HOME特集 食パンくわえた美少女追いかけて?TOHOシネマズ学生映画祭に行ってきた

食パンくわえた美少女追いかけて?TOHOシネマズ学生映画祭に行ってきた

漆舘たくみ

2017/04/01(最終更新日:2020/01/31)


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「ROMANCE OF THE TURN」提供:TOHOシネマズ学生映画祭実行委員会

3月24日、東京都中央区の映画館・TOHOシネマズ日本橋で、第11回TOHOシネマズ学生映画祭が開かれた。TOHOシネマズ主催し、関東圏の学生たちでつくる実行委員会が運営。全国の学生たちが制作した200本以上の中から決勝に進んだ、4部門計20作品を上映。5人のプロたちが審査に当たった。筆者が特に注目した3作を紹介したい。
学生監督と審査員たち

審査員たち(後列中央)と学生監督

ショートフィルム部門「hina」

ショートフィルム部門は6作品が決勝進出。放送芸術学院専門学校(大阪市北区)の2年・吉岡純平さん(20)が卒業制作として監督した「hina(ひな)」がグランプリに輝いた。また、協賛企業が観客目線で選ぶ「ロボット賞」にも選ばれた。
hinaの主人公 提供:TOHOシネマズ学生映画祭実行委員会

hinaの主人公 提供:TOHOシネマズ学生映画祭実行委員会

【ストーリー】主人公は、地味な女子学生・ひな。髪形が似ていた華やかで美人の同級生に憧れを抱き、ファッションや化粧を真似し始める。自室で姿見に写る自分にほくそ笑む日々。しかし、実家が裕福な彼女と同じ洋服、同じ化粧品を買い続けた結果……ひなの部屋はクレジットカードの明細表で埋っていく。そのうち美人はパリに移住して、彼女がInstagramに投稿する生活は手の届かないレベルに。さらに、一緒に住む友人からは家賃滞納を激怒される。ようやく幻想から目を覚ましたひなは、地道にイベント会場で着ぐるみのアルバイトにいそしみ、自然な笑顔を取り戻すのだった。
hinaの監督・吉岡純平さん(中央)

hinaの監督・吉岡純平さん(中央)

審査員からは「女性監督だと思った」という声が上がるほど、憧れの人に近づこうとする女心を大胆に描写。「人が見せたくない恥ずかしい部分を表現した」点が決め手となった。吉岡さんと脚本の青山勝哉さん(20)は、限られた時間で30人以上の女子学生たちにインタビュー。「女性が服やメークの真似る時の順番や、登場人物の鏡の形や数」など細部までこだわっている。撮影の2週間前に、突如監督に担ぎ出されたという吉岡さん。ロケ地決めやカメラの配置だけなく、予算配分など裏方の仕事にも大急ぎで取り組んだ。
制作してた時は、本当に嵐でした。ロケ地にアポ取ってなかったりトラブルも絶えなくて。マジで喧嘩もしたんですけど、今は『とにかく楽しかった』としか言えません。あと、学校の堀亮平先生と八木真綾先生にも大変お世話になって感謝しかできないです。(吉岡さん)
4月からは吉岡さん、青山さんともに地元の映像制作会社で働き始める。吉岡さんは「社会人になっても楽しいことをしたいです!」と高らかに笑った。

ショートアニメーション部門「はたちオバケ」

ショートアニメーション部門は6作品が披露された。京都造形大学(京都市左京区)の3年・村井野愛(のあ)さんが監督し、スタジオおばけとして3人で制作した「はたちオバケ」がグランプリを獲得した。台詞はほぼなく、音楽と絵だけで20歳を迎えた女性の心の機微を静かに表現。審査員からは「“人間”を描くことに成功している」と高評価を得た。村井さんは「見終わった後にほっとした気持ちになってほしい」と狙いを語る。
ハタチおばけ 提供:TOHOシネマズ学生映画祭実行委員会

はたちオバケ 提供:TOHOシネマズ学生映画祭実行委員会

【ストーリー】とある11月5日午前0時。アパートで一人、20歳の誕生日を迎えた女子大学生の前に、着ぐるみのような三角錐形の黄色いオバケが現れる。朝になり外に出ると、街にはカラフルなおばけたちが至る所で動き回っている。お年寄りのバスの乗降を助けるおばけ、公園の子供たちを見守るオバケ……。大人になるとは、こういうことなのか。夕暮れ時、公園のブランコに腰かけた女学生に、三角錐のオバケがにっこりとドングリを差し出す。彼女は無邪気に遊んでいた幼い時を思い出す。11月6日、目覚めた彼女の前におばけは姿はない。夢だったか。彼女の枕元には、確かにドングリが1つ置いてあった。

準グランプリも傑作

ショートアニメ部門の準グランプリに輝いた「ROMANCE OF THE TURN」も高い評価を得た。制作は、村井さんと同じ京都造形大4年の木村拓さん(22)である。
「ROMANCE OF THE TURN」提供:TOHOシネマズ学生映画祭実行委員会

「ROMANCE OF THE TURN」提供:TOHOシネマズ学生映画祭実行委員会

【ストーリー】サッカー部の万年補欠である男子高校生。寝坊して通学路を走っていると、十字路で食パンをくわえて猛進する女子高生と激突しかけるが……その瞬間、彼女は軽やかに彼の頭上を飛躍して走り去る。「あの子にぶつかったら、何かが変わるかもしれない」そう感じた彼は、毎朝8時30分に必ず爆走している謎の女子高生と知り合おうと、遅刻上等で筋トレに励んで挑戦を続ける。同時に、目標を持ったことで徐々に周囲への劣等感も薄れていく。ぶつかれぬまま迎えた卒業式の朝。最後の通学路で、男子高生は電線や生け垣を使いこなした空中戦の末に、ついに衝突に成功した。ようやく顔を合わせた女子高生は、特に美人でもブスでもない普通の子。彼女は、話しかけようとした少年の胸に咲く卒業記念の造花を目にして、「卒業おめでとうございます!」とほほ笑んで走り去った。名前も連絡先も聞いていない。卒業式にも間に合わない。しかし、自力で目標を達成した彼に晴れやかな気持ちが広がる。十字路には、制服の第2ボタンと食パンが並んで落ちていた。
京都造形大の村井さん(左)、木村さん

京都造形大でグランプリの村井さん(左)、木村さん

木村さんは昨年の第10回大会で王道の恋愛青春物語を上映し、審査員特別賞を受賞。「今年こそ優勝を」と意気込み、あえて青春が始まらない話を卒業制作でつくろうと考えた。声優以外はほぼ一人で作業。平面に見える背景は実は3Dモデルで、視点の自由度を高めて躍動感ある衝突シーンを描いた。努力の結果、栄冠は同じ京都造形大学の後輩に渡った。「悔しいしかない。本当にグランプリを狙ってましたから」と唇をかむ。その目は、フィルムの主人公のように真っ直ぐだ。学生の部活動というと、どうしても基準が明確なスポーツにスポットが当たってしまう。しかし、千差万別である受け手の感性にできる限り訴えようと、映画づくりに情熱を注いだ若者たちにも青春がある。審査員の一人である奥田誠治氏(松竹)は「良い映画は一人では作れません」と映画制作の難しさを語る。賞に輝いた監督も、そうでない監督も、将来映画を撮り続けてほしいと願う。※記事中の学校と学年は、2017年3月時点のものです。

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