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【全文】なぜ組織はムダだらけなのか?複雑な企業を解きほぐす、たった6つのシンプルなルール

野口直希

2014/08/11(最終更新日:2014/08/11)


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【全文】なぜ組織はムダだらけなのか?複雑な企業を解きほぐす、たった6つのシンプルなルール 1番目の画像
 なぜ、私たちは無駄なく働くことができないのでしょうか?そしてなぜ、私たちはやりがいをもって働けないのでしょうか?驚くことに、どんなに優秀な企業も同様の問題を抱えていると、500以上の会社をコンサルティングしてきたイブ・モリューは語ります。

 その原因は、企業の組織運営にありました。今まで有効だと思われていたアプローチはすべて、現代の複雑な企業には効果がないのです。そこで彼が提唱するのは、たった6つのシンプルなルール。いったいどのようなものなのでしょうか。

 ここでは、企業が徹底すべき6つのルールをイブ・モリューが紹介したTEDのプレゼンテーション動画、「複雑化する企業環境、6つのスマート・ルールでシンプルに」を書き起こしていきます。

スピーカー

イブ・モリュー/ボストンコンサルティンググループ シニア・パートナー

見出し一覧

・生産性とやりがい。2つの問題には共通の原因があった
・「ハード」と「ソフト」で考えるのはもう古い
・ハードへのアプローチは、複雑さを加えるだけ
・複雑な組織に求められるのは、命令系統ではなく「協力」
・6つのスマート・ルール

動画

生産性とやりがい。2つの問題には共通の原因があった

 私は、ここ何年も2つの謎を解明しようとしてきました。1つは、なぜこんなに生産性が落ちているのか?仕事の生産性は確実に落ちています。それも私が仕事をする500社以上の会社すべてで起こっています。コンピュータ、IT、テレコミュニケーション、そしてインターネットといった技術の進歩あるにもかかわらずです。

 2つ目の謎は、なぜ仕事にやりがいが持てないのか?なぜ従業員は打ち解けず、場合によっては関わることすら避けてしまうのでしょうか。上司ならまだしも、同僚からも距離を取っています。これは会社の利益を大きく下げています。親睦会や祝賀会、管理者向けのリーダープログラムまで用意されているにもかかわらず、この結果です。

 当初、これらの問題は、「鶏が先か卵が先か」の問題だと思っていました。やりがいがないから生産性が低いのか。それとも、生産性が低いからプレッシャーをかけられやりがいがないのか。でも、分析を進めるうちに2つの問題には共通する根本的な原因があることに気付きました。

「ハード」と「ソフト」で考えるのはもう古い

 その要因は、経営の基礎にも関わるものです。企業というものは2つの柱で成り立っています。組織やプロセス、制度を指す「ハード」と、感情や人間関係、性格を表す「ソフト」です。会社が組織再編や改革をするときは、必ずこれら2つの柱を対象とするわけです。それらを洗練したり組み合わせようとするわけです。

 真の問題は、ハードとソフトという2つの柱は時代遅れだということです。これが冒頭の2つの謎の答えでもあります。多くのビジネス書では、いずれかの柱、または両方を変えようと考えているから時代遅れなんです。

ハードへのアプローチは、複雑さを加えるだけ

 これらのアプローチを、複雑になった今の企業に使ったらどうなるでしょうか?「ハード」へのアプローチはたいてい戦略要件、組織構造、プロセス制度、KPI、実績表委員会、本社、ハブ、クラスターなどから始めるわけです。マトリクス、インセンティブ、委員会調整組織、インターフェイスなんかの場合もありますね。
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 この左側(編集者注:上図参照)で何が起こっているかと言えば、ビジネスにさらに新たな複雑さが加えられています。品質、コスト、信頼性、スピードも必要になりますが、こうした新しい要件が追加されるたびに同じアプローチを使っています。それを専門に行う組織や制度を作り、その新しい複雑性に対処させます。ハードのアプローチは単に組織を複雑にするだけです。

 例をあげてみましょう。ある自動車メーカーの技術部門が5次元マトリクス組織だとしましょう。そのマトリクスのマスを1つ開けると、さらに20次元マトリクスが出てきます。騒音担当燃費担当や衝突防止部材担当などです。新しい要件が追加されるたびに専門の部署を作り、その新しい要件と技術者を調整させます。

 新しい要件が出てくるとどうなるのでしょう?自動車メーカーでは、数年前から新しい要件が重要視されるようになりました。それは「保証期間の延長」です。ここで重要なのは「修復性」、つまりはどれだけ簡単に車を修理できるかです。例えば、ライトの修理がしたくても、エンジンを外さなければライトに触れない場合はどうでしょう?2時間で直るはずのライトの修理が1週間もかかり、しかも予算も莫大になってしまいます。

 ハードへのアプローチとは、どのようなものでしょうか?それは、修復性という新しい要件に対して新しい機能を作ることでした。つまり、担当者を置くわけです。修復性担当は何をするかと言うと、問題なく修理するための工程を作り、修復性の評価指標、修復性を推進するためのインセンティブを定めます。

 これを徹底するとどうなるでしょうか?他の25のKPIを抑え、修復性の優先度がトップに躍り出ます。変動報酬制でどれくらい影響を受けるかと言えば最大で20%で、それを26のKPIで割れば修復性に相当するのは0.8%です。

 それによりどう行動が変わるでしょう?簡素化する選択は?何も変わりません。でも何の影響もないことに修復性担当を置き、プロセス成績評価を作り、他の25指標の担当とも連携します。何の効果もないことにです。

複雑な組織に求められるのは、命令系統ではなく「協力」

 あまりに複雑な企業の組織図に箱を書き入れ、指揮命令系統を描いたところで何も解決しません。解決策はずばり、 相互作用にあります。どのように協働するか、と言っても良いでしょう。一人一人がどうつながり、どうシナプス結合するかです。入れ物の骨格は重要ではありません。神経系統をどのように適応させ、どのように知性を働かせられるかが問題なのです。

 これを「協力」と呼ぶこともできますね。みんなが協力をすればリソースも少なくて済みます。修復性の問題というのは、つまるところ協力の問題なんです。車を設計するときに考えないといけないのは、アフターセールスでの修理担当者たちのニーズです。協力しなければ余計に時間もかかり、設備やメンバーももっと必要になります。資材調達やサプライチェーン製造が手を貸してくれなければ、在庫も棚卸資産も運営資金も多く必要になります。

 誰がその負担をするのでしょう?株主ですか?消費者ですか?彼らが負担してくれるわけがありません。残ったのは…そう、従業員です。従業員が手に負えないほどの努力で、協力不足に対する穴埋めをしないといけないんです。ストレスでへとへとになって、挙句の果てに重圧事故が起こって当然です。そんな目に遭いたくないから、自分から手を貸そうとする従業員はいないのでしょう。

 では、協力を高めるためにハード面、ソフト面から何ができるでしょう?ハード面から考えてみましょう。例えば銀行で事務管理部門と顧客窓口部門との間で問題がありますが、部門同士の仲が悪く、協力しようとしません。どうすればいいでしょう?ハード面で出来ることは、ミドル・オフィス(調整部門)を作ることです。

 その場合、1年後にはどうなっているでしょう。事務管理・顧客窓口部門間の1つの問題が2つに増えてしまいます。事務管理とミドル・オフィスの間と、顧客窓口とミドル・オフィスの間の2つで摩擦が生まれるからです。さらに、ミドル・オフィスを運用するコストも発生しています。

 ハードのアプローチは骨格に骨を増やすだけで、協力を促すことはできません。では、ソフトアプローチではどうでしょうか。協力を生むために、お互いの仲を深めさせようとするでしょう。互いの仲が良いと、協力もしやすいですからね。

 しかし残念。実はこれも全くの間違いです。むしろ逆効果です。ちょっとした例を挙げてみましょう。うちにはテレビが2台あります。なぜでしょう?ずばり、妻と協力しなくていいからです(笑)妻と取引する手間をなくしているんです。なぜそんなことをするのでしょうか?それは、私が妻を愛しているからです。妻を愛していなければテレビは1台で十分です。「僕はサッカーの試合を見るんだ。一緒に見るか、それが嫌なら本を読むか出て行きなさい」と言えばいいからね(笑)お互いに好意を持っているほど、厳しいトレードオフで関係を締め付けなければならず、結局は真の協力はできなくなります。テレビを2台にしなければ、私たちは激しい話し合いをして、調停にまで行ってしまうかもしれません。

 当然、これらのアプローチは時代遅れです。複雑さに対処し、神経系統の拡張を図るために私は「スマート・ルール」を編み出しました。ここで使うのは実にシンプルなルールです。

6つのスマート・ルール

1. 同僚の仕事を理解する

 1つ目のルールは「同僚の仕事を理解する」。同僚がやっていることは何か?既成概念にとらわれてはいけません。マニュアルや表面的なことではなく、本当の中身を理解するのです。設計者であれば、ここにワイヤーを付けてしまうとライトを触るときにエンジンを外さないといけないと予想できるでしょう。

2. マネージャーの権限を強める

 2つ目のルールは「まとめ役を強化する」。まとめ役にするのは、ミドル・オフィスではなくマネージャーです。今いるマネージャーの権限を強化し、自らの権限で利害関係を持ち、他者に協力させられるようにするのです。

 どうすればマネージャをまとめ役にできるでしょうか?大切なのは、間にある階層を取り除くことです。階層が多すぎると現場から遠くなるため、KPIやマトリクスが必要になり、実際に動こうとしてもなかなか権限を発揮できません。現実を理解していないから、KPIなんて複雑なものを導入するのです。

3. ルールをなくす

 ルールをなくしましょう。組織が大きければ大きいほど、より多くのまとめ役が必要になります。ですからルールは少ない方が良いのです。ルールに縛られてはいけません。マネージャーに裁量権を与えるんです。でも現実は違います。組織が大きくなるにつれルールを量産し、ブリタニカ辞典のような膨大なルールを抱えるわけです。

4. 権限を委譲する

 そして「権限を拡大する」ことも必要です。メンバーに権限を委譲して、彼らの判断力や知性を活用します。みんなにもっとカードを与えないといけません。みんながリスクを取ってまで協力をしてもらうために、必要なカードを持てるようにするのです。そうでもしなければ、みんな損を恐れて周りと関わろうとしません。

 こうしたルールは、ゲーム理論や組織社会学に基づいています。フィードバックのループを作り、社員に自らの行動の結果を感じさせるのです。

 先ほどの自動車メーカーもこれを行いました。修復性担当者なんて作っても、意味がないと悟ったからです。代わりに設計者にこう言いました。「3年後、この新車が市場に出る頃には、君はアフターセールスに異動して保証業務予算の責任者となるんだ。もし保証予算がオーバーすることになったら、君が責任を取るんだよ」と(笑)今月の給料がちょっと変動するよりも、よっぽど効果的でしょう。

5. 自己完結させない

 「相互依存を高める」ことも必要です。一人で判断、決定ができる領域をなるべく減らします。こうすれば、隣の人のミスが自分の足を引っ張ることになるので、協力をせざるを得ないのです。

 職場には2台目のテレビは不要です。皆が別々のテレビを見ていても、何も改善されません。自己完結してしまうだけです。

6. 失敗は責めない。責めるのは協力を怠った時

 最後に必要なのは、「協力した社員に報い、協力しない社員にその責めを負わせる」ことです。レゴ社のCEO ヨアン・ヴィー・クヌッドストープはそれをうまく使っています。彼の発言に、「責められるべきは失敗ではなく、協力しないことや協力を求められないこと」というものがあります。

 これを徹底すればすべてが変わります。自らの弱さや業績見通しをさらけだすことが、自分の利益につながるのです。失敗しても責められず、むしろ協力を怠ることで責められるのですから。

 どうでしょうか。これらの指針は、組織設計を考えるうえで強力なヒントになるでしょう。組織図に箱や線を描くのをやめ、相互作用に目を向けるのです。そうすれば、財務政策も見直す必要が出てくるでしょう。人材管理もそうです。

 スマート・ルールを守ることで今までの複雑性をなくし、また新たな複雑さが生まれるのを防ぐことができます。低コストでより高い価値を生み出せ、同時に仕事のパフォーマンスと満足度も高まるのです。2つの問題の複雑さの原因を取り除いたからね。

 ビジネスリーダーのみなさん、複雑性とはあなた自身の戦いです。真の敵は競合他社ではありません。そんなものはくだらない、抽象的なものにすぎないのです。いつ競合相手に会って競争をするのですか?真の戦いは我々自身の中にあります。官僚主義や複雑さと戦うのです。スマート・ルールを徹底できるのはあなただけです。ありがとうございました。(拍手)

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