リーダーシップに関して数々の著書を持つサイモン・シネック氏が、リーダーに本当に必要な「安心感」について具体的な例を取り上げながら語っていきます。リーダーとして上に立つ人はどんな行動を示すべきなのかの参考になるのではないでしょうか。
ここでは、リーダーシップの権威とも言える、サイモン・シネック氏がTEDで行ったプレゼンテーションの内容を全文書き起こしでお送りします。
スピーカー
サイモン・シネック氏/マーケティング・コンサルタント
見出し一覧
・数々のヒーローの「愛がある」行動はどこから来たのか?
・周りとの「信頼と協力」こそが自己犠牲の精神を生み出す
・リーダーは組織の中の「親」のような存在であれ
・「親」のようなリーダーが生み出した数々の成功例
・優秀なリーダーの条件は進んでリスクを冒し、犠牲になること
動画
数々のヒーローの「愛がある」行動はどこから来たのか?
ウィリアム・スウェンソン大尉という人物がいるのですが、2009年9月8日にとった行動によって議会名誉勲章を授与されました。
その日、アメリカ軍とアフガニスタンの部隊がある地域を移動していました。会見に向かうアフガニスタンの政府高官を護衛するためです。隊列は待ち伏せに遭い、3方向から攻撃を受けました。スウェンソン大尉が特に評価されたのは、銃弾の飛び交う中、負傷者を救出して死者を収容したことです。
彼がある軍曹を助けるため、仲間と共に救護ヘリに向かっていた時のことです。いつもとは違って、この日は偶然にもヘリに乗る衛生兵のヘルメットに小型カメラが付いており、一部始終を記録していたのです。映像に写っていたのは、スウェンソン大尉が首を撃たれた軍曹を運ぶ姿です。負傷兵をヘリに乗せると、スウェンソン大尉はかがんでその人の頭にキスをしてから、他の人を助けるため戻っていきました。
私は映像を見て「こういう深い愛がある人間はどこから現れるんだろう?あれは一体何なんだろう?」と思いました。愛がある行動は非常に深い気持ちから生まれます。深い気持ちには確かに愛があります。そして、「どうして自分の周りには愛がある行動をする人がいないのか?」と思いました。軍隊では、他人のために犠牲になる人間に勲章が与えられますが、ビジネスの世界では利益のために他人を犠牲にする人間にボーナスが与えられます。まるで正反対でしょう?だから「深い愛がある人間はどこから現れるのか?」と考えたのです。
最初は、彼らの性格がいいため、奉仕の精神を持ち合わせているのだと考えました。しかし、それは本質とは異なっていて、重要なのは環境だと気付いたのです。環境さえ整えれば、私たちには素晴らしい行動を取ることができる力があり、さらに重要なのは、誰もが深い愛を発揮する能力を持っていることです。
周りとの「信頼と協力」こそが自己犠牲の精神を生み出す
光栄にも、人を救うために自分の命を顧みない「ヒーロー」と会って話す機会を私は持つことが出来ました。「どうして自分を犠牲にするのか?なぜ自分が犠牲になる行動を取ったのか?」と聞くと、ほぼすべての人は「他の人も自分のために同じことをしたでしょう」と言います。これは深い信頼と協力の感覚です。信頼と協力が大事なのです。ただ難しいのは、信頼と協力は誰かに指示されて強制されるものではない点です。「信じてくれ」と言うだけでは信じてもらえません。「協力しろ」と言うだけで協力するようにはなりません。気持ちが信頼と協力を生むのですから。
では、この信頼と協力はどこから生じるのでしょうか?5万年前の旧石器時代、人類が誕生したばかりの頃に遡ると、私たちを取り巻いていたのは生命の危険に満ちた世界です。あらゆる力が全力で私たちを殺しにかかります。別におかしなことではありません。その力とは、気候かもしれないし、資源不足やサーベルタイガーかもしれません。みんな私たちの寿命を縮めるように働く力です。
だから人類は、社会的な動物に進化し、私が「信頼の輪」と呼ぶ所属の感覚を持つことができる集団の中で、共に暮らし働くようになりました。集団の中で安心できるようになると、自然な反応として生じるのが信頼と協力です。信頼と協力を持つことには利点があります。眠る時にも部族の誰かが見張ってくれる信頼感があります。お互いを信頼しないなら、誰も見張らないでしょう。生き残るためには適さない戦略です。
現代においても同じことが言えます。世界は危険に満ちています。生活を脅かし、成功を阻み、チャンスを奪うものもいます。経済は浮き沈みが激しく、株式市場は予測できない。新しい技術の影響で、ビジネスモデルが一夜にして時代遅れになる危険性があり、ライバルが自分を潰そうとするかもしれない。ライバルが自分の企業を倒産に追い込むか、そこまでいかなくとも成長を妨げ、全力で仕事を奪いにくるかもしれません。この力はどうすることもできません。力は常に存在し、無くなることはありません。私達に変えられるのは、組織内のあり方だけです。
リーダーは組織の中の「親」のような存在であれ
組織内のあり方を変化させる上で、リーダーシップが重要になります。リーダーが方向性を決めるからです。リーダーが組織内の人々の生活と安全を優先するよう心がけ、自分達の利便さや目に見える成果を犠牲にして、安心感と集団に属している実感を得られるようにすれば素晴らしい結果が生まれます。
飛行機で旅行していた時、ある出来事を目撃しました。自分の番号が呼ばれる前に搭乗しようとした乗客を、ゲートの係員がまるで犯罪者のように扱いました。少し早く搭乗しようとしただけで怒鳴りつけたわけです。だから私は「なぜ人を家畜のように扱うんだ?もう少し人間らしく接することはできないのか?」と言いました。すると係員は「でも規則通りにしないと、クビを切られてしまいます」と言い返してきたのです。係員から伝わってきたのは不安とリーダーへの不信感です。サウスウエスト航空を利用したいと思う理由は、優秀な人材を採用しているからではなく、従業員がリーダーを恐れていないからです。もし不安や不審感があれば、私達は自分を守るために時間とエネルギーを費やさざるを得なくなります。それが組織を弱体化させる原因なのです。組織の中に安心感があれば、自然にお互いの才能と力を合わせてがむしゃらに働き、外部の危険に立ち向かってチャンスをものにできるでしょう。
優れたリーダーとは、例えるなら親のような存在です。素晴らしい親は何をしているのでしょうか?子どもにチャンスと教育を与え、必要なら罰だって与えるのが良い親の素質です。すべては子どもが成長し、自分より大きなことを達成できるようにするためです。
優れたリーダーも同じです。部下にはチャンスと教育、必要なら罰を与えて自尊心を育み、「失敗してもいい」と挑戦する機会を与えます。すべては部下が自分達の想像を超えるものを達成できるようにするためです。
「親」のようなリーダーが生み出した数々の成功例
チャーリー・キムは、ニューヨークのハイテク企業、「Next Jump」のCEOです。彼は「家族の生活が苦しい時、子どもをクビにしようと考えるだろうか?そんなことはありえない。では、なぜ自分の組織の人間をクビにしようと考えるのだろうか?」と主張します。チャーリーは終身雇用制度を採用しました。Next Jumpに就職したなら、成績が悪いからといってクビになることはありません。何か問題があれば指導と支援をしてくれます。悪い成績を取った子どもに親が指導と支援をするのと同じように。
対照的に銀行のCEO達は多くの人から深い怒りや憎しみを買っています。彼らは不当に高額な給与やボーナスを貰っていますが、問題は金額ではなく彼らがリーダーシップの定義に反しているところにあります。彼らは深く根付いた社会的契約に反しています。自分の利益を守るために部下を犠牲にし、それどころか利益を守るために進んで部下を犠牲にします。だから多くの人が腹を立てるのです。金額のせいではありません。1.5億ドルのボーナスをガンジーに出して怒る人はいるでしょうか?2.5億ドルのボーナスをマザー・テレサに出したら不満が出るでしょうか?出るはずがありません。優れたリーダーは利益のために人を犠牲にはしません。彼らはあっさりと利益を犠牲にして、人を救おうとするでしょう。
ボブ・チャップマンはアメリカ中西部で製造業大手の「Barry-Wehmiller」という会社を営んでいます。ボブの会社は2008年に不況に見舞われて受注が急に3割も減りました。大規模な製造会社にとってこれは死活問題です。それまで通りの雇用を維持できなくなりました。1000万ドル節約する必要があったため、他の多くの会社がするように役員会で人員削減が協議されました。でもボブは人員削減を拒否しました。彼は社員を単なる頭数としてではなく、心がある人間として見ていたのです。心がある人間を減らすというのは頭数を減らすよりはるかに難しいのです。そこで会社では休暇プログラムを作りました。秘書からCEOまで、全員が無給の休暇を4週間取ることになりました。休暇は好きな時期で良く、連続して取る必要もありません。
ここで重要だったのは、計画の発表の仕方でした。ボブは「仲間の一部が大きく苦しむより、皆が少しずつ苦しむ方がいい」と言ったのです。この発言で従業員の士気が上がりました。結果として会社は2000万ドル節約できました。
さらに重要な点は、従業員がリーダーに守られていると感じた時の自然な反応である、信頼と協力が生まれたことです。予想外のことでしたが、自然発生的にお互いに休みを融通し始めました。ゆとりのある人が余裕のない人と休みを交換するのです。誰かが休暇を3週間しか取らなくてもいいように5週間休む人が現れました。
優秀なリーダーの条件は進んでリスクを冒し、犠牲になること
リーダーシップとは地位ではなく選択です。組織の最上層にいながらリーダーとは呼べない人々をたくさん知っています。彼らは権力を持っているので、誰もが彼らの言うことに従いますが、誰からも信頼されていません。その一方、組織の底辺にいて権力は持っていないにも関わらず、リーダーと呼ぶのにふさわしい人々もたくさん知っています。彼らがリーダーにふさわしい理由は、自分の周辺にいる人全員の面倒を見ることを選択したからです。これこそリーダーのあるべき姿です。
戦地にいる海兵隊員の話を聞きに行く機会がありました。海兵隊には上官は最後に食事する習わしがあるそうです。あるとき、部下の食事が終わる頃には上官の食べ物は残っていないことがありました。戦場へ戻る時、部下達が自分の食事を少しずつ上官に持ってきました。自ら率先して犠牲になる人間こそリーダーです。
繰り返しますが、誰よりも先にリスクを冒す人間こそリーダーにふさわしいのです。部下が安心できるように考え、自らは犠牲になる選択をする人間こそリーダーと言えます。そして、選択によって自然と人々が皆のために犠牲を払うようになります。皆のために、血と汗と涙を流してリーダーのビジョンを実現させようとします。「なぜ他人のために血と汗と涙を流すのか?」と問われたら、「彼らも自分のために同じことをしたでしょう?」と優秀なリーダーは答えるでしょう。優れたリーダーがいる組織で働きたいとは思いませんか?
どうもありがとうございました。
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