「グロースハックが、産業になればいいと思うんですよ。」
KAIZEN platform Inc.の須藤氏は、「Ad Engineering Summit(AES)」の2日目に「グロースハック進化論」というテーマで行われたセッションの中で、グロースハックの未来についてこう語っていた。
今回はそのセッションにおいて、グロースハックの第一線で活躍する5名の登壇者達が語った内容を「真のグロースハックが行き着くグロースハックの未来」と題して紹介していきたい。
今回このセッションに参加したのは、平石大祐氏(InnoBeta)・林宜宏氏(pLucky)・梶谷健人氏(VASILY)・須藤憲司(KAIZEN platform)と、ファシリテーターの渡邊大介氏(CyberAgent)の5名だ。
なぜバスワードとなったのか
ますはじめに、昨今バズワードとなっている「グロースハック」とは一体どのようなものなのかということについて、議論が交わされた。
グロースハックという言葉が広く知られ、使われるようになってきたのはここ2~3年のこと。そもそも、どうしてグロースハックという言葉がここまで一般的になってきたのだろうか。その背景にある要因の1つとして、スタートアップの会社が増えてきたということが挙げられる。
グロースハックは特別なことではない
「スタートアップの企業というのは、常に失敗の連続。そのような状況下において、会社やプロダクトがグロースするということは、スタートアップで働く人々を癒してくれる心の拠り所なんです。」VASILYの梶谷氏は、こう語る。
また、グロースハックの様々な施策を実行することによってグロースレートが上昇し、それが高ければエグジットもできるようになる。このような背景があり、スタートアップの増加とともにグロースハックという言葉が広がってきたのだ。
しかし、グロースハックで実行する施策というのは、グロースハックという言葉が広まる前か以前から大きくは変化していない。これまでもプロダクトの成長のために各企業が行ってきたことが、上記のような状況の下で概念化され、グロースハックと呼ばれるようになっただけ。つまり、グロースハックとは新しいことでも特別なことでもないのだ。
グロースハックの大きな勘違い
グロースハックに関して、多くの人が勘違いしやすい点がある。それは、グロースハックとはマーケティングコストを減らすための代わりとなる施策だという考えである。
日本において、「グロースハックとは、お金をかけないで出来るマーケティング手法である」という考えを持つ人は非常に多い。しかし、グロースハックの本質とは 「プロダクトをユーザーにとってより良いものにするための手段」であり、 「会社、そしてプロダクトをグロースさせるためのグロースハック」なのである。
グロースハックとは、資金が無い企業が行なう草食系マーケティングではなく、予算を削るためのエコ型マーケティングでもない。より深く、しかし簡単な部分にグロースハックの本質はあるということを覚えておかなくてはならない。
グロースハックに最も重要なこと
グロースハックの施策を打つ際に最も重要なこと、それは リテンションである。グロースハックのような細かい施策を実行していくのは、機会ではなくその組織内にいる人であるが、その時の人材の使い方・動き方がグロースハックには最も重要な要素となる。
これは上記の 「マーケティング=グロースハック」という間違った概念に基づくことであるが、日本企業では、マーケティング担当とプロダクト担当との距離感が遠く、かつあまり関係性が良くない場合が多い。
一方、アメリカのシリコンバレーにおいては、プロダクトの中にマーケティング担当がいる場合が多く、その距離感や関係性が非常に良い。そのため、グロースハックの本質である「プロダクトをより良いものにする」というところに対して一緒に向かっている意識が強いのだ。その結果として、グロースハックとして行なう施策もより効果的に機能するようになる。
事業部間の距離を近くする
ある企業では、製品開発とマーケターとの会話が一切無いという状態もあるという。グロースハックには、「プロダクトをより良いものにする」というマインドをより一層意識して、もっと近い距離感で進めていくことが重要なのである。
では、グロースハックに関するこのような考え方がより広く浸透した先には、一体どのような未来が待っているのだろうか。
グロースハックが行き着く未来
セッション中にそれぞれが口をそろえて、 「グロースハックも、マーケティングのように進化していって欲しい」「グロースハックが産業になれば良い」という意見が挙がっていた。
マーケティングにも、今のグロースハックのようにバブル期とも言える時期があった。マーケティングの概念は、かつてバズワードとなった時期に色々な人々によって実践され、洗練されて今のような大きな概念として普及している。
何度も繰り返しになるが、「グロースハック=マーケティング」ではない。むしろ、グロースハックの対局にある概念がマーケティングと言っても良い。グロースハックの本質的な意味が、誤解されることなく正しい認識で広まっていくことこそが、マーケティングと同じように洗練されていくために重要な事である。
グロースハックを産業へ
また、グロースハックがバズワードで終わってしまうかどうかということは、スタートアップの経営者や大手代理店にもかかっている。
スタートアップで動く経営者が率先して、面倒臭いことをどうやって解消していこうとするかということが大切。さらに、こうなればグロースハックしていると言えるような簡単な共通指標ができ、それを代理店が産業にしていくかどうかということにもグロースハックの未来がかかっているのだ。
現在グロースハッカーとして企業で活躍している人は多く、それは今後も増えていくだろう。組織内でグロースハッカーとして働く全ての人によって、グロースハックの未来は作られていく。より高い視座を保ち、その自覚を持つことが、今後の日本企業を育て支えていくために必要なことなのである。
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