全世界で800万部を超える大ベストセラー『食べて、祈って、恋をして』。この本で一躍時の人に登りつめた著者のエリザベス・ギルバートですが、実は彼女は大ヒットの後に壮絶なスランプに陥ってしまいました。そんな彼女を救ってくれたのは、失敗続きの過去の自分。成功と失敗の両方の味を噛みしめた彼女がたどり着いた、自分を見失わない方法とはどのようなものなのでしょうか。
ここでは、TEDの人気プレゼンテーションであるエリザベス・ギルバード氏の「成功と失敗と創り続ける力について」を書き起こしていきます。
スピーカー
エリザベス・ギルバート/作家 代表作『食べて、祈って、恋をして』
見出し一覧
・成功のおかげで執筆が怖くなった
・苦難の時代に大切にしていたこと
・自分が分からなくなったら「居場所」を思い出す
・居場所さえ分かれば、怖いものは何もない
動画
成功のおかげで書くことが怖くなった
何年か前、ケネディ国際空港で搭乗を待っていると女性が2人やって来ました。年配で小柄な押しの強いイタリア系の女性たちです。2人の中でも背の高い人が話しかけてきました。
「ちょっとあんた、近頃話題の『食べて、祈って、恋をして』の人じゃない?」
私は「はい」と答えました。すると彼女は、友人の肩を叩いて言うのです。
「言ったじゃない、やっぱりこの子だ」。ええ、確かに私です。私は、自分がその本の作者で本当に良かったと思っています。私にとって『食べて、祈って、恋をして』は、大きな転機だったからです。
ただ同時に、その本のせいで私は作家を続けていくのが難しい立場に立たされました。誰かに喜んでもらえる本を、どうしたら再び書けるのか分からなくなったのです。『食べて、祈って、恋をして』を気に入ってくれた人は、次回作がどんなものだろうと絶対にがっかりするでしょう。なぜなら、次の作品は『食べて、祈って、恋をして』ではないからです。一方で、あの作品が嫌いな人も、私が何を書こうと絶対にがっかりします。「あいつ、また本を書いたのかよ」と。どちらにせよ、うまくいく見込みがないのです。
もし見込みがないなら、もう執筆活動はやめて、田舎に引っ込んでコーギー犬でも育てようかと本気で考えました。でもここで書くのをやめたら、愛する天職を失ってしまいます。だから私は、何とかひらめきを取り戻して、失敗を恐れずに次の本を書くべきだと考えました。成功しても揺らぐことのない、確かなひらめきこそが私が手に入れるべきものだったのです。最終的にそのひらめきを手に入れたのは、意外な場所からでした。失敗ばかりしていたころにヒントがあったのです。
苦難の時代に大切にしていたこと
少しさかのぼって説明すると、生まれてこのかた私が夢見てきたのは、作家になることだけでした。子どもの頃からずっと文章を書き、10代になるとひどい作品をニューヨーカー誌に送りつけていました。才能が発掘されることを夢見ていたのです。
大学を卒業してからもウェイトレスをしながら必死に出版を目指しましたが、失敗ばかりでした。およそ6年もの間、何も出版できなかったのです。その6年間、毎日郵便受けで私を待っていたのは断りの手紙だけ。手紙を受け取る度に、もう執筆活動を辞めてこの苦しみから解放されようかと考えました。
その度に私は、こう考えて決意を新たにしました。「私はやめない、自分の居場所に戻るんだ」と。でも誤解しないで。居場所に戻るとは、家族が住む農場に帰るということではありません。私にとって「戻る」とは、作家の仕事に戻ることです。私の居場所は、書くことです。いくら失敗しても、執筆への愛情を抑えることはできませんでした。結局私には、自尊心や自分自身よりも、書くことの方が大事だったのです。こうやって私は辛い時代を乗り切りました。
ところが不思議なことに、20年経って『食べて、祈って、恋をして』がヒットした今の自分と、本も出せない当時の自分が重なったのです。まるでウェイトレス時代に戻ったような気分でした。いったいなぜなのか、合理的な説明などできません。その頃の私と今の私の生活はまるで違います。昔の私は失敗ばかりでしたが、今は当時からは想像もできないほどの成功を収めていて、共通点は一つもないのです。
なぜ急に昔の自分に戻った気がしたのでしょうか。その謎を解こうとして、ようやく理解できたのです。イメージできるでしょうか?大きな失敗と大きな成功との間には、不可思議で想像を超えた心理的なつながりがあるのです。
自分が分からなくなったら「居場所」を思い出す
みなさんは、人生の大部分を平凡で平穏な、いつも変わらない経験の連続の中を生きています。でも失敗すると、突如先の見えない絶望の淵へと投げ出されます。一方、成功した場合にも同じくらい遠くへ投げ出されます。周りが見えなくなるほどの名声と評価と賞賛を受けるからです。
一般的には失敗は悪いことで、成功は良いことだとされています。ところが潜在意識のレベルでは、2つを見分けることはできません。唯一分かるのは、どちらの場合でもあなたの心からある程度の距離を持っているということです。
どちらの場合にも、同じように心の深みの中で進むべき道を見失う危険があるのです。ただ、どちらの場合でも同じ方法で自分を取り戻せることに気付きました。その方法とは、できるだけ早くスムーズに自分の居場所に戻ることです。
自分の居場所が分からないという人にも手がかりはあります。それは、あなたの大事なものです。自分の居場所とは、自分の体よりも大事なもののことです。それは何かを作ることかも知れないし、家族や発明や冒険や信仰や奉仕、あるいはコーギー犬を育てることかも知れません。とにかくあなたの居場所とは、情熱をもって全精力を注ぐことができ、もはや結果なども重要ではないもののことです。私の居場所はいつも書くことでした。『食べて、祈って、恋をして』で目が眩むような成功を収めて、初めて分かりました。私に必要なのは、めまいがする程の失敗をした時に必要だったのと同じ、何度でも書き始めるということだったのです。
居場所さえ分かれば、怖いものは何もない
自分の居場所を思い出すことで、2010年には『食べて、祈って、恋をして』の続編を出せました。結果はどうだったかって?失敗でした。しかし私は、そんなことは気になりませんでした。もう何にでも耐えられそうな気持ちでした。呪縛から解き放たれ、ただ文章を書くという自分の居場所に戻れたからです。
その後も作家という居場所に留まり続け、2013年に出した本は好評を博しました。しかし、そんなことは重要ではありません。重要なのは今も新作を書き、その後も次々と書いていけることなのです。もちろん失敗作も多いでしょう。たまには成功作もあるかも知れません。でも自分が生きるべき居場所を忘れない限り、もう予測不能で不安定な結果に左右されることはないでしょう。
生きるべき場所は人それぞれですが、誰でもこの世のどこかに自分より大切なものがあるはずです。耽溺や幻想ではない、価値のある何かです。それを大切にしてください。安心して生きるためのたった一つの秘訣は、自分にとって価値のある居場所を見つけてそこから決して動かないことなのです。
もしもある日、失敗や成功が原因でそこから閉め出されてしまったら、全力で戦いましょう。居場所を取り戻すのです。それが唯一の方法です。努力を惜しまず熱心に、深い敬意をもって取り組んだなら、必ず愛情が呼び覚まされます。私の長年の経験が断言しています。ただひたすらにやり続け、やり続け、やり続ける。そうすればきっと問題は解決するはずです。――ありがとう。(拍手)
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