「No」には種類がある
皆さんに一つの質問をしてみたいと思います。ある懸案の条項について相手が「No」を言って一向に受け入れてくれません。なぜでしょうか?「回答:それは相手にとって不利益だからです。」と思われましたでしょうか。それは本当でしょうか?
実際には「No」にはいくつかの種類があります。私自身は、勝手に以下のように命名しています。(というか、このブログで勝手に命名してしまいました。)
①真正No
②偽装No
③誤解No
1. 真正No
真正Noというのは、文字通り、シンプルに相手に不利益であって単純ストレートに受け入れられないNoです。例えば、「全ての知的財産権は甲に帰属する」と規定について、一方は今後の開発のために知的財産権が取得できないと困るし、他方も自分が開発したものの知的財産権が奪われてしまうのは許容できないというような規定です。
この「真正No」が、収益分配等の重要な経済条件、知的財産権の帰属、競業禁止事項などの重要ポイントで生じると、交渉ブレイクの可能性があるので、重要事項についての「真正No」が交渉の焦点になります。「真正No」は、突き詰めると、飲むか飲まないかという単純な交渉になってしまいます。しかし、当然中間的な妥協案もあるわけで、上記の例だと、共有にする、特定の知的財産権を移転の対象から除外するなどの妥協案を提案して交渉を前に進めるのが得策です。
特に交渉を前に進めるには、この中間的な妥協案を考えることに知恵を絞って早く妥結点を見つけてスピーディーに交渉を成立させるように頑張りましょう。妥協案を見つける方法としてよくあるのは以下の2つです。
①限定を付ける
例:Aに関する一切の事項について甲の同意を要する。
妥協案1
Aに関する●と●の事項について甲の同意を要する。
妥協案2
下記に定めるについて甲の同意を要する。但し、甲は合理的な理由なく同意を拒否しない。
②除外事項をつける
例:甲は、特定事項について保証する。
妥協案1
甲は、特定事項について保証する。但し、●の点を除く。
妥協案2
甲は、その知る限り、特定の事項について保証する。
偽装No
偽装Noというのは、本当はNoではないのだが、他の重要事項を飲ませたいためにあえてとりあえずNoと言っているものです。いわゆる、駆け引きのための偽装的なNoです。
例えば、ある権利のライセンスを与える大企業側とライセンスを受けたいベンチャー企業が交渉をしているとします。大企業側としては、ラインセンスに基づいてベンチャー企業が開発したものの知的財産権を今後の開発のために利用したいと思っていたとします。そこで、ライセンス料をあえて高めに提示して、ベンチャー企業側のライセンス料の金額に「No」と言っておき、ある程度ここを交渉した上で、最終的には、「では、ライセンス料については多少譲歩するので、新たに発生した知的財産権は使用させてください。」という形で落着させるものです。
このようなNoは、相手方としては最終的には譲ってよいと考えていることから、こちらが突っ張るとある程度で容易に突破可能であり、これが交渉のブレイクポイントになってしまう可能性は低いです。相手が交渉上手でなければ、早めにこの点だけ妥協してくる可能性もあります。この「偽装No」は早めにこちらに有利にひっくり返して、重要な争点に交渉を集中させた方が効率的です。従って、「偽装No」については、「ここは飲んでいただけますよね。だって○○じゃないですか。」とちょっと強めに交渉して突破を試みましょう。
誤解No
誤解Noというは、相手がある条件についてのメリット・デメリットや提案した側の意図を誤解していために「No」と言っているものです。
例えば、こちらから双方平等に契約期間中は競業しない旨の提案をしたとします。こちらとしては、それがないと安心して開発に専念できないために提案したものであり、相手が競業しないからこそ、多くの開発費を投入して素晴らしいシステムを開発することができ、それによって双方の収益分配も最大化すると考えて提案していたとします。これに対して、相手企業が「こちらの動きを縛るとは何事だ!」と強硬に拒否してきたとします。提案者側は真実双方の収益分配の最大化を目的に提案しているのに、相手は、活動を制約されるということだけに集中して反対しています。
これは提案者側の収益分配最大化という目的とその実行可能性を理解してもらえておらず、一種の擦れ違い=誤解に基づいて「No」と言われている可能性があります。この「誤解No」が生じると、「うーん、なんで分かってくれないのかな??」というボヤキが発生することが多いのが特徴です。このような「誤解No」は、交渉当事者同士のコミュニケーションの問題で生じてしまうこともありますが、交渉担当者と決裁権者が違う場合に起こることも多いです。
例えば、上記のケースで、交渉担当者は、相手方が提案する収益分配の最大化のために相互の競業禁止は合理的な面があると理解してくれているものの、決裁権者の社長に上げたとたんに、社長が競業禁止規定に激怒して「こんなの受けられるわけないじゃないか。バカモノ!」と一喝されてしまい、担当者としてもワンマン社長に合理性を説明する気力を失い「分かりました。再度交渉してみます。」と引き下がってしまうと、「やはり社長からこの規定はダメだと言われてしまいました。うちは受け入れられません。」という、素っ気ない「No」を食らうことになります。この場面では、上記ワンマン社長は、競業禁止規定の必要性とメリットを全く理解していない可能性があり、その意味で「誤解」が生じています。
この「誤解No」を解決するには「努力」が必要です。誤解なのですから、誤解を解消するべくあの手この手で説明を試みる必要があります。逆に、このような説明努力なしに、「なんで分かってくれないのです?おかしいじゃないですか?」と詰め寄ってみても、「誤解No」は突破できないと思った方がよいです。それでは、相手をイライラさせ、雰囲気の悪化を招くだけで逆効果です。ここは誤解を解くべく説明する努力を惜しんではいけません。不屈のベンチャー精神で頑張るのです。
・徹夜で説明資料を作成する!
・社長との面談を懇願して、社長に直接説明する機会をなんとか設定してもらう!
・相手の交渉担当者の社長向けのプレゼン資料まで作ってあげて、さらには交渉担当者に社長向け交渉に向けてのレクチャーをしてあげる!
単なる「誤解」で不利な条件に甘んじるのはもったいないです。ベンチャー企業にとって重要な条件については、努力で何とか突破するべく頑張りましょう。
まとめ
以上をまとめると、以下のようになります。
真正No:飲むか飲まないかor妥協案の提示
偽装No:強めに強行突破
誤解No:説明努力を尽くすべし!
この「No」はどれ?これを見極めてゴールを目指そう!
U-NOTEをフォローしておすすめ記事を購読しよう