法人減税で新たな財源のターゲット
先進国の中でも比較的高かった日本の法人税だが、産業界からの長年の訴えがやっと実ろうとしている。安倍総理が6月13日、現在は35%の法人実効税率を、2015年度から数年間で20%台に下げる方針を明らかにした。財務省の資料によると、韓国は24%。企業誘致に積極的なシンガポールに至っては17%と破格の引き下げをしている。日本企業がグローバル競争を勝ち抜く上で、法人税の引き下げは必要だった。
しかし、日本国の財政は世界最悪規模の債務を背負っている。財政再建を進める上で、主要な財源である法人税の取り分を減らすわけだけから、政府税調や財務省は当然、新たな財源確保に躍起になっている。その中で現在、標的にされているのが認定NPO法人制度の税制優遇措置だ。
優遇税制見直しの議論
認定NPO法人制度とは、公益性の高い仕事など一定の水準を所管官庁に認められたNPO法人。2011年の税制改正により、認定NPO法人に寄附をした個人や法人は、所得控除や税額控除を認められることになった。
カイケイ・ネットをお読みの税理士で、NPO法人をクライアントに持つ方も制度運用の相談に乗った方もいるだろう。寄附文化がなかなか定着しない日本社会にあって、節税インセンティブを与えることによって、NPO活動を促進しようという実に合理的な制度だった。
ところが今年4月、政府税調が「租税特別措置法」の全面見直し・廃止・縮小の方向性を打ち出し、認定NPO法人の優遇税制を見直しの対象にしたのだ。これに対し、一部のNPO法人は危機感を募らせ、見直しをやめるように署名集めを始めている。
財務省の陰謀説も飛び出す背景
税制改正された2011年に起きた東日本大震災からの復興では、まさにNPO法人の活躍なしには進まなかったプロジェクトが多数ある。中には、NPOの名ばかりで補助金を乱用した不届きな組織もいたが、大半のNPO法人は限られたリソースの中で行政の手が届かない支援をしてきた。
たとえば市役所が避難所にいる住民への対応で手いっぱいというときに、在宅の支援者にきめ細かい支援をする。ビジネスの知見が乏しい役所の職員に変わり、IT企業に勤めた経験のあるNPO法人のメンバーがスキルを生かして復興ビジネスの枠組みづくりをするといった具合だ。
法人税を1%引き下げると、4,700億円の減収といわれ、税率を5%切って20%にするだけでも2兆数千億になる。その穴埋めの候補に挙げられるにしては、認定NPO法人制度の減税額など、たかがしれている。
そのため、NPO制度の推進をしてきた民主党から自民党に政権が再交代し、この間の国政選挙でNPOを支援してきた議員が永田町からいなくなったのを奇貨とした「財務省の陰謀」(NPO関係者)という見方すらもある。
しかし震災で明らかになったように、ソーシャルビジネスは社会に必要不可欠である反面、その担い手は官公庁とも、民間企業とも異なる立場でないと難しい。その活動を支える最低限のリソースを賄わなければならない。今後の税制見直し論議の中で、注目されるトピックになりそうだ。
(文/新田哲史=コラムニスト)
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