに、抱え込んでばかりいます。ハンスはこれを「データベースの抱え込み」と呼んでいます。データベースを抱きかかえ、美しいサイトが完成するまで見せようとしないのです。

 美しいWebサイトを作ることも重要ですが、その前にまず手が加わっていない生のデータが欲しいのです。私たちが欲しいのはデータそのものなのです。データには大きな可能性があります。だから私たちは、生のデータを今すぐ解放して欲しいと伝えなければなりません。さあ、今からみんなで言ってみましょう。

ティム:「生の」

会場:「生の」

ティム:「データを」

会場:「データを」

ティム:「今すぐに!」

会場:「今すぐに!」

ティム:そう、「生のデータを、今すぐに!」

会場:「生のデータを、今すぐに!」

 是非練習してください。私たちが納税者としてそのお金を出しているのに、彼らは多くの理由をつけデータを保管します。みなさんが利用できる情報を増やすために、この言葉はとても重要なのです。これは世界規模での話です。もちろん政府に限ったことではありません。企業に対してもそうです。

 データに対する私の考えについてもう少し話したいと思います。ここTEDでは、常に人類社会が直面している課題に思いを巡らせています。癌の治療やアルツハイマー治療のための脳の理解、経済をより安定させる方法、世界の仕組みの向上など。これらの課題の解決を目指す学者は、アイディアを頭の中で熟成させながら、Webを介して情報を交換します。しかし、実際のところ現在の人類における知識の大半はコンピューター内に留まっており、共有されていません。

 例えば、もしあなたがアルツハイマー病の創薬についての情報を探すと、多くのLinked Dataが公開されつつあることを知るでしょう。その分野の科学者達は今までゲノムデータを一つのデータベースに格納し、タンパク質のデータを別のデータベースに格納していました。しかし、今ではその情報を広く開放しているのです。

検索じゃ分からない答えも、ここにはある

 なので、今まで誰も答えてくれなかった質問もLinked Dataなら正解を示してくれます。「シグナル伝達及び錐体神経に関係するタンパク質は何か」という質問をグーグルに投げかけてみましょう。残念ながら、この質問に答えるページは存在しません。誰もそんな質問をしていなかったからです。22万3千ページがヒットしますが、参考になるページはありませんでした。

 次にLinked Dataのシステムに質問してみると32件もヒットします。そのどれもが、私が探していた性質を持ったタンパク質です。このように、異なる領域を実際にまたぐ質問をすることが出来るようになったことは、科学者にとって大きな変化です。

 そしてこれは計り知れないほどに重要なことです。科学者達は、外部からは見ることができないけれども、他の科学者が所有しているデータの前に完全に立ち往生しています。それを解放してより大きな問題に取り組める体制が求められているのです。

 みなさんは、全てのデータは巨大な研究機関から生まれてくるもので、個人には関係のない話だと思っているかもしれません。でもそれは違います。データは私たちの生活から生まれるのです。お好きなSNSにアクセスして「この人は私の友人です」と言えば、関係性と共に新たなデータが生まれます。「この写真はこの人を撮ったものです」と言えばまた一つ!これも新しいデータです。

 データ、データ、データ…。SNSで何かをする度にサイトがデータを取得し、利用することで人々の生活はさらに面白くなります。それでも、別々のサービス間での連携はできません。例えば、旅行サイトの写真を友達に送りたいと思っても、サイトの壁を越えることはできないのです。この壁を取り払うには、サイト同士の相互運用性を持たせなければいけません。Linked Dataならそれが可能です。

あなたの情報が世界を作る

 最後にご紹介するお話は、恐らく最も面白いものだと思います。ここに来る前に、私はOpenStreetMapを使いました。これは地図であり、Wikiでもあります。この四角を拡大すれば、私たちが今いるテラス劇場が表示されます。ここには名前がついてなかったので、私は編集モードを使ってこの劇場の名前を追加しておきました。再度このOpenStreetMap.orgに戻ってみると…なんとこの場所、テラス劇場に名前が付けられているのです。

 私がやったんですよ!僕が地図に名前を付けたんだ!俺が名付け親さ!どうだい?この市街地図は私のように、みんながほんの少しずつ手を加える事で途方もない資料を作り出せるのです。そしてそれこそがLinked Dataの本質なのです。

 人々がちょっとした情報を提供したら、それが全てつながっていく。そうやってLinked Dataは機能するのです。あなたも、他の人も、それぞれの情報を提供するのです。あなた自身はWebにデータを提供できなくても、欲しいデータを要求することは可能です。私たちはそう言う風に作ったのです。

 以上がLinked Dataです。これは途方もないものです。私はまだほんの一握りのことしかみなさんに紹介していません。私たちの生活には仕事や娯楽をはじめ、あらゆるデータが存在します。ここで重要なのは、データが生成される拠点の数ではありません。データをつなげていくことが重要なのです。文書としてのWebでは得られなかった力が、データをつなぎ合せることで得られるのです。

 この中からきっと途方もなく巨大な力が生まれるでしょう。今は、これが素晴らしいアイディアだと思う人々が行動を起こすべき時です。すぐには投資効果がない話であっても、実行してくれる人がTEDにはたくさんいます。それは、まず自分が実行すれば周りがそれに倣ってくれて、この連鎖で世の中がより良くなると信じているからです。

 これがLinked Dataです。みなさんにはこれを作って頂きたいのです。みなさんにはデータを要求して頂きたいのです。それが、私の世に広めるべきアイディアです。ありがとうございました。(拍手)

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