HOME特集 一度倒産した企業に入る若者に現役JAL社員が伝えること

一度倒産した企業に入る若者に現役JAL社員が伝えること

漆舘たくみ

2017/03/06(最終更新日:2020/01/23)


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JALロゴ「鶴丸」と辻さん

バブル経済が崩壊してから25年余り。もはや、どれほどの大企業・有名企業が破綻をしても日本人は驚かなくなった。一方、再建のためには新しい人材を育てることが不可欠だ。一度倒れかけた企業に入る若者に、伝えるべきこととは。2010年に経営破綻した日本航空(JAL)で教育・研修を担当する辻大陽(ひろあき)さん(30)に取材した。
JALの社章と辻さん

JALロゴ「鶴丸」と辻さん

破綻した3か月後に入社

辻さんが日本航空に入った2010年4月。JALは3カ月前に会社更生法の適用を申請し、経営再建の緒に就いたばかりだった。当時、ニュースに接した母親からは就職活動のやり直しを勧められたという。「正直、心が折れかかりました」と明かす。
入社時の心境を語る辻さん

入社時の心境を語る辻さん

辻さんの航空業界を志望したきっかけは、家族旅行で乗った機内の思い出である。まだ幼く泣きじゃくる妹をあやす客室乗務員の笑顔が、旅を通して印象深かった。揺らいだ決意を支えたのは、内定式で知り合った同期たちの存在。入社前に自主的に集まる中で「一緒に頑張っていこう」と励まし合ったという。仲間とともに、あの時のJALを再建しようと入社式に臨んだ。

コールセンターで受けた電話

「株券、どうしてくれるんですか!」入社1年目。航空券手配のコールセンターで研修中の辻さんの耳に、株主の女性から怒声が響いた。ひたすら電話口で詫びるしかなかった。JAL辻さん4
実は、その時まで私にとって経営破綻はどこか他人事でした。お叱りの電話を受けて、ああ、本当に自分の会社は破綻しているんだなと。(辻さん)
入社以降、職場では予想以上に「お客さまに申し訳ないという空気」を肌で感じていたという。受話器を置いた辻さんの肩に、社員としての責任感が重くのしかかった。

50人の会場が埋まった日

電話受付や客室乗務員といった現場職を経て、入社5年目に採用担当に配属に。前年度に3年ぶりに再開した業務企画職(一般の総合職)の新卒採用のため、初めて企業説明会の壇上に立つことになった。50人ほどの会場が埋まるのか。もし空席が目立ったら……辻さんは心配で仕方がなかったという。しかし、それは杞憂に終わった。
立ち見が出た時には、関心を持つ学生の多さがうれしかったです。学生さんたちが純粋にJALに入りたいと言ってくれたのが印象的でした。
2015年春、最終的に業務企画職に約70人を迎え入れた。

講義から実践へ

辻さんは「飛行機は一人では飛ばせません」と繰り返し強調する。破綻前、同社は社内研修は必要最低限で、「隣で働く人の仕事を詳しく知らない状況」だったという。JAL辻さん6現在は専門部署を設け、縦割りで官僚的だったグループ約60社を、階層や職種の分け隔てなく横断するプログラムに変更。毎年、辻さんら年代が異なる約10人の専属チームが毎年、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論をしてプランを練る。内容は、講義中心からチームワークが必要な手作業を求める実践形式に大幅に変更した。
これまでは“とりあえず教えておきたい”が先行していました。教え込むより、実践し話し合って振り返る機会を増やしています。「これをやれ」ではなく、一人ひとりが自分の考え方で気が付いてくれることを重視しています(辻さん)

一人ひとりと向き合う

実践と振り返りを重視した取り組みは時間が掛かる。グループ全体に入ってくる社員は毎年約1000人を超える。しかし、辻さんは組織としての方針の一致と個性の尊重を両立するために手間は惜しまない。毎年、新入社員たちと「できる限り向き合う」ことを強く意識する。JAL辻さん7ある東海地方出身の女性社員は、遠く離れた沖縄が初任地に決まり不安の色を隠さなかった。個別に「期待されている証拠だから楽しんできなさい」と伝え、見送った。2年後、教育・研修担当として東京に戻ってきた彼女が内定者セミナーで堂々と話す姿に感動を抑えられなかった。
全体の研修後も、配属先の上司に様子を尋ねます。最初に言っただけで終わらせようと思えばできますが、点ではなく線でフォローします。1年目、2年目、3年目と同じ言葉を繰り返して、新生JALの理念(JALフィロソフィ)を伝えています。
JALの強みは「人」だと強調する。
「あの時に会ったあの人に魅力を感じる」という状態まで育てることを目指します。

取材後記

取材前、広報担当者から「経営破綻について尋ねて構いません」と案内をもらった時はとても驚いた。決して触れられたくない昔話とせず、課題を乗り越えていこうという気概の表れだろう。企業の再生を、国の支援のおかげ、カリスマ的な経営者のおかげと一言で説明するのは簡単だ。しかし、実際に現場で働く従業員たちの意識改革もまた、現場の人間が担っていることを忘れてはならない。12年9月にJALが東証に再上場を果たしてから17年で5年目を迎える。もうすぐ4月。今年も各地で入社式が行われる。※初公開時、「50人の会場が埋まった日」の段落で経年表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。(2017年3月6日19時)【関連記事】●いちばん危ないのは何もない時…命を預かるJALの整備士に受け継がれる教えの意味金谷さん中村さん小さめ

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