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株主にとっての違い
株主にとっては、IPOとM&Aは、株式が売却できる状態になり、回収可能になった点では共通します。VCをはじめとする投資家の立場からすると、回収段階に入ったという点で、一般的には前向きな“Exit”手段として、IPOとM&Aは二つの並立的な選択肢ということになり、この意味で、両者が一括りで表現されるケースが多いと言えます。
しかし、株主の立場からみても、IPOとM&Aは大きく違う面があります。まずは概要をみてみましょう。
<IPOとM&Aの違い(株主の立場)>
(1) 株式売却の可能性
IPOの場合は、株式の譲渡制限が外れ、金融商品取引市場というマーケットでの売却が可能になったものの、実際に売却できる保証はありません。IPO後の株価が順調に上昇しないと、自らの取得価格を下回ってしまうこともあります。
大株主にとっては、当該会社の株式について流動性が高くないと、大量の株式を売却することは難しく、また、自らが大量に株式を売却すると株価が下がってしまうというジレンマに悩まされる場合もあります。
そもそも、大株主は、IPOにあたり主幹事証券会社からロックアップを要請され、一定期間株式の売却を制限される例も多いのが実情です。そのため、VC比率が高い会社の場合、IPOは必ずしも望ましいExitにならない可能性もあります。
会社の役職員が株主の場合には、インサイダー取引規制の関係で、売却できるタイミングがかなり制約され、また、役員が株式を売却することは、安定株主対策の面からも事実上難しいケースも多いのが実情です。
これに対して、M&Aの場合は、買収者との合意に基づいて決まった価格で、決まった株式数を一挙に売却できるため、株主にとっての投下資本の回収という意味では、IPOに比較して、簡易かつ確実な面があります。未上場企業の株式の売却については、インサイダー取引規制の適用はなく、有報提出会社等の特殊な例でない限り、TOB規制等もないので、手続的な制約も軽いと言えます。
(2)種類株主の優先権
IPOの場合には、日本の実務上は上場申請前に種類株式は全て普通株式に転換され、通常は転換比率が1対1なので、種類株主も普通株主と同じ取り扱いになります。
これに対してM&Aの場合には、最近は種類株式を発行して、M&Aに関して、種類株式についての優先分配の定め(いわゆる「みなし清算条項」)を合意するケースもあり、その場合には、種類株主が優先的に売却資金を取得できることになります。
(3)企業価値向上の利益
IPOの場合、IPO後にさらに株価がどんどん上昇していけば、その上昇分の利益も獲得できる可能性があります。これに対し、M&Aの場合には、基本的にはそこで売り切ることになるため、M&A後の企業価値向上の利益を取り込むことはできません。(但し、稀に、M&A後の業績に連動して売却代金等の調整を行うことがあります。)
(4)実現可能性
IPOにおいては、一般投資家に対する責任の観点から主幹事証券会社及び証券取引所によってIPOの審査が行われ、重要なリスクをはらんだ状態でのIPOは難しいケースがありますが、M&Aの場合には、買収者がそのリスクを受け入れればディールが成立するため、IPOが難しいケースでも、M&Aが成立することはあります。
また、株式譲渡のディールだと買収に応じることについて原則として全株主の合意が必要になるので、その点はM&Aの方がIPOよりハードルが高い面があります。但し、この点は、強制売却についての合意をあらかじめ定めておくなどの対応を行っておく場合もあります。
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