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本人の意思による“臓器提供”は3年間で34人 残り117人は“家族の承諾”で

朽木誠一郎

2013/11/22(最終更新日:2014/01/12)


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123RF

厚生労働省は10月29日に『臓器移植の実施状況等に関する報告書』を発表し、本人の意思表示による脳死判定がこの3年間で34人にとどまり、2010年7月17日の『臓器移植改正法(正式名称:『臓器の移植に関する法律の一部を改正する法』)施行前と大きな変化がなかったことを明らかにした。

本人の意思による臓器移植が増えていないことで“臓器移植改正法の内容が未だ一般に知られていない”という事実が浮き彫りになった。しかし、そのどこが問題なのか。ここで考えてみたいのは、全脳死判定数151人のうち、残り117人はいったい誰の意思で臓器を提供したのか、ということだ。

答えはまぎれもなく、脳死者の家族である。

2010年に施行された『改正臓器移植法』により、本人の意思が不明な場合でも、家族の承諾のみで脳死臓器提供が可能になったことはご存知だろうか。つまり“本人の意志が不明である”ことは、“拒否の意志表示がない”ことと同義となったと考えてよい。

 ここ日本においては、“臓器移植を前提とした場合にのみ”、脳死が人の死と定義される。つまり、臓器提供の意思がなければ、脳死判定自体が行われない。これは、患者が明らかな臨床的脳死状態(脳幹反射の消失・自発呼吸の停止など)にあっても、臓器提供の意思がなければそれを脳死、すなわち人の死とは認めないことを意味する。

つまり、医学的にはまったく同じ状態であっても、“死んでいるかどうか”が”臓器提供の意思の有無”によって決定されることになる。筆者は医療に携わる立場にあるが、この点についての違和感から、いまのところ『臓器提供意思表示カード』には移植を拒否する意思を表示している。

現行の制度では、もし自分に脳死臓器提供への違和感があったとしても、カードなどにより積極的に拒否の意思を表示するか、家族に日頃から脳死臓器提供を拒否する意思を伝えるかをしていない限り、自分の意志に反して自分の臓器が提供されることは十分にありえるためだ。

人の意思とは不確定なもので、もしも日頃から臓器の提供を希望していたとしても、意識を失う最後の最後では、自分の臓器を他人に提供することをためらうかもしれない。そもそも、自分の意思を最もよく理解しているのが家族である保証もないしかし、死後表明することのできない意思を代行できるのは法律上の家族に限られる。

脳死臓器移植が取り返しのつかない人の死という問題をはらんでいる以上は、不確かな人の意思をなるべく揺るぎないものにするための熟慮が必要だろう。また、ライフスタイルが多様化した社会において、自己決定権を代行する相手を家族に限る現行制度は、あまりに画一的と言わざるを得ない。

断っておきたいのは、脳死臓器移植は例えば末期の腎不全などにおいて唯一の根治治療となるという点である。該当するレシピエント(受給者)はこの瞬間も文字通り命がけでドナー(提供者)を待ちわびている。筆者は脳死臓器移植という医療技術そのものを否定するつもりはないし、病に苦しむ患者が救われることを願ってもいる。

しかし、現行制度に倫理上の問題点があるのもまた事実であり、その問題点は看過されるべきではないだろう。迷いを抱えたまま自分の臓器が提供されることを望まないのであれば、現状では脳死臓器提供を拒否するしか方法がない。

一日も早く臓器の移植に関する法律が再改正され、それが本当に“人の意思”を尊重するものになることを祈っている。


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